「徒然海月日記」から海の話が含まれている日記のみ抜粋したバックナンバーです

2010年 10月8日(金) 曇りのち夜雨

北東の風 やや波あり 水温27度

 昨日までの夏モードはすっかり影を潜め、どんより曇った空に鉛色の海。
 たった1日で太陽が恋しくなってしまった。

 さて、この稿ではなるべく海の話題に触れないようにしようとしているのだけれど、このところやや多くなっているので今日は他の話題にしようと思っていた。
 なのにまた海の話題ね。とにかく聞いてくれい。

 まずは、久しぶりに出会ったジョーフィッシュ・キレンジャー。

 この季節はチビチビが定着し始める時期なのか、このところ各所でうちの奥さんがジョーフィッシュを見つけているのだが、この日見つけてくれたジョーフィッシュの巣穴を眺めていると、すぐ近くに別の巣穴があることに気がついた。それがこの黄色の個体。
 これがまた小さい小さい。小指の先ほどもないくらい。巣穴周囲のナガウニのトゲと比べると、その小ささがわかる。
 このまま成長して、来年までずっといてくれればいいんだけどなぁ……。

 お次は、ちょっとマニアックなところで、ハナヒゲウツボ。
 ハナヒゲウツボのどこがマニアックなのだと怒ることなかれ。ほら、この子は黒から青になりかけているところなのだ。

 これまでゲストをご案内中に何度か目にしたことがあるものの、写真に残せたのは初めて。
 これだけを観ると、なんだか冴えない色でパッとしないウツボでしかないけれど、成長とともに黒から青色に変わると知っていると、こんな薄汚れた色でもパッと輝いて見えるのだった。

 そして。
 今日の本題はこれからだ。
 それは午前中の一本目のことだった。ゲストはタイからお越しの現地スタッフの方々だったので、当然のようにセルフで潜ってもらっていたから僕はカメラを持って遊んでいた。
 で、リーフ際近くのガレ場をゆっくり泳いでいるときのこと。
 なんとなく殺気を感じたのでリーフ側を見てみると………

 キョ……………巨大なサメがッ!!

 パッと見約3メートルの巨体が、悠々と泳いでいるのである。その瞬間から3秒間ほど、僕は「もうこれで死んだ……」と諦めてしまった。

 が、よくよく観てみるとなんだか様子が違う。
 コイツは…………………

 トンガリサカタザメだ!!

 ご存知のとおり、トンガリサカタザメはサメと名づけられてはいるもののエイの仲間で、どんなに体が大きくったって海底の貝や甲殻類などを食べている魚。だから僕に命の危険は無い。

 しかも幸いなことに、悠々と泳いでいる彼が、クルッとコースを変えて僕がいるほうに向かってきた。
 チャンス!!

 が。
 手にしているのはマクロレンズなのだった………。

 というわけで、証拠写真。

 エイの仲間とはいえ、タマンの群れを引き連れて泳いでいる姿は貫禄たっぷり。振り向いて間近に3メートルものこんな魚がいれば、きっと気を失っていたろう……。

 ダッシュすれば間近で眺められる距離だったものの、写真に全身を入れようと思ったら、相当離れなければならなかった。
 ああ………。今日が晴天で、カメでも撮ろうとワイドレンズにしてあれば。せめてコンデジをポッケに入れておけば………。

 あ、今思いついてしまった。
 マクロレンズだけだとしても、どうせだったらCTスキャンのように、体の一部ずつを撮ってあとで繋げてしまえばよかった!!

 いずれにしても後の祭り。
 ダイビングを初めて24年にして、初めて出会ったトンガリサカタザメ。
 ある意味、観られる島に行けば観られるマンタを観るよりも貴重なこの体験は、以後二度と味わうことはないだろう……。