「徒然海月日記」から海の話が含まれている日記のみ抜粋したバックナンバーです

2011年 5月12日(木) 大雨

南西のち北の風 海を見てない 

 足早に去っていった台風のあと。
 さぞかし空は見事な五月晴れになる…………

 ……のかと思いきや、バケツどころか50mプールをひっくり返したかのような大雨に。

 掲示板でとーまさんが書いてくださっているとおり、ほんとに凄まじい雷雨だった。
 これは超発達した積乱雲を伴う前線の通過のせいだ。
 沖縄の梅雨といえば、もともと「やるときはやるぜ!」ってくらいにドドーッっと降るものとはいえ、近頃はそのメリハリが、さらに極端になっている気がする。

 このメリハリは、おそらくこの先台風にも影響すると思われる。
 ショボイ台風がポコポコできる一方で、育ったらとことん育つ超強大スペシャルストロング台風が、この夏沖縄を席巻することだろう。

 くわばらくわばら………。

 話は変わる。
 春といえばウミウシが多く見られる、ということはつとに有名ながら、昨年の春は、普段見かけない種類はそれほど目にしなかった。

 ところが今年はちゃんと「春」で、4月からGWにかけて、それなりにウミウシのオンパレード。
 なかでもうれしかったのがこの子。

 フチベニイロウミウシ。
 メレンゲウミウシのようなフォルムと動きながら、白い体を彩る色が全然違い、その名のとおりアカククリ。

 これ、GW後半になってゲストが減り、フリーでカメラを持って入っていたから良かったものの、カメラを持っていないガイド中にこんなのを見つけていたら、地殻に足が突き刺さるくらいに地団太を踏んでいたことだろう。

 地球のためにも、カメラを持っていてよかった……。

 ウミウシが多いこの春は、どういうわけかヒラムシも多かった。
 ヒラムシはウミウシにそっくりな色形ながら、まったく異なる生き物のグループ。ウミウシがナメクジの親戚であるのに対し、ヒラムシはヒルの親戚になる。
 それぞれ軟体動物門、扁形動物門と、生物分類学でいう「門」の段階で異なる生き物なのだ。

 「門」というのがどれくらい大元の部分かというと、我々人間が属している「脊椎動物門」には、哺乳類も鳥類も爬虫類も両生類も魚類もぜ〜んぶ含まれる。

 だから、ウミウシとヒラムシの違いからすれば、ヒトとオニダルマオコゼは同じ仲間である、といえるのだ。

 そんな異界の生き物、ヒラムシ君の「春コレ」。

  

      
        
これ、ヒラムシに擬態したウミウシってことはないですよね?

 ほんの10日間くらいの2、3本のダイビングで、こんなオンパレードになるなんて。

 ただ残念なことに、一大ブームとなったウミウシと違って、ヒラムシにはまだこと細かく名前がつけられていないため、どんなに色とりどりの種類を集めても、みんな「ヒラムシの仲間」になっちゃう。

 博物学的知識と興味が仕事に結びつく欧米と違い、水産資源的に無価値の生き物を研究していては仕事にならない日本では、このような生き物に生涯取り組む、という人はなかなかいない。

 でも、今ならヒラムシ業界にはまだたくさん空席があるはずだから、誰にでも第一人者になれる可能性があるはず。

 これからの若い研究者たちに期待しよう。