「徒然海月日記」から海の話が含まれている日記のみ抜粋したバックナンバーです

2011年 6月16日(木) 晴れ

南の風 夏至南風 水温26度(10m以浅27度)

 夏至南風が終わらない。
 夏至南風というのは、カーチバイとかカーチベーなどと呼ばれる梅雨明け後に沖縄地方に吹く南風のこと。

 夏の様相を呈してきた太平洋高気圧のヘリに沿って吹いてくる風が、九州あたりに鎮座している梅雨前線に向かっていく勢いで合わせワザになるため、けっこう強い風になる。

 ようするに、九州南部あたりの梅雨が明けないことには、この風はおさまらない。
 観測史上最速の梅雨明けを果たした沖縄とはいえ、他の地域の梅雨明けが例年どおりになってしまうと、つまるところこの夏至南風は例年以上に長く吹き続けることになる。

 とはいえ南よりの風なので、港が北東に向いている水納島にいる我々にとっては、同じく島の北東側に点在する砂地のポイントで潜るぶんにはまったくモンダイはない。

 ただ、たとえばその時間強烈に流れているから流れにあまり影響されないポイントに行きたいとか、ご滞在が長くなって、砂地のポイントばかりずーっと続いているという場合に、岩場のポイントに行けないのがややツライ。

 サンゴの復活が目覚しい南側のリーフのサンゴを、梅雨の中休みのべた凪ぎの日にでもワイドで撮りたいなぁ……とヒソカに企図していたというのに、台風は来るわ、台風でサンゴが破壊されるわ、梅雨が明けたと思ったら夏至南風で荒れたままだわ………。

 人生、思いどおりにはいかない。

 話は変わる。
 ルリスズメダイという魚をご存知ではない方はまさかいらっしゃらないだろうと思う。

 この魚ね。

 アスファルトジャングルで過ごされている方々に、情け容赦なくトロピカル光線を発射するお魚さんのひとつだ。

 しかし写真の子は、フツーのルリスズメではなかった。
 といって、模様が異なるとか種類が微妙に違うとか、そういう話ではない。
 いる場所がフツーではなかったのだ。

 ソラスズメダイとルリスズメダイを混同されている方にとっては実感がないかもしれないけれど、ルリスズメダイという魚は、本来リーフの内側でしか見られない。
 リーフの外でのダイビングで観られる、同じように青く見える魚は、みんなソラスズメダイだ。

 だから水納島でルリスズメダイを観ようと思ったら、ビーチを泳ぐのが最も手っ取り早い。そして逆に、通常のファンダイビングでは観ることはできない。

 ところが。
 写真の子は、リーフ際の切れ込み奥深くとはいえ、明らかにリーフの外側になる場所にいたのである。

 ただし、周りには彼以外他に一匹としてルリスズメダイはいない。
 一匹のオスが多数のメスを掌握するハーレム状の暮らしをしているっぽいルリスズメなのに、たった1匹でいるなんてのはフツーありえない。

 これ、おそらく先だっての台風で、リーフの中から弾き飛ばされてきたんだろうと思う。
 ほうほうのていで安住の地に落ち着いたまではよかったものの、そこに仲間の姿は皆無。

 せっかく立派に育ったオスなのに、その文字どおりの雄姿を見せるべき相手がどこにもいないなんて……。

 スズメダイライフも、どうやら思いどおりにはいかないらしい。