「徒然海月日記」から海の話が含まれている日記のみ抜粋したバックナンバーです

番外編
陸亀日記

2011年 6月24日(金) 晴れのち雨

南東の風 台風 

 現在、沖縄本島の遥か西側を北上中の台風5号。
 その進路予報的には、本島地方に関する限り、ふー、やれやれ……ととりあえず安堵の息を漏らせるはずだった。

 ところが夜になって、突如慶良間諸島や粟国方面に暴風警報が出た。

 台風の暴風域が、ジャンプアップして拡大してしまったのだ。

 台風の進路がもう少し東よりだったら、水納島も暴風域にスッポリ飲みこまれていたことだろう。

 いまいち実感がない方にとっては、強風域だ、暴風域だといってもその違いにピンと来ないかもしれない。
 でもその差には、サナギマンとイナズマン、旧ザクとゲルググ、日本の原発行政とフランスのそれくらい、歴然たる違いがあるのである。

 なんでその「中間域」がないのか不思議といえば不思議ながら、吹けば飛ぶような我が家の場合、暴風域に入るか入らないかというのは、アエロフロートに乗るか、エミレーツ航空に乗るかくらいに生命に関わる重大問題なのだ。

 夏至南風を吹かせている気圧配置との合わせワザでそれなりに強い風だったものの、今回は幸いにしてギリギリのところで強風域で済んだから、そりゃあもう前回の3号に比べればパラダイスのようなもの。

 そんなパラダイス台風の最中、はたしてガメラ君は無事だろうか??

 連日の暑さで日中はいつもおうちの中でグデーッと寝ているガメラ105号。おかげで「客寄せパンダ」作戦は見事に企画倒れになっている。
 で、物珍しさに立ち寄る島のご婦人連も、

 「動いている姿を観たことがない」

 口を揃えてそう言う。
 4時半くらいに来ると、外に出て餌を食べてますよと知らせはするものの、おそらく大城のおばあは、いまだに一度もガメラ君が外に出ている姿を観たことがないと思われる。

 そんなガメラ君なのだが、この日は朝から風が強くて涼しかったためか、餌を持ってくる前から外に出て散歩をしていた。

 ホシガメ同様ガメラ君も大好物のクワの葉を、そのあたりを歩き回って集めてからガメラ君にあげにいくと、先客にナリコさんが。

 「朝来たけど全然出てこなかった。さっきバナナ持ってきてホレ、ホレってやっておびき出した」

 …って、1日にいったい何度来てるんだろう??
 そのナリコさんの手には、ドラゴンフルーツの花が。剪定されて落とされたものだろう。

 「食べるかねぇと思って」

 ガメラ君、恐る恐るながら食べていた。
 すでに彼にとってナリコさんは、かつて知ったるヒトという存在なので、触っても怒らないし、餌を差し出すと食べに来るようになっているのだ。

 その傍らに、クワの葉を置いてみた。
 すると、ガメラ君は即座にクワへ。

 やはり好物なのだ。
 最初はアネックスの目の前に生えまくっているウシクサを美味そうにバリバリ食べていたので、こりゃ餌やりが楽チンだ、と喜んでいたのも束の間、試しにクワの葉もあげてみたところ、彼の嗜好は完全にクワ化してしまい、ウシクサには見向きもしなくなってしまった。

 …手間がかかる。
 って、いつの間に僕がガメラ君の餌当番になっているのだ??

 「だってガメラ君はだんなのカメだもん」

 いつの間にそんな話が???

 ともかくそんなわけで、元気にクワの葉を食べるガメラ105号君の雄姿をここに。

  

    

     

 ……この姿を大城のおばあに見せてあげたい。

 ところでこのガメラ105号君が「ケヅメリクガメ」という種類の陸カメだというのは周知のとおり。
 にしても、まさかカメが蹴りワザを遣うとは思えないのに、蹴爪っていったい??

 と思っていたら、さすがに当然蹴りワザはないものの、彼の脚の付け根にはこんなものが。

 なるほど、これを蹴爪に見立てているわけか。

 この後脚に比して、前脚はとても力強く大きい。
 子供の頃に飼っていたクサガメとかイシガメとかミドリガメではそんな記憶がないし、今いるホシガメを観ても、前後の脚にさほどの差はない。

 それに比べてこのケヅメリクガメのパワーバランスの違いときたら!

 この前後の脚のサイズの差って、どこかで見覚えがあるなぁ……

 あ!

 ウミガメだ。
 ウミガメのバランスにそっくりじゃないか。
 でも、ウミガメの前脚が後脚よりも発達しているのは、海で泳ぐための形態の進化であって、四肢で力強く踏ん張る必要がある陸ガメが、なんでこのバランスに??

 逆にこのバランスありきだったカメがやがて海にも進出していったということなら、ひょっとしてウミガメたちとゾウガメ、ケヅメリクガメといった巨大陸ガメたちって、進化の途中までは同系統だったりするのかな??

 なんてことを、ムシャムシャ葉っぱを食べるカメさんを観ながら考えていた、台風前の午後4時半なのだった。