其之二十三
バブルコーラル、もしくはタマゴヒレサンゴ、ミズタマサンゴと呼ばれるサンゴは、知らない方が見たら何かの卵としか思えない形をしている。
でもそこには上の写真のように小さなエビが隠れていたり、ガラス細工のようなハゼが乗っかっていることもあるため、カメラを抱えた多くのダイバーにチェックされる機会が多い。
かなり有名なサンゴなのだ。
そんなバブルコーラルの表面に、シミのようなものがついているのをご覧になったことがあるだろうか(冒頭の写真)。
沖縄のような亜熱帯地方よりも、より南方の熱帯域のほうがその頻度は高いようで、南方の海で撮影された写真では、表面全部がシミだらけ、というものも目にしたことがある。
そういった写真を観るたびに、熱帯のバブルコーラルには変な模様がつくのだなぁ、と軽く考えていたものだった。
まさかそのシミが生き物だったとは!!
それを教えてくださったのは、ご存知我らが巨匠コスゲさん。
毎夏恒例のコスゲさんのスライド漫談ショーinクロワッサンにて、バリだったかどこかの海で撮られた写真で教えてくださったのだった。
それ以来、潜るたびにバブルコーラルチェック。
さすがに南洋の暖かい海で暮らすバブルコーラルとは違い、水納島で見られるものは、表面にウジャウジャと…というわけにはいかないものの、注意して見るとたしかに、表面にこのシミをつけたバブルちゃんをときおり見かける。
このシミが生き物かどうかというのは、実際に海中で見ればすぐにわかる。
なにしろ移動速度が思いのほか速い。
チョン、と触れてみると、ムニョニョニョニョニョニョ………とサンゴの表面を移動するのだ。
残念ながらこの場にて動画をご覧いただくことができないので、その動きで生き物であると認識していただくわけにはいかない。
でも、この写真をご覧いただければ一目瞭然。
暗闇にきらりと光る二つの目。
どうみても生き物でしょう?
この点が本当に目かどうかは知らないけれど、彼はヒラムシの仲間なのだそうだ。ヒラムシといえば、ウミウシにそっくりな模様をしていながら、ウミウシとはまったく異なるグループの生き物。
こうしてバブルコーラルの表面にいる姿を見れば、明らかに違う系統の生き物であることがよくわかるのだった。
それにしても、なんの情報もない中でこのシミを生き物だと気づくためには、余程の好奇心と粘り強さと、それ以上のイタズラ心がなければならなかったことだろう。
たしかに、コスゲさんほど適した人はいない…。
※追記(2014年)
その後このような生き物の研究も着々と進んだようで、アカデミズムの第一線から当コーナーに救いの手を差しのべてくれるドクター・ワカ氏によると、現在ではこれらはワミノアと呼ばれており、ヒラムシの仲間ではなく、系統的にはより人間側?に近づいた「無腸動物門」というグループになるそうだ。
※追記(2017年)
この年(2017年)には、どういうわけだかひとつのバブルにギュッと団体になっていることもあった。
見たところ冒頭の写真のものたちとはビミョーにタイプが異なっているぽいから同じ種類ではないかもしれないけれど、まるで葉の裏に集まるカメムシのような密集度。
繁殖のためのイベントなのだろうか?
※追記(2021年11月)
このクリーチャーがシミのようにつく対象はバブルコーラル限定というわけではないらしく、被覆状サンゴにもワラワラとついていた。
98年ほどではないにしろかなり大規模に白化が起こった2016年は、水深10mよりも深いところにある被覆状サンゴのなかにも白化してしまうものがいて、白くなってしまっていた分、このクリーチャーの存在が浮き彫りになっていた。
2017年追記のタイプに似ている。種類はともかく、指示棒などでチョイと触れるとモゾモゾモゾ……と動くあたり、同様の生き物であると思われる。
一方、ミドリイシ類やヘラジカハナヤサイサンゴにもたくさんついていることがあることも知った。
表面にいる数からすると、そろそろ水納島周辺も南方系になってきているってことなんだろうか…。
指示棒でチョン…と触れるとモゾモゾ動く様子や形状からも、これはバブルコーラルについているものと似たタイプのように見える。
ハナガササンゴも暮らしの場のようだ。
ワミノアの仲間たち、なにげに大繁栄しているらしい…。