其之三十八
普段ダイビングをしている際に、冒頭の生き物をここまでクローズアップしてマジマジと見つめるヒトはそうそういないので、のっけから「なんじゃこりゃ!?」ってところかもしれない。
変態社会系クリーチャーにしてはわりと有名なコイツは、一般的な人の視野で観るとこのように見える。
まるでサンゴの貯金箱。
周囲には他に何も無い、という場所なのであればともかく、わざわざ貯金箱に注目するヒトはそうそういないし、↓このような場合…
…クリスマスツリーのようなイバラカンザシたちやチョコンと載っているカスリヘビギンポに目を向けはしても、片隅のこのクリーチャーに真っ先に目を向けるヒトもいない。
でもひとたび気になりだすと、そこらじゅうの塊状サンゴが貯金箱になっていることに気づく。
この貯金箱のコイン投入口が冒頭の写真で、その名をウミギクガイモドキという。
ヒメジャコガイと同じ仕組みなのだろうか、サンゴの表面に貝殻を埋没させているため、見えているのは肉の部分なのだけど、サンゴの成長加減によるのか、このクリーチャーが二枚貝であることがよくわかる状態になっていることもある。
閉じていると別モノに見えなくもないところ、開くと…
…同じ貝であることがわかる。
開いている時に見える外套膜は、変態的につぶさに見ればそれはそれは美しい。
縁のほうに並んでいる赤面した目玉おやじのような丸い玉は「眼点」と呼ばれるもので、解剖学的に「眼」ほど性能がいいわけではないもののちゃんと光を感じる器官だから、何かの接近を感じると貝を閉じて身を守る。
ただし彼らの眼点の性能なのか、それとも性格的なモノなのか、冒頭の写真のようにカメラを近づけて撮る際もそれほど苦労することはない。
緊急避難のために閉じるわけではなくても、まるでクシャミをするかのようなアクションを見せてくれることがある。
サンゴにとりついたその時から埋没するように育つらしく、なかには幅1cmにも満たないチビターレもいる。
かとおもえば、海中で10cmくらいに見えるほど、でっかく育っているものもいる。
ここまででっかくなるとさすがに自分の都合でサンゴを調整できないのか、貝がゆるくVの字になっているところが面白い。
このようなでっかいものまでいるサンゴには、ウミギクガイモドキが多数いることが多い。
なんだか街頭募金箱がズラリと並ぶ駅前のような…。
注目するとそこかしこにいるウミギクガイモドキ、ここまで知ってしまえば、これでもうアナタの眼は貯金箱に釘付けだ。
すると、楽しそうにしているラブラブな2人を目にしてしまい…
…孤独なチョンガーダイバーは、貝にまでジェラシーを感じることになるかもしれない…。