D逆襲のチャーシュー(3月4日)

 翌3月4日。
 入間から八王子までは、直線距離ならわりと近いのだけれど、これが鉄道となるといささか不便になる。なにしろ西東京周辺の鉄道網は、南北に繋がる路線があまり発達していない。

 JR八高線という、線路だけ見れば極めて便利そうな路線も、その本数はかなり限られており、元加治駅から利用するには、すぐ隣にある駅にのるためだけにいったい何度乗り換えねばならないか。
 ともあれ、それが最も便利な方法なので、それに乗るしかない。

 この日実家を後にするわけだから、当然我々は旅行者スタイルの大きな荷物を抱えているわけで、そんな状態でわざわざ八王子に行くなんぞ、できることなら謹んで辞退したいところである。
 しかしながら、なにぶん今回のことではすっかりお世話になっているウロコムシ氏のワガママ、かなえてあげねばなるまい。

 で、荷物をズルズル引きずっていくことを覚悟していると、なんと父ちゃんが八高線の金子駅まで送ってくれるという。
 八高線の駅であればどこであれ、一度乗ればそのあとは目的地まで乗りっぱなしでいいわけだから、これほどありがたいことはない。

 というわけで、八高線金子駅まで送ってもらい、父ちゃんとはそこでお別れした。いいお天気だったから、一刻も早くグランドで畑仕事をしたかったであろう父ちゃんは、いつになく固い握手をするやいなや、颯爽と帰っていった。

 さて、人生初の八高線。
 この金子駅が……。
 なかなかに見事な駅舎なのだ。

 湯野上温泉駅のような茅葺き屋根とはいかないまでも、見事に素朴な「駅舎」って雰囲気。すぐそこが東京という場所にこういう駅がまだまだ残っていたなんて…。
 駅舎の中も、なんだか昔懐かしい感じがした。

 さすがに囲炉裏は無かったけど(笑)。

 この駅舎から続くメインストリートには、桜の古木がずらりと並ぶ並木道になっていて、花の季節にはさぞかし素晴らしい景観を作り出すであろうことが容易に想像できた。後刻ウロコムシ氏にうかがったところによると、鉄っちゃんの間では当然のようにビューティスポットとして名を馳せているという。

 早めに着いたので、付近をプラプラしつつ時間を潰しているうちに、やがて電車が到着。
 生まれて初めて八高線に乗った………。
 昔は、列車の車両ごとに色が違うといった、アジアのどこかの発展途上国のごとき路線だった八高線も、今ではちゃんと統一カラーになっているようだ。
 一路北八王子駅を目指す。

 その北八王子には、約束どおり「あの方」が車で待ってくれていた。
 電車の本数があまりにも少ないので、まるで空港に迎えに来てもらうかのように、どの便に乗る、という待ち合わせの仕方をしなければならなかったのだけれど、ウロコムシ氏は東飯能発の時刻で指定するものだから、金子駅から乗ることになった我々は、その電車が金子駅では何時発になるのか、いちいち時刻表を調べなきゃならない羽目になった。

 おまけに、改札はひとつだから、というので安心して改札を出ると、そこから先は二手に分かれているではないか。どっちに行けというのだ。
 跨線橋の東西から地上を見渡してみると……

 あったあった、ウロコムシさんの車が停まっている。
 車があった旨うちの奥さんに告げると、すぐ眼下に見えているというのに、

 「どこ?どこ?」

 という顔をしている。
 ほら、そこ!!

 「あれ??白色じゃなかったっけ??」

 ひと月ふた月前の話ならまだわかる。
 でも、車に乗せてもらったのはたった3日前ですぜ………。

 ともかく下に降りて車を覗き込むと、Tバック雑誌を読んでいた彼と目が合った。<一部脚色あり。

 出口が2つあるじゃないですか!!

 「そうでしたねぇ」

 涼しい顔をしていう。
 さて、ウロコムシさんのリムジン、略してウロジンに乗せてもらい、我々は一路、件のラーメン屋を目指した。
 北八王子なんて、閑静な郊外といえば聞こえはいいけど、ようするに田舎である。ナンチャッテ東京である。
 そんな田舎のただ中にある静かな住宅街を抜けるとちょっとした大通りがあって、その一画に……

 安斉亭があった。
 見たところ「町のラーメン屋さん」って感じのたたずまい。出前のバイクがカッコイイ。
 ここでウロコムシさんが我々に見せたかったものとは……

 これだ!!

 で…………でかっ!!

 なんだこれは!?
 あのぉ……僕はチャーシュー麺を頼んだんですけど……

 なんとこれがチャーシュー麺なのだった。
 灰皿が乗っかってるのかと思ったじゃないか……。


厚さに負けず劣らず、面積に占めるチャーシューのこの割合も凄い!!

 この分厚くでっかいチャーシューこそが、このお店のウリだったのである。ワンフィンガーを軽く越える分厚さのチャーシューが、ドドンとラーメンを覆い隠しているではないか……。

 ところが、これがまた抜群の美味さ!!
 こんなに分厚いのに、美味しく煮込まれたこのチャーシューの柔らかさときたらどうだ。それでいて味もコクもしっかりしていて、パサパサ感など微塵もない。
 そして、胃に優しくしみじみと美味しい醤油ダシ。
 完全にツボである。

 それでいながらお値段は950円。
 ヘタしたら肉だけでその値段を取られそうなものなのに、東京も捨てたものではない……。

 ラーメン屋さんといえばチャーシュー麺しか頼まない僕も、こんな凄いのは見たことがなかった。たしかにこれは、見せたくなりますねぇ、ウロコムシさん!!
 八王子くんだりまで来た甲斐は、間違いなくあったのだった。北八王子、エライッ!!安斉亭バンザイ!!

 ありがとうございました、ウロコムシさん!!では我々はこのへんで……

 ……とはならなかった。
 ウロコムシさんオススメの魅惑スポットがこのあとに控えていたのである……。