4・銀座でキレンジャー

 サラリーマン天国ツアーの翌日は、いよいよメインイベントの日。

 前夜、光溢れる銀座の街を歩き、奇跡的にホテルまで帰りついたから、隊長がホテルにいらっしゃることは間違いはない。

 であれば、そのメインイベントに臨まれる隊長の姿をさっそく追いたいところ。

 が。

 あの様子だと、回復までには相当時間がかかると思われる。
 ここはしばし隊長の回復を待つことにしよう。

 隊長の回復を待つ間、ここで時間はメインイベントの翌日へと飛ぶ。

 すなわち、12月1日日曜日である。

 メインイベントを終えたあととはいえ、ここからがいよいよクロワッサン銀座彷徨記の本番開始だ。

 とはいえ前夜もまたしたたかに痛飲してしまった。
 彷徨したいのはやまやまながら、なんだか朦朧としている。

 朦朧としながらも、冬晴れの清々しい空の下、我々は銀座の街に繰り出した。
 寒さが厳しいかと覚悟していたのに、日中お日様の下にいたら、上着を脱いでも平気なほどの陽気に包まれている。

 そんな絶好のお散歩日和、お昼までの時間つぶしと腹ごなしと酒抜きを兼ねて、有楽町駅方面まで歩いてみた。
 新橋からこのあたり一帯までの、
JRガード下の昭和チックな魅力ときたら……。

 有楽町駅から東京駅方面にチョコチョコ歩くと、かなりアヤシゲなディープゾーンがあって、さらにその先に「丸三横丁」なる魅惑ゾーンがあった。

 ガードしたのアヤシゲな回廊から、さらに枝分かれして東京国際フォーラム側へと続くスージィグヮーだ。
 残念ながらこの日は日曜日だったため、そのスージィグヮーに並ぶお店は全部休みで、通りの入り口は木戸のように封印されていた。

 そこから覗いてみると……

 ここもまた、サラリーマンの聖地なのだろうなぁ…。

 この奥に「谷ラーメン」という店があって、昔ながらのラーメン屋さんのようなので是非訪れてみたかった。

 そのあと東京方面まで少し歩き、久しぶりに目にする黄色く色づいた銀杏の木に感動しつつ、あと一歩でリニューアル後まもない東京駅、というところでUターン。

 外堀通りを再び有楽町方面へ歩いていると、思いがけないところで予想外の店を発見した。

 横浜にこの店ありと知られる酒屋、君嶋屋である。
 その銀座店があったとは。

 うちの奥さんは毎年冬になると、この君嶋屋の本店通販サイトで魅惑の日本酒をこれでもかというくらいに購入しているから、なんとも馴染み深いお店なのだ。

 旅行後Mihoさんから教えていただいたところによると、ここでは店内で立ち飲みもできるらしい。
 綺羅星のごとくズラリと並ぶ選り取りみどりのお酒を飲めるなんて、なんと素晴らしいお店だろう。

 が。

 この朝の僕は、酒を見ただけで吐いてしまいそうなほどに朦朧としていたため、とてもじゃないけど立ち飲みなんて無理ッ!!

 ……って、昼前からじゃさすがに立ち飲みはやってないですかね?

 というわけで、特にお酒に後ろ髪を引かれることもなくさらに歩いていると、なんとなんと、ひと目見ただけで「酒」をイメージしてしまうこの方が!!

 オタマサが師と仰ぐ……いや、特に仰いでいるわけではないけど、ともかくも「酒場放浪記」の吉田類が実物大の看板になっていた。

 ここは、銀座わしたショップの隣にある、高知県のアンテナショップ。土佐生まれということで、吉田類が宣伝に一役買っているようだ。

 この高知のお店のほかにも、銀座には地方のアンテナショップが数多い。
 岩手だかどこだったかのお店のウィンドウ越しにずんだ餅が見えたので、思わず買ってしまうところだったけど、沖縄から来た人間が東京でずんだ餅買ってどうすんだということに気がついて思いとどまった。

 吉田類の顔を間近に見てもリバースしそうにならなかったところをみると、どうやら僕の中のアルコールさんはほどよく消化されたらしい。
 ただ、間もなく昼前だというのに、お腹がそれほど減っていない。

 しかしこの日この時このお昼には、どうしても寄ってみたい場所があった。

 なんと銀座の街に、カツカレーをこの世に生み出した店があるというのだ。
 関口宏の銀座にこだわった番組で初めて知って以来、いつかチャンスがあれば食べてみたいなぁと思いながらも、銀座でカレーを食べる機会なんて、おそらく自分の人生のなかではあり得ないだろうと思っていた。

 なので今この時こそ、千載一遇のチャンス!!

 ホントに全部食べ切れるのか?という胃腸状態ながら、キレンジャーとしては元祖カツカレーを前にして敵前逃亡するなんて許されない。

 というわけで、隣にある有名な煉瓦亭には目もくれず、やってきました、グリルスイス♪

 何がスイスなんだかよくわからないけど、いわゆる昭和な洋食屋さんだ。
 飲食店が銀河の星よりも多そうなこの銀座で昔からずっとこの瓦斯灯通りに存在し続けているのだから、きっとお味も確かなものがあるのだろう。

 いろいろメニューがあるなかで迷わずオーダーしたのは、もちろんこれ。


「ホントに食べられるの?」とやや心配げなオタマサ。

 その名も「千葉さんのカツカレー」♪

 読売ジャイアンツで、長嶋茂雄の前に背番号3をつけていた往年の名選手・千葉茂氏がこの店に来た際、

 「(どちらも食べたいから)カレーライスにカツレツ乗っけてくんない?」

 などというワガママをこいたことから生まれたのが、カツカレーなのだとか。

 だからといって、千葉選手の現役時代を知るわけでもなし、「千葉さんの」という部分にはことさら思い入れがあるわけではない。
 とはいえやはりキレンジャーとしては、カツカレー発祥の地となればまさに聖地中の聖地なのである。

 これでフツーの状態だったら迷わずビールというところながら、ここで無理をしたらこの先もたないことが珍しくハッキリと自覚できていたので、この銀座彷徨記中、この昼だけは酒を断った我々だった。

 というか、うちの奥さんなんてコーヒーとマンゴープリンをオーダーしただけですぜ。

 洋食屋に昼時に2人で入って、カツカレーひと皿を2人で分け合うってのはどうなのよ………。

 それはともかく、もともと二日酔い時にはカレーを欲する体質の僕は、この魅力的な一皿を目にした途端、ジワジワと食欲が湧いてきた。

 さっそく一口。
 いやはや、やっぱり…

 カレーライスも天才である♪

 二日酔いの頭が、瞬く間にクリアになっていく。
 (※個人の感想です)

 でまたこのヒレカツもやはり、サクッとしていて美味しいのなんの。二日酔いの胃袋が、なんの抵抗もなく受け入れていく。
 東京って一般的にとんかつが美味しいんですかね?

 あー、美味しかった!!
 念願のカツカレーに大満足しつつ、お会計を。

 この店のレジコーナーには、先代だか現役だかわからないけど初代女将さんがずっと座っておられて、お会計をしつつ客一人一人にキチンと挨拶をなさっている。
 うちの奥さんもまたそのレジコーナーまでお支払いに行き、1900円チョイを支払うために5000円札と小銭を渡したところ、女将は8000円を返そうとするのだった。

 銀座のど真ん中にありながらも、なんとなく沖縄チックなところが、こういう街で長生きするお店の秘訣なのかもしれない??