9・魅惑の穴子丼
〜高はし〜
翌朝、すなわち12月2日月曜日。 前夜は鈍器で後頭部を殴られたかのごとく爆睡したため、快適な目覚めで朝を迎えることができた。 さっそく出撃!! 7時過ぎにホテルを出た。 やって来ました、築地場外市場♪ ここまで、ホテルから歩いて20分ほど。 ちなみにうちの奥さんの旧姓は築地という。読み方も漢字もそのまま同じツキジさんだ。 で、ついに初めての築地市場!! ……と言いたいところながら、実はメインイベント当日の午前中に、下見を兼ねて一度ここまで足を運んでいたのだった。 我々と立場を同じくする「他所から来ました」モードのヒトでいっぱいだったのだ。 そういう賑わいはそれなりにホッとする光景ではあったんだけど、昼前になると場外市場も場内もやたらと混んでいて、何かを買ったり観たりするのはおろか、歩き回ることすらおぼつかないほどの混雑はやはり閉口する。 その日は土曜だったからひときわ混んでいたのかもしれない。 であれば、朝早くから来てみよう! と思い立ってのこの朝である。 だから、土曜日には行列状態だった山長の玉子焼き1本100円も並ばずにすぐさま買えるし、 マグロと記念写真を撮っても周りに誰もいないから恥ずかしくない。 そして今朝我々が目指していた店がここ。 その名も高はし。 築地市場といえば魚というイメージだけど、もともと場内にある食堂は市場内で働く人々の胃袋のためにあったものだから、カツ丼だとか牛丼、親子丼といった、パッと出てきてサッと食べられて力がつく料理を出す店が、今もなお「名店」に名を連ねている。 しかしはるばるここまで来た観光客が、限られた滞在時間で何もわざわざカツ丼や牛丼、親子丼などを食べている場合ではない。 やはり目当ては魚である。 なかでもこの「高はし」はちゃんとした魚料理が出てくることで名高く、店頭には 「今、さわらが凄く良いのです」 という力強いメッセージの後に、鰆の塩焼きだの煮つけだの、メバルの煮つけだのといったどれも垂涎の定食料理がオススメメニューが紹介されていた。 高はしは築地市場内で随一を誇る人気店のため、昼時には長蛇の列になること必至。店頭の看板には、ご丁寧にも並び方の手順まで書き記されていた。 その点まだ朝8時だと、待つこともなくすんなり入店できた。 入店早々キリンラガーの大瓶を頼みつつ、もちろん焼き魚メニュー…… ……には行かない。 今朝は起きた瞬間から穴子モードになっていたのである。 一方オタマサは、充実の昼を迎えるために慎重を期して切干大根のみ(カツカレーに引き続き、穴子丼もまた一杯のかけそば状態)。 一方僕が頼んだ穴子丼には、シラスおろしがついていた。 これを観るだけで、まだ見ぬ数々の魚料理のグレードの高さがうかがい知ることができる。 そして!! ついに出てきました、穴子丼!! いやはや、穴子仮面はもう、ビジュアルだけでヨダレの大洪水。 でまた味噌汁。てっきり刻んだネギが浮いているのかと思いきや、これすべて三つ葉。 なんとも上品な香りに包まれている。 ともかく今は、穴子丼を実食。 う……………… 旨いッ!!ああ、早起きして良かった……。 このあたりじゃ当たり前なのかもしれないけど、山葵をおろした本当の山葵がまた素晴らしい。 もうこの山葵だけでビールもう1本いけそうだ。 観光客価格化して久しいらしい丼一杯はけっしてお安くはなかったものの、「とりあえず生きているうちに一度は」的素晴らしいお味を体験することができ、今日もまたシアワセに包まれながら…… ……って、まだ朝8時半ですけど。 入店時にはなかった行列が、すでに我々が食べ終える頃には出来上がりつつあった。 今朝の大目標を無事クリアし、満ち足りた気持ちで再び外に出る我々なのだった。 |