8・福江をさるく・3〜福江港界隈編〜

 明けて2月21日。

 酔っ払ったとはいっても飲み始めが早いために床に就く時間も早く、翌朝の目覚めは快適そのもの。

 部屋のカーテンを開けてみると、どうやらこの日のお天気は上々のようだ。

 睡眠時間はタップリとったし、いいお天気だし、ホテルで朝食をいただくわけでもないから、とっとと散歩に出ることにした。

 朝日を浴びて輝く商店街を抜け、港に出てみた。

 福江はその昔は「深江」と呼ばれていたそうで、昔から河口が深い入り江になっている天然の良港だったのだろう。

 今のように埋立地が沖に伸びて立派な港湾になる以前は、唐人町に限らず河口域の川岸の随所が荷揚げ場、船着き場だったに違いなく、そんな昔の名残が今の河口付近にも見られる。

 今では人の出入りすらできなくなっているようながら、この川岸に船を係留し、階段を使って行き来する時代も昭和の頃まであったのだろう。

 その対岸の新しい埋立地側の岸壁には、漁船がビッシリ停泊している。

 この写真でいうと左側になる新しい埋立地は広大で、集合住宅が建ち並ぶほか、公園、グランドも整備されている。
 岸壁付近には製氷工場など漁協関連の施設がいろいろあり、最も沖側に福江魚市場がある。

 毎朝水揚げされる魚のセリが行われているところだ。
 是非とも見学してみたいから、場所の確認をしておこう。

 まぁしかし、街中と違って吹きさらしの海辺の寒いこと寒いこと。

 昨日に比べれば幾分風も穏やかになったとはいっても、晴れているから放射冷却の威力は凄まじく、岸壁で風に打たれていると海辺で八甲田山になってしまいそうだ。

 そんな岸壁で、博多から来たフェリー「太古」とアオサギのツーショット。

 ここで注目すべきは、もちろんアオサギではなくフェリーである。
 フェリーがちゃんと時刻表どおり運航しているということは、海況に鑑みてもすなわち漁獲は前日より増えているはず。

 今宵はさらに期待できそうだ♪

 魚市場に到着してみると、さすがにセリはすべて終了し、片づけ作業の段階になっていた。
 一応「関係者以外立入禁止」という標識も地味に出ているものの、「漁業関係者」とは書かれていないから「見学」もれっきとした関係者に含まれるに違いない。

 いずれにしろ見学しやすそうな雰囲気だったので、明日は是非早朝に訪れてみることにしよう。

 その帰りがけに、作業中の漁業関係者にぃにぃが、フォークリフトで何かを釣り上げようとしているところに通りかかった。

 はて、何を釣り上げようとしているのかな……と見ていたオタマサは、その正体を知るや

 「ギョギョギョッ!!」

 と、突如サカナくん化した。

 フォークリフトで釣り上げていたモノとは、これ(作業中のにぃにぃにお断りの一言を入れてから撮ってます)。

 ギョギョギョッ!!カスザメだ!!

 サメと言いつつエイの仲間の軟骨魚類。
 こういうものも水揚げされるのだなぁ。

 ところでこれ、丁寧に氷に浸かっていたようだけど、れっきとした水産資源なんだろうか??

 このあとどうなるのか知りたい……。

 再び福江川河口域に戻ってきた。
 先ほど漁船群を見ていたところからさらに川を下るほうに進むと、ビヨーンと一直線の防波堤が伸びている(先ほどいたところは写真奥)。

 その先端にあるのが、前日に対岸から見た常灯鼻だ。
 新埋立地側から見るとこんな感じ。

 せっかくだから、間近で観てみよう。

 一直線の突堤を渡ると途中から石垣の堤になり、頑丈そうな石垣の土台に設けられてる階段を上ると、金比羅さんの鳥居が。

 海のことならよろずおまかせの金比羅さんなのである。

 そしてその先に、拝殿も兼ねているのかもしれない灯台が鎮座している。

 この灯台、今もなお電気が通じて点灯可能なようながら、この日夜中に対岸から見てみると、明かりはついていたものの点灯しているのは傍らにあるポールの電灯で、灯台自体は灯っていなかった。

 なにかここ一番のときに灯くのだろうか。

 ちなみにこの常灯鼻、灯台に続いている堤は、1959年当時はこんな感じだったそうな。

 現在はこの灯台の土台周辺の一部しかない江戸末期に築堤された石垣が、当時はほぼほぼ全面的に遺されていたのだ。

 背後の街並みも素敵だけど、このゆるやかにカーブを描いた堤の味わい深さときたら……。

 現在の一直線の堤とは、一味もふた味も違って観える。効率一辺倒では、美しい景観は生まれないってことなのだろう。

 ところで、この常灯鼻に守られている福江川河口は、船を係留しておくにはうってつけの穏やかな水面なのだけれど、そんな穏やかな水面の恩恵に与っているのは船だけではない。

 彼らもまた、穏やかな水面で羽を休めているのだ。

 当初はずっと、群れ飛ぶ彼らを遠目にカモメと思っていたところ、ひとたび鳴くや正体判明。

 これはウミネコである。

 本部町の渡久地港では冬場に見ることがあるかないかくらいなのに対し、日本全国津々浦々の海辺では、最もフツーのカモメ類だそうな。

 ん?

 ちょっと待てよ。

 ひょっとして随分前に伊根の舟屋で出会った「カモメ」は……

 写真で調べてみると、案の定ウミネコだった。

 長い間、海辺でフツーに観られるのはカモメで、ウミネコの方が珍しいと勘違いしていた……。

 ウミネコたちは、お天気や時間帯によってはこの常灯鼻の堤の上に群れ集まっていることもあった。

 なので堤の上は、ウミネコたちの糞だらけ。

 そんな堤を元来た方へ戻っていると、船から乗り降りするための棚のところに、なにやらカゴが置いてある。

 はて、カニ籠のようだけど、なにか入ってるぞ?

 アッ!

 モクズガニだ。

 本来は川に棲息するモクズガニも、繁殖のために海へ下る必要があり、今はちょうど海へ移動中の季節になるようだ。

 ケガニだ、ズワイガニだといったスターに比べてどうかは知らないけど、モクズガニだってこれくらいのサイズになればけっしてお安くはない水産資源のはず。

 ところがどういうわけか、籠は完全に乾燥しきるほどの放置プレイ状態になっている。

 捨てられているのか、キープされているのか、どっちなんだろう??

 こういうモノを食ってる場合じゃないくらい、美味しいモノがたくさん水揚げされるってことなんだろうか……。