4・伊平屋島上陸〜ターミナルにて〜
船首の甲板では、2名の船員さんが入港作業に追われていた。
さすがに水納丸と違い、作業の量が多そうだ。
その船首の向こうに、目指す伊平屋島が近づいてきた。ウワサどおり、山が海際まで押し寄せている。その限られた平地部分に集落がある。
船が到着するのは前泊港で、チカ先生が勤める伊平屋中学校はその港からすぐのところらしい。
すぐ、と言ってもいろいろある。
駅から歩いてスグ!
などという住宅情報は、実際に駅から歩いていみると行き倒れになるくらいに遠かったりする。
はたしてチカ先生が言うすぐとはいったいどれくらいなのだろう?
実際目にすると、本当に思いっきりすぐであることがわかった。

作業を大方終えた船員さんが、僕たちがたむろしていた立ち入り禁止のドア近くまでやってきた。
「いい天気だから泳いだらいいよ」
観光客らしい垢抜けた格好をしていたのだろう、僕は。
たしかに11月とは思えぬいい天気だ。
でも僕たちは卓球をしに来たのである。
それも水納島から。
その旨伝えると、
「水納島?だったら○○○さんわかる?」
そう、この伊平屋島には、所帯を持って暮らしている水納島出身の方がいらっしゃるのだ。
お会いしたことはないけれど、それは僕も知っていた。で、何を隠そう、卓球少女はその方の姪っ子になるのである。
この先どこへ行っても水納島から来たというと、たいてい「○○○さんわかる?」と訊ねられることになる。どうやら島内ではとても有名らしい。
生まれてから一度もそのおじさんに会ったことがないという卓球少女は、是非会いたいと言うので一応ここ一両日彼の消息を島の方々に訊ねてみたものの、ついに出会いは果せずに終わった。ただ、随所で○○○さんの姪ですって紹介したから、きっと今頃、そのウワサが伝わっていることだろう。
さあ、いよいよ下船だ。
船の接岸を舷側から眺めていた我々は、荷物を抱えてタラップを目指した。
すると、一人だけ確たる足取りで反対側に行く人がいた。
卓球少女である。
なんで今まで接岸を見ていたのにわざわざ反対側に行くのだ?
彼女の方向感覚は人間離れしている。
ともかく。
伊平屋島初上陸!!

いつの間にか船の自販機でドリンクを買っていたリョウ君
開かれ具合という意味では、水納島に毛が生えた程度と思っていた伊平屋島、どうしてどうして、港はとても立派である。
それに、なんと島内にレンタカーがある。
自分の車をフェリーで運べば15000円。24時間レンタカーを借りたら5〜6000円。これはどう考えてもレンタカーなので、手配しておいた。
レンタカーの事務所はターミナルのすぐそばだといっていた。
すぐだという伊平屋中学校が本当にすぐだったので、きっとすぐそばというのは本当にすぐそばなのだろう。
たしかにすぐそばだった。
船が着いたらすぐに手続きしに来るとレンタカー屋さんには伝えてあったものの、先に昼食を軽くターミナルの食堂で済ませたかったから、みんなにはターミナルの待合スペースで待ってもらい、レンタカー屋さんに伝えに行った。
そして戻ってきたとき、目の前の光景にビックリしてしまった。
なんとリョウ君が土産物屋で試食しながら、おばちゃんとトークしているのである。
小学校に上がってからのリョウ君は、元気いっぱいなんだけど知らない人には人見知りする、という感じがあったので、まさかこうして見ず知らずのおばちゃん相手に、それも試食をモグモグ食べながらトークするなんて僕は想像だにできなかった。
それが……。

モグモグ…これ美味しいね!
明日買いに来るからね!!
どうやら試食で食べたモズクの加工品が美味しかったらしく、店のおばちゃんに明日必ず買いに来ると約束するリョウ君なのだった。
さあ、レンタカーも大丈夫そうだし、いよいよ昼食だ。
船で待ったをかけられまくったビールだ、生だ!!
すまんね、キッズ。
そして、すまんねドライバーオチアイ。
さらにすまんね、やや船酔い気味の少女よ。<将棋するからだよ。
この昼食はどうやら我々夫婦のためだけにあるようだった。

もちろんキッズは持っているだけです。
ところで。
今宵の宴席は、本当だったら「海魚」という、ダイビングサービスも営んでおられる方がやっているお店にしようと思っていた。
紹介記事などを読んでいると、それなりに地のものがメニューにありそうな雰囲気だったからだ。
でも、その店はどういうわけか土曜日が定休。
ダイビングサービスが週末忙しいからなのか、それとも島の方がたいてい週末本島に出てしまうからなのか、そのあたりは定かではないけれど、とにかくスナックは多いものの居酒屋はそんなに多くない伊平屋にあって、違いのわかる男が納得できるかもしれない唯一と言ってもいい店を利用できないことが判明していた。
で、次の候補がこの店だった。
島内では昼も出す店は限られた数しかないそうで、ここはそのうちのひとつなのである。
だから昼食は下見を兼ねたものだったのだ。
海況はこのところよさそうなので海の幸もきっとあるだろう。
それなりにメニューはあるという話だったので、きっと大丈夫だろう。
昼食で入ったときにはそれなりに安心していたのだが………。
この食堂をあとにし、さあ、いよいよレンタカー屋へというとき、同じく食堂から出てきたらしい通りがかりのご婦人に声をかけられた。
「水納島の生徒さんでしょう?」
へ?
なんと、その方は野甫小中学校の先生で、先日水納小中学校が舞台の1つとなった教育関係者の僻地研究ナントカカントカという催しで水納島にいらっしゃっていたそうなのだ。
そのときにナァナとリョウ君を見ていたから、ご記憶だったのである。
もっとも、子供たちにとってはたくさん来島されていた先生方のうちの一人なので、覚えているはずはない。
まぁそれにしても世間は狭い。
食堂内でキッズにビールなど飲ませなくてよかった……。
どこへ行ってもめったなことはできませんな。 |