18・ソラリスの陽のもとに
イタリア旅行、それもシチリアともなれば、その旅行目的のベクトルはかなりの勢いで「食事」に傾くのが普通だ。 もちろん僕も、旅行準備期間にあらゆる手を尽くして(?)いろいろと調べていた。 が。 那覇の国際通り沿いの店がたいていそうであるように、他所に比べると値は高くつくわりには、特筆するほど美味しい店は少ないと言われているタオルミーナ。 そんな限られた選択肢のなかでいろいろ調べていた僕だったのだが、やはり地元の方の意見に従うほうがいいに決まっている。 というわけで、日中ヒロセさんにオススメの店を聞いておいた。 やや高めっぽいのと、ちょっとオシャレな店っぽいから、いかにも貧乏くさい格好しか持っていない我々としては入りづらいかなと思ってリストからはずしていたんだけど、地元の方が勧めてくださるのだから、ここは素直にしたがおう。 ついでに、事前に調べてあったもう一軒の候補の場所も確認。 でもその道から、初めてイタリア本土を拝むことができた。 西日を浴びて、輝くイタリア本土。 「このお天気だったら、夕方頃にはイタリア本土が見えると思いますよ」 と言っていたとおり。 「お天気をあてたことを褒められても………」 と笑っておられた。そりゃそうだ、ツアー自体を賞賛しなきゃね。 こんな西日の時間は、飲食店は夕食前のクローズ時間になる。 ふと思いつき、滅多なことでは使うまいと決めていた携帯電話(携帯電話物語は こちら)を、首からぶら下げてある貴重品袋から取り出し、スイッチオン。 あれ? ひょっとして、イタリアでは使えないものを買っちゃったとか?? 自分ならありえそうだからコワイ……。 とにかくこのときは、そういう事情でせっかく買った電話は使えず。まぁ、食事はこの季節だし、満席で入れないなんてことはないだろう。 メインストリートの脇から小道に入り、最短ルートで帰ろう……と思ったら、どういうわけかヴィア・ローマに出てしまってサン・ドメニコ・パレス・ホテルを大きく迂回するルートになってしまった。 ようするに遠回り。 途中のベルベデーレ。 でもまぁ、本来は滞在中に通る予定ではなかった道を歩けたってことで、けっして無駄ではなかった……? ホテルに戻る途中、水やワインなどを買える地元の方御用達っぽい売店が、ホテルのすぐそばにあったことが判明。 部屋に戻ると、風呂に入ってワインを飲んで、すでに父ちゃん大くつろぎ状態。 まさか、夕食のために出かけるのが億劫になってしまってないか?? そうなる前に、7時過ぎに部屋を出て夕食を食べに行くという予定を告げた。 我々もひとッ風呂浴びたらいい時間になったので、シチリアでの初の本格的食事を目指し、いざ出発。 夜のコルソ・ウンベルトは、暖色系照明がいい雰囲気を醸し出していた。 テレビなどでこういった国々の街を目にするたびに、日本の都会と違って巨大な看板やネオンサインがほとんどないことに羨望のマナザシを送っていたものだった。 ……しなかった。 そりゃ町がエレガントになるはずだわ。 町のエレガントさのために大事なのは「調和」。 この広場でしばし夜景を眺めた後、いよいよ今宵のリストランテ、グランドゥーカへ!! さあ、ドアを開けて…… あれ? オープン時刻はとっくに過ぎているのになぜ??? と、ふとドアの傍の貼紙に目をやると…… 「2月28日〜3月2日まで閉めてます」 う゛ぇーッ!? やってしまった!! 日中はよもやの奇跡の晴天に神々の存在を確信したというのに、まさかのピンポイント休業。サタンの存在を確信した我々なのだった。 路頭に迷う我々。 また来た道を戻ることになる。 後ろで父ちゃんが 「そのへんの店でいいんじゃない?」 などと呑気なことを言っている。 とはいえ、ここから第2候補のお店まで行くと、また父ちゃんが途中でエネルギー切れを起こすかもしれない。 で。 写真は翌日撮影 ローマ時代の遺跡、オデオン(小劇場)跡に面している小道の先にある(矢印の先)。 とにかくブルスケッタが美味いというので頼み、ついでにビールも頼んで乾杯!! いやあ、やっと落ち着ける。 「見てもさっぱりわからねえや……」 当たり前だ。 でもワタクシ、自分で言うのもなんですけど、こういう場所で「わかる」ためにいろいろお勉強をしてきたのです。 それにもともとカフェなので、リストランテのようにアンティパストだ、プリモだなどと気にする必要はないから、まるで居酒屋にいるかのごとく注文。 この一皿一皿を3人で分けながら食べたいと伝えると、当然のように小皿を持ってきてくれた。 このあたりから、父ちゃんが僕を見る目が変わってきたのはいうまでもない。 ……な〜んて言いつつ、ホントのところはお店の方の「理解しよう」「伝えよう」とする努力のおかげだったりするんですけどね。 最後にパスタをシメに頼むことにした。 すると、大きいと教えてくれたので、じゃあ一皿を3人で分けますってことにして待っていると…… やたらとどでかい特盛りパスタ登場!! え??ひょっとして?? 大きいんだったら普通の一皿を3人で分けるって希望が、大きい一皿をお願いします…って伝わっちゃったの?? うーむ……イタリア語ってムツカシイ。 ともかくまぁ、その後ハウスワインなどを頼みつつ(500ミリリットルを2回頼んでしまった……)するうちに、父ちゃんは、異国の外食でも思いのほかリラックスして過ごせたことにいたくご満悦。 ただついてきて、ただ座っていて、ただ食べて飲んで… ……ゴキゲンな二人。 …で、どんどん調子が出てきてしまった。 その間にお会計を済ませているとき。 「なんか店の人が前の遺跡を案内してくれるって言うからよぉ、一緒に写真撮ってくれよぉ!」 へ? 思いのほか安かった会計を済ませて外に出てみると、たしかに店のご主人がいた。 「こっちに行ったら centroだ(街中だ)」と言っている。 …って父ちゃん!! まったくもう……。 そうとも知らずに、一緒に写真を撮ろうだの案内してもらうだの、それを酔っ払った勢いの愛想笑いだけで伝えようとしまくっていたらしい父ちゃん。 我々は確信した。 そんな傍の気苦労など知るはずもなく、ゴキゲンの父ちゃんは道はわからないのに率先して先頭を歩きつつ、暖色照明が味わい深い街を抜け、悠々とホテルへと戻るのだった。 夜のオデオン 何気ない土産物屋も、夜になるとエレガントさが増す。 部屋に戻ると、 「今晩は寝られそうだ!!」 と言い残しつつ、ワイン片手に寝室へ。 こうして、長い長い1日が終わった。 あ、ちなみに。 ……って、でかすぎっしょ。 |