20・土佐清水のブランド魚
中浜万次郎を郷土の誇りとしている土佐清水市は、言わずと知れた海幸天国。 近年ブランド化が確立した清水サバもさることながら、大昔からここ清水といえば、めじかこと宗田鰹、すなわちマルソウダの日本一の生産量を誇る土地だという。 宗田節が有名ということは知っていたけれど、それは鰹節のご当地のスペシャル版だとばかり思っていたら、そもそも原料の魚が違っていたのだ。 マルソウダ=めじかはとても足が速い魚で、生食は釣り上げた船の上か、水揚げされる漁港付近で、と言われるほどだという。 しかも旬は夏の一ヶ月ほどだそうで、高知でも一般の市場に流通することはまずないらしい。 しかし大量に水揚げされるめじかは、宗田節になってその実力をいかんなく発揮する。 鰹節よりも旨味が強く、香りが強い宗田節は、料理にコクを出すための欠かせない素材としてプロの料理人に重宝される一方、ご家庭でも味噌汁や麺類の出汁、炒飯の味付けにと、引く手あまたの大活躍。 万次郎の故郷中の浜でも、そんな宗田節を作っている会社がいくつかあった。 この漁村に下りてくる途中で、積み上げられた薪が大量に並んでいる場所があったのだけど、それらは宗田節作りに利用されている。 松尾の漁村で見えた白い煙は、どうやら宗田節を燻している煙だったようだ。 ここ中の浜の海辺を歩いていると、とある宗田節製作現場が、通りから見えた。
作業中の彼らの背後には、めじかがたくさん入っているカゴが山のようにが積まれており、人海戦術で次々にめじかが捌かれている。 興味深いシーンだし、手前の方が会釈をくれはしたものの、さすがに横から邪魔していい雰囲気ではなかったので、遠望するにとどめた。 するとさらにその先からも、鰹節のステキな香りが流れてくる。 軒先には、やはり薪が積まれている。
中を覗いてみると、数名の方がなにやら作業をしていた。 せっかくなので持ち帰り可能な品を買わせてもらい、写真を撮る許しをいただこう。 作業中のみなさんに購入したい旨告げると、ご主人なのか、2階の事務室まで人を呼びに行ってくださった。 そうしてお越しくださったのが、こちらの店の女将さん。
女将さんのお話によると、背後に山のように積み上げられたカゴの中身は、乾燥までの一連の作業が終わって出荷を待つばかりの宗田節だ。
せっかくだから、みなさんが削ってできあがる商品を購入することにした。
「いつもの醤油に入れるだけ!」と銘打たれた、だし醤油セット@500円。 帰宅後、さっそくこのだし醤油セットを、いつもの醤油を入れたタッパに漬けてみた。 3日間ほど寝かせたものを冷奴にかけてみたところ…… ホントだ、コクと旨味の豊かな味わい!! フツーの醤油がとっておきの逸品に変身してしまった。 めじか、おそるべし。 作業の様子も撮らせてもらえたので、ありがとうございます!と別れを告げようと思ったら、どうぞどうぞとばかり、さらに別棟を案内してくださる女将さん。 そこには、すでに煮られて肉質を引き締められたあと、頭とワタ、中骨を落とされ、燻されるのを待つばかり状態になっているめじかがセイロの上にズラリ勢揃いしていた。
彼らがこのあと行くことになるのが、こちら!
焙乾と呼ばれる作業で、大量の薪がくべられた炉の上に先ほどのセイロに載っためじかが投入され、なんと1週間もかけて水分を抜くのだそうだ。 本来炉の扉は閉ざされているのだけれど、女将さんが説明がてら開けて中を見せてくださった。
あのぉ……500円しか買ってないんですけど……。 なんだか恐縮してしまう。 高知の方はみな、ヒトにモノを教えるのが好き、というのがここに至るまでの我々の結論ではあったけれど、女将さんの説明は立て板に水のごとき流暢さで、とても説明慣れしておられる感じがした。 それもそのはず、こちらのお店、たけまさ商店では、宗田節加工見学や宗田節講座、それにだし醤油作り体験などを開催されているのだ。 どうりで説明がとっても上手なわけだ。 女将さん、いろいろとご説明いただきありがとうございました!
日本一の宗田節生産地土佐清水には、それこそ星の数ほど宗田節製造・販売店があるのだろうけれど、みなさん、たけまさ商店をこの機会に是非お見知りおきのほどを!
この地に来たおかげでついに我々が知るところとなった宗田節&めじかことマルソウダ。 加工された商品もそれで作られた出汁もたいそう美味しそうだけど、刺身も食べてみたいなぁ……。 刺身の旬はたった1ヶ月、しかも現地も現地じゃなきゃそうそうチャンスは無いというめじかの刺身。 生まれてまだ1年以内の若いめじかが振る舞われる祭りなのだとか。 詳しいことは↓このバナーをクリック。 リンク先のページにいわく、 「新鮮なメジカの刺身は、独特のモチモチとした食感があり、一度食べたら忘れられない味です。」 ああ、忘れられなくなってみたい……。 めじかの(個人的に)知られざる実力は現地に来て初めて知った我々だった。 しかし土佐清水が清水サバの本場とはいえ、本場の本場はといえば、清水港やあしずり港周辺である。 朝獲れの魚をその日のうちにいただくものが最高!という清水サバのこと、ならば現地でお昼にいただくのがパーフェクトのはず。 というわけで、中浜万次郎の故郷中の浜をあとにし、一路足摺半島を北上、土佐清水の市街地にやってきた。 この市街地にあるのが、こちらのお店。
お食事処あしずり(ヒオウギガイのデコレーションはこちらのお店)。 なにげない町なかの食堂でありながら、魚好きの間にはその名が轟く超有名店だ。 なかでも清水サバの刺身は、ここで食べないでどこで食べるというほどに評判が高い。 また、誰もが絶賛するのが焼き鯖寿司。 ドライバーゆえビール1滴飲めない身だから、井之頭五郎のように白い飯で味わうこととしよう(オタマサはもちろんビール)。 お昼前だったから、2台分しかスペースがない店の前の駐車場にヴィッツを停めることができた(第2駐車場が別の場所にある)。 店内はまだ空いていて、じっくりとメニューをチェックする。 清水サバだけではなく、カツオをはじめとする鮮魚が絶賛される店ではあるけれど、かつ丼やラーメン、うどん、ハンバーグに揚げ物の定食もフツーに肩を並べているあたり、地元に愛されている食堂であることがわかる。 しかし我々がここでかつ丼を食べるはずはなし、まずは大本命をお願いする。
清水サバの刺身! これまでにその美味しさを充分堪能させてもらった気でいたワタシだったけれど。 見よ、この鮮度、この輝き!!
期待に胸を膨らませ、まずは一切れ食べてみる。 う…………旨すぎッ!! なんだこの食感は!! 昨夜足摺テルメでいただいた清水サバも相当という形容詞を軽く凌駕するほど美味しかったけれど、いやあ、順番を逆にしないでよかった……。 ついに真の実力をまざまざと見せつけられたワタシ。
そりゃ、ここは酒っしょ。 白米も美味しいけど……。
ちなみにこちらの店では生ビールも用意されていて、昼食を摂りにきていた地元の男性3名連れは、それぞれ2杯ずつ飲んで食って颯爽と出ていった。 生ビール2杯程度は、休憩時間のほどよい栄養ドリンクといった飲みっぷりの良さが素晴らしい。 で、見ていると生ビールにはついていなかったようなのだけど、瓶ビールをたのむと、お通しがサービスでついてきた。
骨煎餅。 清水サバの刺身に感動しているところへ、ワタシの定食も登場。
清水サバの塩タタキ定食。 この味噌汁、ひょっとして宗田節の出汁だったのだろうか。 塩タタキは、清水サバのボリュームをあえて隠すような盛り付けが面白い。
ツマの下にタタキがもう1列あるのに……。 というか、刺身が感動的過ぎて、初心者にはまだ変化球メニューは早すぎるということなのだろう。 清水サバ祭り状態になっていると、トドメの一品もやってきた。
これが御食事処あしずり名物の焼き鯖寿司。 飲んでいたならシメにピッタリの、定食を食べていても別腹OKの、清水サバの食べ方変化球度では最終兵器的な爆裂やる気系の寿司。 酢飯ごと炙られているからご飯まで香ばしく、パリッと焼かれたサバならではの脂がジュワッと口内に充満する。 腹もくちると心も落ち着き、食材についていろいろ豆知識が書かれた、手の平サイズのカードを綴じたモノがテーブルに置いてあることに気がついた。 そのうちの清水サバを読んでみると……
えらいぞ、立て縄漁法! いやあ、たっぷり堪能させていただきました! あー、美味しかった、土佐清水。 これでもう、今回思い残すことはなにもない。 今宵は再び高知市街に戻って最後の夜を過ごすのだけど、その前に一か所、けっしてスルーわけにはいかない場所が。 時刻は午後1時前。 さあ、次の目的地へレッツゴー!! |