Bここ一軒で宮城県。

 北のマスターのお店「Bar KOSHI」は酒を飲むところである。
 オシャレな酒のアテを用意してくれるけれど、きちんとした食事を求めるところではない。

 そこで、北のマスターのお店で飲む前に、食事をかねて居酒屋で1次会を、ということになっていた。

 なので本来であればお店の準備で忙しいはずの時間に、北のマスターは我々の案内をしてくださっているのである。

 そんな彼が案内してくれた道のりは、さすが酒飲み、全国あまねく酒場を放浪する吉田類も真っ青の飲み屋街放浪記だった。

 仙台は空襲で焼け野原になった後、計画的に整備された機能的都市である。
 でも戦後すぐに活気を取り戻した界隈もあった。
 大通りからひとたびスージィグヮーに入り込むと、そこには実に魅力溢れる昔ながらの飲み屋が軒を連ねているのだ。


どこに居ても、たとえ後姿でも、いつも絵になるT夫妻。
このあたりの界隈に、お2人が初めて出会ったというお店もあった

 ああ、昭和の香りが……。
 目当ての居酒屋を目指して歩いている我々は、誰も彼もがすでに酒飲むモードのスイッチが入っている飲兵衛である。なのでこのようなレトロ感溢れる素敵な飲み屋街を吉田類のように歩き回っていると、まるで誘蛾灯に誘われる蛾のように、ついついフラフラ〜と入り込みたくなる。

 実に魅力溢れる界隈。

 しかし、そんな酒飲みにとって魅力溢れる界隈にも、那覇の浮島通りや農連市場同様、再開発という名の魔の手が迫っているらしい。

 再開発が目指す先は、こういう世界なのだろうか。

 近代的なきらびやかな世界も、それはそれであってもいいとは思う。けれど、ともすれば場末と称される界隈でコツコツと頑張ってきた人々やそこを愛してきた方々の思いをも汲み取る度量の大きさを、行政には強く求めたいものである。>特に復興途上の被災地の行政。

 短時間ながらも仙台のディープな飲み屋街探訪を経て、ついに我々は今宵の宴席の場へと辿り着いた。


みんな酒飲むモードになっているため、こうして旅の記録を残そうと写真を撮っているヒトのことなど眼中にはなく、誰も彼もがカメラ目線じゃなくて入店目線なのだった。

 その名も「伊達藩長屋酒場」。
 少人数であれば、北のマスター行きつけのディープなお店という手もあったそうなのだが、人数が人数なのでキャパの大きなお店を見繕ってくださっていた。
 大きいのはキャパだけではない。
 名前だけでも観光客の旅情をくすぐるこのお店、そのキャッチコピーがすさまじい。
 いわく、

 「ここ一軒で宮城県。」

 そう謳うだけあって、酒から肴から、ありとあらゆるご当地メニューがてんこ盛りなのだ。

 潜り戸を抜けて店に入ると、そこは鬼平が座っていそうな内装のカウンター席や座敷が。
 そして案内されるままに奥へと進むと………


手前でピースをしているO嬢は、昨夏タコと戦っていたヒト

 仙台チーム各隊すでに勢揃い♪
 そして、まるで庄屋さんちの祝言の宴席のように、膳が綺麗に並べられていた。しかも一人一人に脇息までついている。

 20畳くらいあるこの座敷すべて貸切状態なので、それらを思うままに配置換えし、落ち着いたところで乾杯!!

 さあ、いよいよ宮城県をいただくのだ。
 メニューには、綺羅星のごとき郷土料理が名を連ねている。

 「どうぞ、好きなのをいくらでも選んでください!」

 仙台チームの号令一下、さっそく吟味を始める東京方面からお越しのレディース・フィフティーズ。
 うちの奥さんも、今宵の1次会がこの店に決定して以降、家でじっくり吟味していたメニューに目を走らせる。

 僕も臨戦態勢ではあったものの、なにしろハナから足が地に付いていない。メニューを見ても、まったく頭の中で映像情報と合致しないから、何がなにやらさっぱりわからぬ。

 ただ、このあたりの冬といえばタラちゃんが旬であることは知っていた。
 であれば、ここはひとつタラのナンチャラカンチャラを……

 「それって韓国料理だよ、だんな」

 うちの奥さんからツッコミが。
 そんなこといったって、すでにもう舞い上がっているのだからしょうがない。
 だいたい、僕がこういうときにこういう場でこうなることは、長い付き合いのうえで重々承知しているんだから、テキトーに見繕って注文しておいてくれればいいものを、畳み掛けるように「だんなは?だんなは?」ってあんた、追い込むのはやめてくれっちゅうの。

 かててくわえて……


撮影:オタマサ

 和服美人からお酌していただくだなんて……。
 隣でご主人のTさんが密かに眼光鋭く僕に粗相がないかチェックされているなか、「やに下がる」という古語(?)を絵に描いたように体現するワタシ。

 そのうえ土瓶は南部鉄、注がれるぬる燗は地元の銘酒。目の前には刺身盛りから数々の小鉢まで色とりどり。

 事ここに至れば、肴がどうの、酒がどうのなんてもうどうでもいいじゃない。だって美味しいんだもの、楽しいんだもの!!炙りさんま寿司、美味しかったなぁ……

 一方。
 当初はまるでフィーリングカップル5対5のようにきれいに分かれていた東京組と仙台チーム。その東京組のアネモネフィッシュさんとすかてんポチ1さんは一味違った。
 なにしろ、世の中に草食系男子なるものがほとんど存在していなかった頃から断然「肉食系」だったであろうお2人である。ズラリと並ぶ肴を前にして、指をくわえてジッとしているはずはなかった。

 ここはとにかく北のマスターの店へ行く前の、食事代わりの1次会……などという話は彼女たちの中では5万光年彼方に消え去り、開幕早々ぶっちぎりの首位独走で優勝してしまう一昔前のジャイアンツのように、突っ走る突っ走る。

 同じ枠に入っていたイカママさんは、ちゃんと召し上がれたのであろうか??

 やがて場がこなれてくると、仙台チームZの主要メンバーであるOSコンビが、我々を手招きしていた。

 「センダイシローに会いに行きましょう!」

 へ?センダイシロー??

 数年前に亡くなった太平シローなら知っているけど、センダイシローとは初耳だ。

 聞けば、大阪におけるビリケンさん級に超有名なキャラがここ仙台にいるらしい。センダイシローがいるところ、商売繁盛間違いなしという、商人にとってまことにご利益のあるお方なのだそうな。

 そんなセンダイシローがこのお店に??
 OSコンビに導かれ、さっそくお会いしてみることに。
 みなさん、この方がセンダイシロー改め仙臺四郎さんです。


撮影:O嬢

 「ボ…ボクが、セ…仙臺四郎なんだな」

 <それは裸の大将だって。

 この仙臺四郎さん、カウンター席に座る他のお客さんに並ぶようにして普通に席に着いていたから、わりと暗めの照明の下で、ホントのお客さんと勘違いしたほどだ。

 仙台では当たり前に有名な仙臺四郎も、こうして立体化してお店の中に着座しているというのはわりと珍しいそうで、これも何かのご縁とばかり、ありがたく一緒に写真に写ってもらったのだった。

 それはともかく、ここでこうして写真に写してもらって改めて気づかされた。
 我々って………

 黒い。

 これ、沖縄にいれば冬でもまったく目立たないんですぜ。
 ところがこんな顔が仙台の街を歩いている姿を目にした地元の方々からすれば、日本語を話すジュニアヘビー級の覆面レスラーなみに国籍不明だったろうなぁ……。

 どんどん座がくだけ始めた頃、北のマスターが一足早く席を発たれた。
 これからお店の準備なのだ。
 そして頃合を見計らって、まずは我々遠征組が、Tさんの案内のもと、Bar KOSHIを目指したのである。

 いよいよ今宵の本番だ!!