部屋に案内してもらった。
小さな宿だから、何十室も部屋があるわけではない。また、ペンションというわりには部屋はほとんど和室である。
1部屋だけ洋室があって、予約の時点でその部屋を希望していた。普段布団を敷いて生活しているくせにナマイキな、って感じだが、4泊するので、毎日毎日布団を敷いたりたたんだり、というのが面倒くさいと思ったのだ。
ただ、洋室は和室にくらべて随分小ぶりだそうで、4泊するんだったら隣の和室のほうが広いですよ、と勧めてくれた。見せてもらうとたしかに広く、そこは角部屋だったので窓が二ヶ所にあり、左にアンヌプリ右に羊蹄山という眺めも抜群。これが洋室だったらパーフェクトだ。
景色は捨て難かったものの、やっぱり洋室を選んだ。
ようやく到着である。お湯を貰い、お茶を飲んで一服。
国内旅行であれば、泊まる宿はなるべく小さなところがいい。
社員研修旅行なのである。
観光地での小さな宿のありようをじっくり研修し、明日の我がサービスに活かしていくのだ……。
……というのは、冗談のようで本当だったりする。
何も勝手がわからないスキーだから、なんでも揃っている大きなホテルに泊まって至れり尽せりってことでいいかと、チラッと思ったこともあったけど、みんながみんなそう思ったんじゃあ、クロワッサンごときダイビングサービスなどたちどころに露と消えてしまう。
というわけで、今回も小さな宿を探した。
もちろん、最初からペンション一筋で探していたわけではない。みなさん同様、我々だって自分たちがペンションだなんて「似合わねぇ……!」と1オクターブ高い声で言っていたくらいなのだから。
ところが困ったことに、このあたりで小さな宿となるとたいていペンションなのである。
国民宿舎や旅館がないわけではないのだが、インターネットで得られるそれらの情報は限りなく薄く、それだけで実態をある程度つかむのは難しい。万一はずしてしまった場合、北の大地で雪に震えながら暗い夜を過ごすことになってしまう。未知の旅館よりは、安心できるペンションのほうが心強い。
そんなわけでペンション探しが始まった。
目的はスキー。
ゲレンデの近くに構えている宿のほうが、何かと便利であることは間違いない。しかし、いくらスキー場が空いているとはいっても、さすがにそんな便利なところはわりと混んでいるのではなかろうか。
宿に人がいるってのは当たり前ながら、スキー、スノボー客となると若者が多いことが予想される。のんびりくつろぎたいときに、そこかしこから若者の元気な喧騒、というのは有難くない。<昨日までさんざん騒いでいたくせに……。
というか、スキー場近くにあるペンション街にもよさそうなところはあったんだけど、そのペンション街の名称が僕のネガティブ・マインドを呼び起こすのである。「ポテト共和国」ですぜ………。
HPを公開しているペンションも数多く、いろいろと情報を集めやすい。ただ、さすがにペンションだけあって、ノリが「ポテト共和国」的なところも多い。
ペンションはペンションでも、もっと落ち着いた、大人が安心して泊まれる宿がいい。また、部屋数が多いと何かとうっとうしいので、せいぜい10部屋程度の小ぶりな宿が望ましい。
という希望のもと、紆余曲折を経て風みどりさんに決定した。
ニセコゾーンではあるけれど住所はお隣の蘭越町で、最寄りのスキー場ニセコアンヌプリまで車で10分。ゲレンデの麓にもペンション街があることを思えば、けっして近いわけではない。そういう意味では、若者の喧騒は少なそうだ。
場所は閑静な別荘地で、しかも天然の温泉が涌き出ている。うれしいことに宿の風呂が温泉なのである。
北海道は温泉の地としても有名で、スキー場の周りにもあちこちに温泉がある。それらを巡るスキーヤーもいるそうだが、我々は雪の中を経巡ってまで温泉に入りたいというほどのマニアではない。だから宿に温泉があるというのはまことに有難い。ちなみに、数あるペンションの中で宿に直接温泉を引いているのはここ風みどりさんだけ。
これだけでも理由としては充分なのだが、その他諸々の理由はおいおい明らかになるだろう。
さて、旅行の場合各種レジャーもさることながら、最重要事項はなんといっても食事である。
海辺の町や繁華街であれば、表に繰り出して「地のモノ」に舌鼓を打つこともできる。しかし真冬の北海道のスキー場、そこからさらに離れたペンションとなれば文字通り陸の孤島である。朝夕の食事は全面的に宿に頼らねばならない。
この食事。
さすがペンションというだけあって、どのペンションの「売り」を見ても、食事はフランス料理のフルコース!となっている。それはもはやお約束なのだろうか?
風みどりさんでもご多聞に漏れずやはりオーナーシェフのフルコースである。
ただ、数多いオーナーシェフのなかにあって、我々にとっては風みどりさんのオーナー氏はちょっと事情が違った。
彼は奥さん同様北海道の方なのだが、その昔はシェフとして沖縄にいたこともあるというのである。なんか親近感が湧くでしょう?
そしてなんと驚くなかれ、初日の食事時にお聞きしたのだが、その沖縄にいたというのは沖縄県が海洋博覧会でフィーバーしていた75年当時で、グリーンパークホテルでシェフをしておられたという。
グリーンパークホテル!!
知ってます?
本部町にあるホテルなの。
最近では水納島にも宿泊客が日帰りで来ているの。
いやはや、目と鼻の先に住んでますぜ、我々。
え?あの島には人が住んでたの!?
とオーナー氏は驚いておられたが、そりゃそうだろう。28年も前の水納島なんて、沖縄県民ですらその存在を知っている人は少なかったに違いない。
沖縄にいらっしゃったことがある、ということはHPを見て知っていたので、オリオンビール、A&Wのルートビア、タンカン、黒砂糖などをお土産にお渡ししたところ、オーナー氏はオリオンビールを無性に懐かしがって喜んでくれていた。
せっかくの北海道、どうせだったら地の物をたらふく………っていう気もないではなかったが、それは別に日を設けることにして、宿では沖縄で腕を振るっておられたシェフが作ってくれるフルコース料理を満喫することにしよう。
でも。
フルコース料理って、慎ましやかな女性客がデザートまでキチンとたどり着けるくらいの程よい量……。
つまり我々にはきっと足りないに違いない!!
雪に閉ざされた陸の孤島で、夜中に空腹のあまり悶絶したらどうしよう……。
これは非常に深刻な問題だった。寒い、眠い、腹減った、なんてことになったら死にかけ10秒前ではないか。
そのため、「おばあちゃんのぽたぽた焼き」やら乾パンやら、非常食を準備していた。これで死ぬことはあるまい…………。