16・京都探訪〜東映太秦映画村〜

 当初、2月6日には特に予定を立てていなかった。
 4日にできなかった散歩をして、お昼に両親を誘ってどこかで外食でもして、それからまたのんびり過ごそうか……と考えてもいた。

 ところが、天王寺動物園という懐かしい場所に行ってみて、似たような場所をひとつ思い出した。同じく子供の頃に行った懐かしい場所である。
 そこに行ってみようかな、とも思い始めた。

 それは京都にあるので、ま、せっかくだから両親を誘い、湯豆腐でも食べて……と考えつつ、まだ付近の散歩にも未練を感じていたりして、決め手を欠いていた。

 そんな夜のこと。
 いつもどおり母によるカメーカメー攻撃によりほぼ撃沈状態で床についていたところへ、普段滅多に鳴ることがない携帯の呼び出し音が。

 はて、こんな遅くに誰だろう??

 思いもかけない相手だった。
 そして、このときゴキゲンなほろ酔い状態で電話をかけてきてくれたある方のおかげで、翌日の行動予定は決定したといっていい。

 そうだ、京都へ行こう!!

 というわけで、この日は両親ともども京都へ。
 かつての旅行記でも触れたとおり、うちの母が京都生まれの京都育ちで、僕の子供の頃は母方の祖父母がずっと京都に住んでいたこともあって、京都市内の観光名所は関東の中高生の修学旅行くらいには制覇している。

 でも、大人になってから「京都」に対して抱く興味を子供の頃に持っていたはずはなく、今頃になって行ってみたいところだらけになってしまった。
 しかし時すでに遅し。
 昔はあれほど近かった京都も、今ではそうやすやすとは足を運べない海の彼方である。

 なので、大阪に帰省している今は絶好のチャンスなのだ。

 そこで、僕が今回京都へ行くに際しまず最初に……というか、唯一選んだ目的地は………

 東映太秦映画村!!

 関西地方に在住の方以外で太秦という字を見て「うずまさ」と読める人は、おそらく修学旅行で京都に来たことがあると思われる。読めないでしょう、普通。
 それにしても、これほどまでに古都京都が喧伝される旅行ブームの昨今にあって、京都行の目的地が「東映太秦映画村」だなんて、よほどの水戸黄門ファンくらいしかありえないだろう。

 僕はけっして水戸黄門のファンではないが(東野英治郎の頃はファンだった)、時代劇、それもフィルムで撮影された昔の作品の大ファンなのである。

 そんな時代劇になくてはならないのが、ここ太秦の映画村だ。
 近年は往年の輝きはないという話だけれど、今もなおれっきとした映画スタジオで、敷地内には江戸の昔そのままにオープンセットが組まれていて、数多くの時代劇がここで撮影されている。江戸時代の街中のシーンを撮影するには事欠かないように作られているのである。

 子供の頃に一度親に連れられてきたことがある僕には、その「江戸の街の様子」が、細部をちゃんと見るとまるっきりの作り物やん!!ということも含めてとても印象的で、時代劇ってこういうふうに作られているのか……ということをおぼろげに理解した初めての体験だった。
 以来、30年以上ぶりの2度目である。

 一方うちの奥さんはといえば、さすが関東の学校、中学の修学旅行で京都に来たことがあって、その際にこの太秦の映画村を訪れたのだという。
 だからうちの奥さんも2度目ということになる。

 が。
 どんな映画でも何度観ても初めての感動を味わえる彼女である。そんな遥か昔の記憶が1ミリでも残っていようはずはない。

 さてさて、お互いに2度目とはいえ、記憶にないに等しい状態で臨む現在の太秦は??

 太秦へは、阪急京都線大宮駅を降り、地上に出てから嵐電(らんでん)に乗り換える。
 嵐の電車なんてなにやらすごそうだが、嵐山の略。電車自体も一両編成のチンチン電車だ。

 なんか素朴でかわいい。
 道路以外の軌道もなんだか裏路地のようなところを走る控え目な電車だった。
 そして太秦で下車。
 そこから広隆寺のそばを抜けてテクテク歩くと…………
 到着!!

 あれ?こんな入り口だったっけ??
 なになに、ひょっとして中身も最近の昭和レトロブームに乗っかって、江戸時代からいっきに昭和30年代あたりまでワープしてるとか??
 実はこの隣に、団体客用(?)の通用門があるんだけど、お城の門のような立派な風情。そっちのほうがらしくていいのになぁ……。

 入場料金は一人2500円!!
 激高ではないか。

 エントランスの近代的な建物こそ今風のつくりになっていたけれど。
 通り抜けるとそこは………

 江戸時代だった!!
 これだこれこれ、これが映画村だ!!

 どうです、ホントの江戸の街っぽいでしょ。
 しかもこれ、何分の一かの模型じゃなくて、セットとはいえ実物大なんですぜ。
 ほら、このとおり。


鬼平犯科帳のエンディングを聴きながら歩いてみたい……

 この風景、ちゃんと青空が出てくる時代劇を見ていたら、必ず1度や2度は出てくる場所である。
 その撮影ごとに看板や暖簾などを入れ替えながら、アングルも替えて、同じ場所をさも違う場所であるかのように撮るわけだ。
 上の写真も、時代劇の衣装をした通行人がいれば、たちまち気分は江戸の昔にタイムスリップすることだろう。

 このセット、暖簾をくぐると単なる倉庫のような空間、ってのも多いんだけど、側だけではなく、ちゃんと中に入れる建物もけっこうある。

 さあ、この部屋はいったい誰のおうちでしょう?
 え?そんなのわかるわけないって??
 いーえ、時代劇ファンならひと目でわかるのです!!

 正解はこれ!

 誰が呼んだか、銭形平次の家!! 

その他、いろいろ見所を。

運河のシーンや船からの荷揚げ、もしくは港のシーンで必ず出てくる池。
まさかこの池に↓こんなものが住んでいようとは………

突如現れたネッシー。
なんでネッシーなの??

ちなみにうちの奥さんが写っている写真の後にある倉庫のようなもの、裏にまわると………
ただのトタン板だったりする。

ご存知日本橋。
橋は半分だけで、反対側はまったく違う作りになっている。
ちなみに、暴れん坊将軍のエンディングで、

〜♪男の俺が選んだ道だぁ〜という歌とともに、
め組のサブちゃんたちが神輿をかついで渡っていた橋である。

ちなみにこれは、三十数年前の「日本橋」。
隣にいるのは祖母と弟。

……それから三十数年後。
ばあちゃん、おかげさまでこんなに大きくなりました……。

そういえば、日本橋という字が消えている。

そば屋の親父に扮した江戸屋猫八が顔を出しそうな屋台

北町奉行、遠山左衛門尉様ぁ、御出座ぁ〜〜

「これより、黒和算愛乱堂の横領事件について吟味をいたす。一同の者、面を上げい」

…のシーンでお馴染みのお白洲。

表札を変えればなんにでも変身する屋敷の門。

映画「憑神」に出てくる三巡り神社。
こんなのに向かって手を合わせているこの人の運命やいかに……。

ちなみに、ここはご利益らんどという変な一画なんだけど、もう抱腹絶倒(?)のアトラクションがあるので是非足をお運びください……。

密偵の伊佐次をやって!

…という僕のリクエストに応え、
鬼平の密偵になっているつもりのうちの奥さん。

しかし……。
その演技力には限界があった………。

途中、仲見世どおりにあった当り矢コーナー。
弓矢5本で300円。的に当った本数に応じて景品をもらえるというやつだ。
けっこう難しいのである。しかし!!

……見事2本的中!!!
景品はビニールのオモチャの刀だった♪
それにしても、ここのスタッフのオネーチャンのカワイイことカワイイこと……。

思わず出かかったオヤジギャグをグッとこらえるのが大変だった……。<何が言いたかったかわかります??

 

 こんな具合で、けっこう楽しめる。
 そうやってウロチョロしていると、池田屋の暖簾を下げた店が。
 池田屋といえば、いわゆる「池田屋騒動」で、長州藩士をはじめ多くの倒幕の志士たちが新撰組に討たれた場所ではないか!!

 すると、新撰組隊士がその池田屋に入ろうとしていた。

 いかん、中にいる浪士たちに事態の急を告げねば!!

 物陰から脱兎のごとく飛び出し、新撰組隊士よりも先に池田屋に駆け込もうとした僕を、隊士の剣が襲いかかる!!

 ギャーッ!!……………………

 

 

 

 

 

 

  ……………斬られちゃった。

 うちの奥さんの演技力のことを言えない斬られ方だなぁ……。
 それはともかく、この人、実は俳優さんで、仕事として、ちゃんとした衣装をつけてこのあたりを徘徊しているようだ。
 写真撮らせていただいていいですかというと、快諾してくださった。おまけに

 「斬りましょうか?」

 と言ってくれたのである。
 そのチャンスを逃すはずはなかった。

 漢字はわからないけど、マキノカツヤというお名前だそうで、2時間スペシャルの時代劇に出ることが多いのだとか。この写真を家宝にするためにも、いつの日か大物になってくれるよう、今後の彼に期待しよう。みなさんも応援よろしく!!


時代劇スペシャルは要チェック!!

 ほかにも映画文化館だとか時代劇扮装の館とか(もう少し安かったら扮装してたのになぁ!!)いろいろあるけれど、やはり楽しいのはこれら撮影用オープンセットだ。
 時代劇が好きな方なら間違いなく楽しめる。
 また、ここを訪れてから時代劇を見ると、10倍面白く観られることうけあいだ。

 実際、つい先日ためしに観てみた水戸黄門の面白いこと面白いこと!
 屋外撮影のいたるところのシーンがここのセットだった。黄門様ご一行が日本のどこに行こうとも、その城下町や宿場、長屋のシーンはここ映画村なのである。
 なるほど、あそこでこういうふうに撮るのかぁ…という変な楽しみ方ではある。しかしそれはそれでかなり面白い。 

 ここ太秦周辺は、映画産業が隆盛を極めていた頃には東映以外にも数多くのスタジオがあったそうで、今の規模どころではないオープンセットがそこらじゅうにあったという。
 最近は邦画が大ブームだとはいうけれど、昔のように照明その他プロ中のプロが作る時代ではない。ハンディサイズのデジタルカメラで映画が気安く撮れてしまう世の中ともなれば、また、そんな程度の作品で許されるとなれば、大きなスタジオの需要はあまりないのだろう。

 おまけに時代は高画質へと驀進している。
 昔のようにフィルムで撮っていた頃と違い、人物はおろか背後のセットまでくっきり鮮やかに映ってしまうと、実物大とはいえ所詮はまがい物のオープンセットのディティールまで見えてしまう。

 水戸黄門をはじめとする最近の時代劇がどうにもチャチく見えてしまうのは、それが大きいのだろう。

 そういう意味では、時代劇に関する限り、フィルム調にわざと画質を変えるほうがいいような気がする。実際そうやって作っているものもけっこうある。

 この東映の映画村自体も、時代劇と映画産業の衰退により、往年のような華々しさはないのかもしれない。でも時代劇がこの世にあり続ける限り、いつまでも楽しめる場所であることは間違いない。

 みなさん、金閣寺も銀閣寺もいいけれど、京都へお越しの際は、(ちょっと入場料が高い気がするけどもグッとこらえて)東映太秦映画村をよろしく!!
 で、ついでに時代劇も観てね!!

 さてこのあとは………

 ついにあの人が登場する!!