太平洋フェリー
まだ旅は続いている。
前ページは旅の締めくくりっぽく終わったが、まだ我々は洋上である。
なんで船に乗って名古屋に向かっているのかとっても不思議に思われることだろう。仙台から出ている船は行き先が苫小牧か名古屋しかないからだが、そもそもなぜ船に乗っているのか。話せば長くなるが気にせず話す。
オフになったら東北へ行く、ということはたびたびログコーナーなどで話のついでに知らせてきたのはご存知のとおり。
すると、泊まろうか、と思っていた宿の下見をしてくれた方がいたり、牛タン屋を紹介してくれたり、多方面でいろいろ世話になってしまった。
今乗っている船も、実はログをご覧になったゲストのお世話になっているのである。
太平洋フェリーというのは、知る人ぞ知る、苫小牧〜仙台〜名古屋を結ぶ豪華フェリーで、なかでも「いしかり」という船は、船旅雑誌の人気投票「読者が選ぶフェリー・オブ・ザ・イヤー」を9年連続で受賞しているくらいである。
我々が乗っているのはその姉妹船「きたかみ」という 14,000トンの大きな船で、「いしかり」に負けず劣らず豪華なのである。
しかも!!
我々はなんとスウィート・ルームなのである!!
す、す、すうぃいぃぃと・るうぅぅむだぁっ!?
と思いましたか?思いましたね?
フフフフフ。騒ぐな下々の民よ。選ばれし我々はそのほうどもとは違うのである。ふぁっふぁっふぁっふぁっ………痛ッ!
お客様にお願いします、物を投げないでください、物を投げないでください………
実を言うと、太平洋フェリーにおつとめのゲストの方がいて、我々が仙台経由で帰る、ということを知るやいなやすぐにこの航路を教えてくれたのである。
名古屋にはまったく用はなかったが、社員割引であらゆる船室をが半額にできる、と言ってくれたのだ。思わず身を乗り出した。
いただいたパンフレットは、なんだか非常に興味をそそられるものであった。
そして、
「スウィート・ルーム」
なるものを見つけた。
さすがに一泊の航海にしては高価である。
でも半額になるなら…………。
なんだか無性に魅惑的に思えてきて、結局、帰りはなんの用もない名古屋に行ってしまえ!ということになったのであった。
そのうえ!!
なんと半額の代金を払うはずだったのに、その必要もなくなってしまったのだ。
そのゲストのYさんが、ログコーナーで僕の誕生日を知り、バースデー・プレゼントです、と言って社員に等しく分配されている縁者知人へのフリーパスの権利を二人分与えてくれたのである!
つまり、豪華客船に、それもスウィート・ルームなどに泊まりながら、一銭も払っていないのである。
いいのかなぁ…………。
うちらからはどうお礼のしようもないんだけど………。
いささか心配しつつも、ご好意をありがたく頂戴して、今洋上にいるのであった。
スウィート・ルーム
スウィート・ルームである。
昨夜のオシャレなショットバー同様、我々にはもったいなすぎる空間である。
悲しいかな、扉という扉を開け、引出しという引出しをチェックし、2つあるテレビをどちらも点けてみる我々。育ちは隠せない。
画角の関係でこれだけしか写せなかったけど、カメラのこちら側にもまだまだスペースがあるのはいうまでもない。そして天井には洒落た照明、左側にもう一つある窓は船首方向である。
船だから調度の具合は制約はあるものの、まさにスウィート・ルームなのだ。ホント、こんなところに我々泊まってよろしいの?と急に不安になってしまう。
だが船は動き出している。
こうなりゃとことんくつろごう!
ターミナルで渡されたチケットには、全食事までつけてくれていた。
レストランでのビュッフェである。
そんなこととはツユ知らず、昼は駅弁とビールだ!と決めていたので、豪華なスウィート・ルームで駅弁を食ってしまった。ウゥ……。
荒れているでもなく、まったく静かというわけでもなく、心地よい揺れが眠気を誘う。普段の島の生活では考えられないくらい歩きに歩いた体は疲労困憊しているのである。
このまま眠ってしまい、目覚めたらもう名古屋、というのじゃせっかくの部屋が泣く。
眠気覚ましにデッキを歩いた。
小さなベッドの部屋に泊まる人たちは(う〜む、なんとなく優越感)、部屋でくつろげないからみんな思い思いの場所でのんびり過ごしている。三層に分かれた各デッキには、数カ所に大型テレビを囲んだソファーがあったり、団欒用のテーブルセットがある。また、40人くらい入れるミニシアターもあれば、展望大浴場があったりもする。
とにかく部屋から1歩でも出ればリゾートホテルみたいなものだから、どんな部屋に泊まろうと長い航路も楽しく過ごせるに違いない。それでも、やはり船旅は時間がある人しか利用できないのか、客を見渡すと世代的にやや高めであった。旅行社にはクルーズのパックツアーがあるらしく、おじさんおばさんがわいわい楽しくやっている。
我々の部屋にはバスもついていたけれど、せっかくだから展望大浴場へ行ってみた。
女湯はあまり混んでいないという話だったが、男湯はにぎわっている。
しかも、出港前から入っている人もいた。
なんでかなぁ、と思ったら、ハタと思いついた。
この客船は、フェリーなのである。
苫小牧・仙台から名古屋までトラックを積んでいるのだ。
風呂でくつろいでいるのはドライバーのみなさんなのである。
どおりで、浴場のまわりは菅原文太みたいな人ばかりだったのだ。
展望大浴場は気持ちよかった。
壁一面が太平洋を見渡す窓で、普通の浴槽とジャグジーに分かれている。それぞれが広い。
しかもサウナまでついているのだ。
サウナなんて、これまでに数えるほどしか入ったことがないから、試しに入ってみた。汗を流せば腹も減るだろう。
ここで初めて、サウナに金属をつけて入るのは愚かである、ということを勉強した。
展望風呂だから、と思って眼鏡を付けて入っていたので、サウナにもそのまま入ってしまったのである。
体はまだまだなんともないのに、眼鏡だけ燃えるような熱さになってしまった。
食事は3食ともビュッフェスタイルである。
何度経験しても、僕はどうしても魅惑の品々の誘いを断ることができず、ついついどれもこれも皿に乗せてしまい、開幕ロケットスタートをしてしまう。そして早々に腹いっぱいになってしまうのだ。
夕食時も、ワインなどを飲みながらなるべくゆっくりとゆっくりと食べたつもりだったのだが、今回も結局すぐに腹いっぱいになってしまった。オージービーフのステーキなんて、1枚でいいのについ2枚取っちゃうんだよなぁ………。
バーやラウンジもあるので、食後も酒など飲んでそれっぽく優雅に過ごそうと思っていたのに、すでに体が言うことを聞かなくなっていた。
こういう部屋にいると寝るのがもったいないくらいなんだけど、部屋に戻ると早々に睡魔が団体で押し寄せてきた。気持ちいいベッドで、泥のように眠った。
船旅ってゆっくりしていてとってもいいものである。
もちろん、それは船内の設備に大きく左右される。
琉球海運や有村産業の船も、もう少し工夫してくれればいいのになぁ。 |