全長 Max20cm(写真は10cmほど)
「アカハチ」という名は、八重山史のヒーロー「おやけあかはち」に由来している………
………と、長い間ずっと思い込んでいた。
ところが、どうやらこのアカハチというのは赤鉢、つまり「赤い兜」という意味らしい。
いったいどこが赤いんだ?(標本では頭部が赤くなるのか?)
海中では黄鉢にしか見えないこのアカハチハゼは、水納島では通常のボートダイビングで出会う機会はそれほど多くはない。
波穏やかなサンゴ礫が多い砂底を好むらしく、水納島の主要ポイントが並ぶ北東側のリーフの外では、彼らがのんびり暮らせる場所が限られているのだ。
それでも初夏以降になると、リーフの外でも浅場のサンゴ礫が転がる砂底で、チビチビの姿が目立ってくるし、若夫婦が仲良く餌を探している様子を観ることもできる。
色彩的には可憐で清楚な感じがするし、底から10cmほどのところでホバリングしながら、カップルがかわりばんこに餌をとる様子は見ていて微笑ましい。
アカハチハゼをはじめとするクロイトハゼの仲間たちの餌はもっぱら砂中の有機物だか小動物だかのようで、大きく口を開けて砂ごと飲み込み、エラから砂粒を排出する、という食事の仕方になる。
なので食べ方だけを捉えると少々お下品ながら、可憐な2人がかわりばんこで餌を食べる様子はなにやらの作法のようで、むしろ上品ですらある。
ただし清楚で上品に見えるのは、若い頃までかもしれない。
大きくなると20cmほどになるアカハチハゼのオトナは、リーフの外では滅多に出会えないのに対しど、リーフの内側にはフツーにペアで暮らしている。
これがまた………デカい。
若い頃と同じような配色ながら、なにしろそのペアだけでカマボコが作れそうなほどデカいので、カワイイもへったくれもない存在感だ。
水納島のリーフの外ではそこまででっかい個体は見当たらないけれど、しっかりペアになっているので、産卵床にもなる巣穴のケアは怠らない。
彼らが頑張る様子も可愛いといえば可愛いものの、チビターレの可愛さときたら……。
これは3cm弱のチビチビで、頭だけじゃなく、各ヒレまで黄色く色づいている。
小さな頃はみんながみんなこのような色になるわけではないと思うのだけど、海底の砂が濃いところではこんな感じの子のほうが多いのだろうか。
季節来遊漁として伊豆方面で観られるアカハチハゼは、たいてい幼魚だという。
なので伊豆ダイバーのみなさんにとってのアカハチハゼといえば、黄色の濃淡はさておき、ともかく可憐で清楚なハゼのはず。
それをしてアカハチハゼだと思っている方が、完全無欠の巨大オトナを観てしまったら…。
きっと百年の恋もいっぺんに覚めてしまうことだろう。
ところで、ヒレまで黄色かったりすることもあるアカ八ハゼだから、その体色には濃淡いろいろあるだろう。
しかし少なくとも、頭部の黄色だけは万国共通……
…と思いきや。
2014年の真夏のこと、リーフの切れ込みの奥まったところで、見慣れている気がするのに見慣れない魚を見つけた。
アカハチハゼにしては、頭部がまったく黄色くない。
ひょっとしてこの子は、いまだ誰も知らないクロイトハゼ属の新種か??
……と一瞬色めき立ったものの、結局アカハチハゼなのだった。
図鑑によると、頭部の黄色味が薄くなる子が稀にいるらしい。
頭部が黄色くてこそ白い体が活きる配色だというのに、黄色が無くなってしまったら単なる地味な魚ではないか。
この少し前に襲来した台風があまりに凄すぎたために、顔面蒼白になったまま元に戻らなくなってしまったのだろうか。
いずれにせよレアケースらしいから、一期一会級の貴重な出会いであることはたしかだ。
※追記(2023年10月)
かつてはリーフの外ではわりと少ないほうだったアカハチハゼだったのに、近年はどういうわけかやたらとリーフの外の死サンゴ石ゴロゴロゾーンでフツーにチビチビのペアに出会うことができるようになっている。
そしてそれらが順調に成長するものだから、秋口になると若魚のペアをそこかしこで目にするようになってきた。
若魚サイズ以降のアカハチハゼはだいたい↑こういう色をしているのだけど、チビターレの頃は周囲の環境に合わせるからだろうか、本文中でも述べているように、かなり濃い目の色になっていることもある。
若魚サイズになっているペアでこういう色をしているアカハチハゼを観たことがない(気がする)から、これはチビターレバージョンのひとつということなのだろうか。
※追記(2023年11月)
依然レアケースではあるけれど、今年顔面蒼白ホワイティには2個体遭遇している。
しかもそのうちの1匹は…
…ノーマルタイプのチビとペアになっていた。
それ以前までの2個体はいずれも単独でいたのに、この3個体目は3匹中最小サイズ(3dmほど)にもかかわらず、すでにパートナーを得ているだなんて。
単独でいるとホントにアカハチハゼなのかどうか不安なところ、ノーマルアカハチとペアになっているおかげで、色彩変異個体なのだろうということがさらにわかりやすくなった…かな?