水納島の魚たち

アカヒメジ

全長 30cm

 オジサンの仲間たちは、たいてい海底付近でボイボイボイボイと餌を探している。

 ところがこのアカヒメジは、砂地の根や海底から少し離れた中層で、オジサンの親戚らしからぬ美しい群れを作る。

 砂地の根に居ついているものは根への依存度が高いのか、ポツンとひとつきりある根の場合、ダイバーが近づいてもその根を去ることはまずない。

 根には、若魚の頃から集まり始める。

 やはりダイバーがあまり訪れないところほどその数は多いようで、ひところは知られざる根だったところは、アカヒメジの若魚がわんさか群れていたこともあった。

 そういえば、このように根に集まり始めるころの最小サイズはすでに10cmくらいになっていて、オジサンやマルクチヒメジのように、もっと小さい頃の姿を観たことがない。

 チビチビアカヒメジって、どこでどのように暮らしているんだろう?

 これまでのミニマム記録は、リーフエッジに独りぼっちでいたこの子。

 ネッタイスズメダイのメスらしきオトナと比べてこのサイズだから、けっして激チビというわけではないけれど、少なくともこのサイズの群れは観たことがない。

 また、リーフ際でアカヒメジの若魚の群れを見る機会が、砂地の根でのそれにくらべるとかなり少ないことを考えると、上のチビはたまたまリーフ際に来てしまっただけで、本来はオトナになってからリーフ際にやってくるのだろうか。

 途中で追記(2021年9月)

 この稿を書いた翌年のシーズン頃から、リーフエッジ付近でアカヒメジの若魚たちが群れるようになってきた。

 その数年前くらいから、それまでオトナの群れなどほとんど観られなかったリーフ際でアカヒメジの大きな群れを見かけるようになっていた。

 アカヒメジは食用魚でもあるだけに、沖縄では沿岸漁業の対象魚でもある。

 けれど今の世の中、沿岸漁業で食っていけるほどやさしい時代ではないから、昔とは違ってリーフ際で本気で漁をするウミンチュは減っている。

 本部町内で名を馳せていたウミンチュおじぃもお星さまとなり、アカヒメジがリーフ際で群れるようになってきたのは、水納島のリーフ際で漁をするヒトがいなくなったからかも…

 …と喜んでいたのだけれど、今年(2021年)になってから、リーフ際では昨年ほど群れを観られなくなっている。

 ひょっとすると、増えたのをいいことに、再び漁獲圧が高まっているのかもしれない…。

 途中の追記終わり。

 知っているようで知らないことばかりのアカヒメジは、餌についてもわからない。

 日常的に中層で群れる魚はプランクトン食であることが多いけれど、アカヒメジたちが中層で何かをパクついている様子は観たことはない。

 かといって、海底に勢揃いし、オジサンのように餌を物色している姿も目にしない。

 アカヒメジたち、普段はいったい何を食べているのだろう?

 それはともかく、アカヒメジたちが食事シーンをなかなか見せてくれないせいで、意表を突く誤解をしておられた方々がいらっしゃる。

 その方々が口を揃えていわく、

 「アカヒメジって、ヒゲが無いのになんでヒメジの仲間なんだろうって思ったんだけど、ちゃんとヒゲがあるのね」

 オジサンの親戚らしからぬ群れといい、ヒゲが無いことといい(実際はあるんだけど)、それまでずっと、別の魚のグループではないのかと思っておられたのだ。

 たまさかアカヒメジの群れをじっくりご覧になっているときに、群れの中の1匹がリラックスしてヒゲを出してくれたおかげで、積年の誤解が解けたのだった。

 たしかに、群れを遠目で観るだけだと、ヒゲが無いように見えるアカヒメジたち。

 でも実際は、彼らはヒゲをキチンと収納スペースに収めているのだ。

 ダイバーが近づいてきて緊張していたり逃げ去る時などは、抵抗になるヒゲはこのように収納されたまま。

 一方、リラックスしているときは、けっこう頻繁にヒゲを出し入れしている。

 今さら訊けないアカヒメジのヒゲ。

 カミングアウトに至らずとも同じ誤解をしている方は、アカヒメジはれっきとしたヒメジの仲間なのでそこんとこよろしく。

 ところで。

 アカヒメジの体の色は、白っぽい黄色〜黄色なのに、どうしてアカ(赤)ヒメジなのか。

 実はアカヒメジは、死ぬと赤くなるのだ。

 今のように誰もが簡単にダイビングをして水中で生きている魚を目にすることができなかった昔、魚の名前というのは捕獲されて得られた標本、つまり死体をもとに名前が付けられていたのである。

 リーフ際の浅い岩陰で休んでいるアカヒメジは、その片鱗がうかがえる。< 死にかけているわけではないですよ。

 日中岩陰で安んでいる時に赤くなるってことは、夜寝る時はもっと赤くなっているのだろう。

 群れの中でホンソメワケベラにクリーニングされている時は、さらにわかりやすい。

 こりゃたしかに「赤」ヒメジだ。

 ところで、アカヒメジたちは自分たちだけで群れていることもあるけれど、他の魚と一緒になっていることもある。

 ノコギリダイが特にお気に入りのようで、リーフ際では両者混成の群れがたびたび観られる。

 このように両者入り乱れていることが多いのだけど、時にはまるで紅白歌合戦のようにクッキリ分かれていることもある。

 一緒に群れていい相手かどうか、品定めしている時だったのだろうか。

 ノコギリダイのほか、リーフ際や砂地の根では、こういう魚と一緒にいることもある。

 with シマアジ。

 1本の黄色い線の入り方が似ているからだろうか。

 リーフ際でアカヒメジの巨群と一緒にいるシマアジの様子は↓こちら。

 意外なところでは、こういう魚も混泳していたことがある。

 シマアジかと思いきや、よく見るとヒレナガカンパチの若魚だ。

 若魚の頃はシマアジのような黄色い線があるから、仲間意識が芽生えるのかもしれない。

 ちなみに、ヒレナガカンパチの若魚に出会ったことがあるのは、後にも先にもこの時だけ。

 混泳大好きなアカヒメジの群れ、毎度注目していれば、意外な出会いもある。

 それ以前に、ヒゲの有無チェックをお忘れなく。