全長 12cm
浅いところでオスメスともにフツーに出会えるアカオビベラ。
ただ、カミナリベラ属の魚たちはオスもメスも似ているものが多いから、とりあえず名刺交換をした程度のお付き合いだと、海中で出会ったときに咄嗟に名前が出てこない。
フツーに出会えるとはいっても、水納島の砂地のポイントで潜る場合、リーフエッジ近辺で遊ぶ習慣がないと、それほどお馴染みの魚ではないかもしれない。
また、浅いところで遊ぶのは好きだけどベラだからねぇ…という方は、そもそも目に入っていないかもしれない。
フツーにいるのに知名度は低いのは、そのあたりに理由があるのだろう。
リーフの上とか死サンゴ石が転がる海底付近いることが多い彼らは、胸ビレを使って気持ちよさげにスイスイ泳いでいる。
転石ゾーンを泳ぎ回っている際の目的はほぼ食事で、まるでコケを食むアユのように、スイスイ泳ぎながらときおり石や岩の表面をついばんでいる。
オスは↑このようにかなりのド派手メイクなのに対し、メスはシブく決めている。
シブく決めてはいるけれど、エサの食べ方はオスと同じで、砂粒ごとエサを口に含んだあと、砂粒をペッと吐き出す。
岩の表面には様々な海藻などの付着生物がくっついているんだけど、彼らはいったい何を食べているんだろう?
そういう場所では他の魚たちもエサを求めていることが多いので、タイムセールが始まったスーパーの惣菜コーナーのように、いろんな魚たちでにぎやかになっていることもある。
そんなお食事シーンはしょっちゅう目にするものの、なにしろ名刺交換をしただけのお付き合いでしかないため、彼らのやる気モードはいまだ観たことがない(産卵は夕刻らしい)。
観たことはないけれど盛んに繁殖もしているようで、コンスタントに若魚には出会う。
目の上から尾ビレにかけてうっすら見えるラインは、これよりもう少し小さな5cmくらいの子ではよりハッキリしている。
リーフの外で観られるアカオビベラのチビはせいぜいこれくらいまでで、真チビターレはリーフの中の浅い浅いところにいるようだ。
でも仮に出会えたとしても、アカオビベラもしくは他のカミナリベラ属のチビターレだとは気づけないかも…。
名刺交換を済ませた後は、さらに一歩お付き合いを深めなければならないようだ…。
※追記(2021年2月)
上記にて、
「仮に出会えたとしても、アカオビベラもしくは他のカミナリベラ属のチビターレだとは気づけないかも…。」
述べていたのは、まさに正鵠を射ていた。
というのも。
できることならこのままずっと手をつけずにいたかったブダイの仲間の写真を種類ごとに区分けしていたところ、どのブダイの幼魚にも該当しないチビチビの写真があった。
はて、このチビターレはいったい何ブダイ?
と、随分長い間あーでもないこーでもないと調べていたのだけれど、そこでハタと気がついた。
このチビターレ、よく見ると背ビレ尻ビレの後端に小さな眼状斑がある。
ブダイ類のチビチビに眼状斑があるものなど観たことがない。
これってひょっとしてベラなんじゃね?
…ということにようやく思い至り、このチビターレが実はアカオビベラのチビチビであることを知ったのだった。
2011年6月に撮ってから約10年間、ずっとブダイのチビだと思っていたのだもの、そりゃアカオビベラのチビだなんて気づけるはずはなかった。
ちなみに撮ったのは砂地のポイントのリーフの外の浅いところだったようで、まだオートフォーカスに頼らずに撮っている頃にわざわざ撮ろうとしたくらいだから、きっと海中でも「おっ?」と思ったのは間違いない。
ただ、そのまま「おっ?」で終わっちゃったから、「空白の10年」になってしまったのだった。
※追記(2021年7月)
アカオビベラチビターレの姿を認識して初めて迎えた今年(2021年)の春から初夏にかけての間、リーフ際の死サンゴ石ゴロゴロゾーンに行くと、いるわいるわ、そこらじゅうといっていいほどに、アカオビベラ・チビターレの姿があった。
また、水温が上がり始める梅雨頃になると、満潮時ちょいあとくらいにやる気モードになったアカオビベラのオスの姿をリーフ上でよく目にするようになった。
先にアカオビベラの「産卵は夕刻らしい」と書いたけれど、満潮時チョイあとのタイミングでさえあれば、時間帯は関係ないようで、午前中から相当盛んなアカオビベラオス。
普段目にする色味と比べ、頭部周辺がいささか異なる発色を呈しているのは、これまた産卵前行動の盛り上がりバージョンだからのようで、メスのお腹も卵でプックリ膨れている。
オスはリーフ上のサンゴの周りにたむろしているメスたちを忙し気に訪ね回ってはしきりにアピールし……
…また別のところへ去っていく、という慌ただしい動きを繰り返している。
その動きがやたらと素早く、「ワッセ、ワッセ、ワッセ………」とハリキリ倒している様子は、観ているこちらの息が上がってくるほどだ。
しかも、普段の彼らはカメラを向ける間もなく逃げていくのに、盛り上がりまくっているせいか、ワタシの存在など意に介さない…というか、むしろ邪魔だと眼で訴えるが如く、カメラに向かって泳いできては、スルドイ視線を向けてくる。
邪魔しちゃ悪いので一歩下がって様子を見ていると、さきほどから何度もアピールし倒してたメスのうちの1匹を伴い、リーフエッジのサンゴの上にやってきた。
2匹でリズミカルに泳ぎながら、少しずつ上昇するアカオビベラ。
いよいよ産卵か?
と注目していたら…
アッ………
…と言う間もない電光石火の早業で1mほど垂直上昇し、素早く産卵。
速い、速すぎる……。
全体的に忙し気なアカオビベラは、最後の最後になって通常の3倍のスピードになるのだった。
「赤」オビベラという名は伊達ではなかった。