水納島の魚たち

アカテンモチノウオ

全長 30cm

 この稿で「モチノウオの仲間」としているものは、モチノウオ属とホホスジモチノウオ属の2つグループを含めている。

 そのうちのモチノウオ属に限定すると、水納島の場合最もフツーに会えるモチノウオの仲間、それがこのアカテンモチノウオだ。

 ただ。

 フツーに会えてはいても、ほとんどのダイバーがまったく気に留めていないと思われる。

 実際、過去26シーズンにおいて、産卵シーン以外でワタシがゲストにアカテンモチノウオをご案内したことは一度もない。

 リーフ際から始まるサンゴ礫が転がるゾーンにいることが多いアカテンモチノウオは、基本的にのんびり泳いでいることが多い。

 でも食事のチャンスと見るや、目の色が変わる。

 もっぱら海底の小動物をエサにしている彼らは、ワモンダコが小岩の下のエビカニなどを狙っている気配を察知すると、すかさずそばにやってくる。

 小石の裏側にワモンダコが足を延ばして獲物サーチすると、えらいこっちゃ!とばかりに小動物が飛び出してくる。

 アカテンモチノウオは、あわよくばそれをゲットしようという魂胆だ。

 なのでオジサンが海底を漁っているところにも…

 おこぼれ狙いでひょっこり顔をだすアカテンモチノウオ。

 もちろんながら、石を引っくり返すことを天命と思っているかのようなエビカニ好きダイバーや、フィンキックで激しく海底を巻き上げるビギナーダイバーのそばも、彼らのポールポジションになる。

 ダイバーたちが自分に興味を示さないことを熟知しているのか、彼らの行動はときとしてとても大胆になり、間近にいてもまったく物怖じしない。

 なので目当てのエサが見つかると……

 目の前でもゲット。

 その様子を再現すべく、わざとフィンでバタバタさせてみた。

 ビギナーダイバーやメクリストの後ろには、アカテンモチノウオの姿アリ。

 食事のあとは、ホンソメケアも欠かさない。

 お腹がいっぱいだからなのか、日中だというのに時には昼寝をしていることもある。

 いくらダイバーが自分に無関心だからといって、あまりにも無防備なその姿。

 初めて観たときは気絶でもしているのかと思ってビックリしたものだったけど、アカテンモチノウオはしばしばこのように休憩しているらしい。

 ところで、上の写真でもわかるように、彼らもやはり体色をコロコロ変える。

 なので中途半端なサイズだと雌雄がわかりづらいものの、オスの縄張り内にいるメスは総じてオスより2周りくらいサイズが小さく、↓こんな感じ。

 水温が温かいうちが彼らの繁殖シーズンで、初夏から夏にかけて最も盛んになる。

 そういう季節になると、アカテンモチノウオたちはダイバーが無関心なのをいいことに、人目を憚ることなくイチャイチャする。

 君とイチャイチャ…

 してるところを……

 見られちゃったぁわ。

 えーかげんにせいッ!!

 …と誰かが突っ込まないかぎり、ずっとイチャイチャしているかもしれない。

 日中に産卵するベラ類の場合、満潮のピークを過ぎたくらいからの数時間を産卵のタイミングにしているものが多いので、日によってそれが昼前であることもあれば、午後遅い時間ということもある。

 産卵の際にはオスがメスの上方で気を引く動きをしながら、メスがその気になるのを待つ。

 盛り上がってきたメスがその気になると、1匹ずつオスのもとへと昇り始め、やがて普段はそこまで行くことはない中層までペアで昇りつめ……

 プシュッと産卵、放精をする。

 人目を憚らないアカテンモチノウオだけに、産卵シーンを観察させてくれる機会は多いのだけど、なかなか撮る機会はなく、たまにチャンスに恵まれてもその瞬間のタイミングをはずしてばかり。

 それでもたまに神が降りてくるときもあって、まさに産卵・放精の瞬間を捉えたこともある。

 ほとんどシルエットでしかない写真ながら、放出されたばかりの白いモヤモヤしたものが写っていた(矢印1)。

 そしてその瞬間、なにげにメスは「アヘ…」って顔だったりする(矢印2)。

 メスはメスで、渾身の力を振り絞っているのだろう…。

 潮のタイミングに左右はされても産卵は日中でもあることだし、場所はフリータイム後の船の近くなので、シーズン中なら潮のタイミングさえ合えば高確率で観ることができる。

 同じベラでもヤマブキベラ類に比べれば産卵行動もゆったりしているから、産卵の様子は儀式めいて優雅にさえ思えるかもしれない。

 産卵に限らず、見どころたっぷりのアカテンモチノウオ、会う機会はたくさんあるのにスルーしていたんじゃ、もったいない。

 もっとも、多くのヒトが注目するようになると、まったく別キャラになってしまうかも??