水納島の魚たち

アオイソハゼ

全長 2cm

 普段は本土の海で潜っておられる方々にとって、亜熱帯の海はどこからどこまでもトロピカル。

 そのため、見るものすべてにカメラを向ける…という、1分1枚以上撮影ペースの猛者(?)のキモチもわかる。

 でもそんな方々でさえ、いつでも出会えるイソハゼの仲間をわざわざ撮るヒトは少ない…

 …と思われる。

 それも、昔から誰もが知っているアオイソハゼとなると、夢中で撮っている、というヒトなんて皆無…

 …に違いない。

 おまけに現地で日常的に潜っている我々もまた、彼らに熱いマナザシを向けることなど、少なくともこれまではまったくなかった。

 となると、下手をするとアオイソハゼなど誰も撮っていない……

 …かもしれない。

 となると、彼らの記録はどこにも残らない?

 しかしその危機は、彼らの個体数が救ってくれた。

 フツーに観られるイソハゼはみんな似たようなものながら、アオイソハゼもリーフ際のそこかしこにチョコン、チョコンといるものだから、ふと気が向いたときにパシャ…くらいのことは誰もがしているはず。

 写真を撮ることはなくとも、このテの小さなハゼにも目が行くヒトなら、たいていのヒトが出会っているのは間違いない。

 ただ、その小さなハゼが「アオイソハゼ」という種類だというところまで意識が行くかどうかが生物分布上の渡瀬線のようになっているらしく、その断絶の先にいらっしゃる方は極めて少数…ということになっていると思われる。

 だからだろう、アオイソハゼの写真こそネット上にはたくさんあるものの、アオイソハゼが何をした、どうした、といったドラマチックな写真はまったくといっていいほど見当たらない。

 かくいうワタシもアオイソハゼなんていったら

 「あ、アオイソハゼね…」

 な魚だったから、かろうじて記録写真を残しているに過ぎない。

 ところが、アオイソハゼね…程度でカメラを向けてみれば、その背ビレがとんでもなくロングフィンになっている子に出会うこともある。

 オスの背ビレがビヨンと伸びるということは知ってはいたけど、よく見かけるのは冒頭の写真くらいのもので、ここまでとんでもなく長くなるとは知らなんだ…。

 まさに「アオイソハゼキング」

 ところで、赤いのになんでアオイソハゼなの?と昔からずっと不思議だったのだけど、このアオイソハゼキングは全体的に普段よりもペールブルーって感じに見える。

 そして胸ビレ付け根の上(矢印の先)には…

 …青い星が!

 ひょっとして、これがアオイソハゼの「青」なのだろうか。

 オスの背ビレで「おっ!」となることもあれば、メスのお腹で「ん?」となることもある。

 お腹がパンパン!

 背ビレが伸長していないのはメスの印で、そのお腹がパンパンなのは、まず間違いなく卵だろう。

 ↑この2枚の写真はそれぞれ別の年の4月に撮っているもの。

 一方、12月や1月に撮ったものを見てみると…

 お腹はペッタンコ。

 5月に撮ったものでは…

 お腹はパンパンってほとではないけれど、これからもう一勝負って気配がある。

 以上に鑑みた場合、ワタシのようなシロウトは即座に、

 「アオイソハゼは春に繁殖期を迎えている。」

 …と結論づけるのである。

 そして昨年(2024年)5月には、ついにアオイソハゼのイチャラブシーンに遭遇した。

 着底している1匹の周りを、もう1匹がホバリングしながら、まるで言葉巧みに耳元に誘いかけるような感じで気を引いていたのだ。

 その一連の様子を…

 つかず離れず、離れてついて、もう1匹にしつこくまとわり続けるその様子は、どう見てもメスに対するオスの求愛以外のナニモノでもない。

 観ているうちにオスもだんだん大胆になってきて、ついには…

 CHU!

 これはたまたまそのように見えた瞬間というわけではなく、ホントにCHUしている。

 いやあ、春ですねぇ…。

 もっとも、この彼の熱烈な求愛にもかかわらず、彼女はつれなくその場を脱し、しつこいオスから逃れてしまったのだった。

 この年、彼に春は訪れたのだろうか?

 ちなみにこのイチャラブ時、普段はほぼ透明なオスの尻ビレが、いつもとは異なる発色を見せていた。

 これは興奮モードの一端っぽい。

 もっと絶大にフィーバーしている時には、いったいどんな装いになっているんだろう…。

 彼らのフィーバー色を観るなら、きっと狙いは春…

 …絶望的に水温低いけど。