全長 5cm(写真は1.5cmほどの幼魚)
このスズメダイは、図鑑的にはさして珍しいとされている魚ではない。
ただ、主な生息域が水深3m以浅、しかもほぼインリーフのため、ボートダイビングでフツーに潜っている分にはそうそう出会えない。
ボートダイビングで出会うなら、リーフ際の浅いところやリーフが切れ込んで内湾状になっている浅く穏やかな場所にあるサンゴ(もっぱらミドリイシ)を探すしかない。
運が良ければ、たまたまそこで暮らすことになっているアツクチスズメダイに出会えることもある。
本来の生息場所ではないため、オトナになるまでその場所で育つケースは稀ながら、2cm前後の幼魚は年に1、2匹観ることもある。
昨年(2017年)に出会ったチビターレは、人生最小級だった。
ミドリイシのポリプと比べれば、いかに小さいかおわかりいただけよう。
あいにくこのスーパーチビターレは、これ以上大きく育つことなく姿を消してしまった。
リーフの外では滅多に出会えないアツクチスズメダイながら、インリーフのサンゴが多いゾーンで潜ってみると、オトナも子供もそこらじゅうにいることを知る。
アツクチスズメダイもやはり、成長にともない、鮮やかなブルーのラインが失われていく。
ブルーラインは、もはや名残り状態。
これがさらにオトナになると……
せっかくトロピカルな海に潜ってるんだもの、地味な魚には目もくれない!なんて方なら、ひと目見ただけですぐさまスルーしてしまうこと確実なジミー地味地味。
しかし彼らオトナには、注目すべきポイントがあるのだ。
写真の子はまだ完全なオトナになりきっていない若者ながら、すでにその注目すべき大人の片鱗がうかがえる。
完全な成魚になると、彼らの名前の由来がひと目でわかるようになる。
もうおわかりですね?
そう、この唇!!
いくら毒性は弱いといっても一応刺胞毒を有するサンゴのポリプを食べるには、やはりアンジェリーナ・ジョリー級の唇の厚さが必要なのだろう。
また、彼らはサンゴの根元付近の肉を剥がして、そこを産卵床にするというから、それができるのもこの唇の厚さのおかげに違いない。
いずれも生きていくうえで大事なことながら、さらにシビアでスリリングなクチビルの使い道があった。
同じくインリーフで潜っていた時のこと。
枝サンゴの枝間をナワバリにしているアツクチスズメダイが、珍しくサンゴから離れたところに数匹いる…
…と思っていたら。
バトル開始!!
両者睨み合いの態勢から……
激突!
両者譲らず再び間を取り……
さらに激突!
くんずほぐれつの死闘が続く。
まさにがっぷり四つ!!
……これが実はオスとメスの求愛だったりしたらひっくり返るところだけれど、どう見てもオス同士の争いですよね?
ちなみに傍らには、戦いを見守るレフリー・ジョー樋口の姿もあった。
どさくさまぎれにレフリーまで参戦しそうな勢いだったけど、どういう争いなんだろう?
ともかくも、アツクチスズメダイのバトルは続く。
その厚い唇は、熱い戦いのためにあったのだった。
波打ち際からほんの少し入ったところで繰り広げられているドラマチックワールド。
水深2m弱のダイビングも、なかなか捨てたものではない。