全長 20cm
パッとしない体色、ノットフレンドリーな性格、居場所はほぼリーフの上と、ファンダイバーにスルーされる要素が三拍子揃ったアザミカワハギ。
しかし彼らには、そんじょそこらの魚たちが真似できない特徴がある。
彼らアザミカワハギの腰(?)付近には、ヒレのような突起がついているのである。
パッと見だとヒレに見えるこの突起、しかしどんな魚であれこんなところにヒレが出ているはずはなし。
寄生虫かな?
と思いきや左右対称についている。
ひょっとしてこれは………放射能汚染による奇形か?
と、昨年(2017年)初めて気がついたときは、ビックリして凝視したものだった。
ちなみにこの特徴的な突起は、オスとメスでやや形状と質が異なり、オスは密集した棘っぽく長く伸びている。
それに対してメスは、突起が短めで質感も太い毛のように見える。
突起に大小こそあれ、オスでもメスでもとにかくこんなところにヒレ状に見えるものがあると違和感アリアリ。
こんな特徴があるというのに、昨年までその存在に気がつかなかったのが我ながら不思議だ。
ただ、吉野雄輔著「日本の海水魚」(ヤマケイ刊)では、
「日本では稀種」
と明記されている。
ひょっとすると、それまでずっといなかったけれど、何かの拍子に水納島に流れ着いた子たちがオトナになるまで育ったということかもしれない。
その程度の遭遇頻度しかないけれど、場所によっては2ペアくらいいるところもある。
なのでそこに行けば、いつでも会える魚になっているアザミカワハギ。
ただし彼らはもっぱらリーフ上にいるので、通常のファンダイビングをしていると、出会いはいつもフリータイム以後くらいの終盤になる。
そのうえこの魚は警戒心がやたらと強く、ちょっと視線を向けるとすぐさま後ろ向きになって逃げを決め込むから、短時間ではフツーに横から捉えた証拠写真をなかなか撮ることができない。
ついでではどうにも埒が明かないから、いっそのこと最初からずっとこのアザミカワハギと付き合ってみよう。
しかしリーフ上限定とはいえ、逃げを決め込んだ彼らの移動距離はけっこう長い。
そのため当初は安全地帯にいるはずだったのに、追いかけて泳いでいるうちにいつの間にかデンジャーゾーンに突入してしまい、気がついた頃には時すでに遅く、ゴマモンガラに足首を噛まれてしまった…。
そこまでしてもとにかくすぐに逃げるから、後ろ姿ばかり拝むことになる。
日を改めた次なる作戦では、カメラを変更してみた。
警戒心の強い魚を相手にするには、与える脅威をなるべく小さくするにしくはない。
そこで、何かとかさばるデジイチでの撮影を諦め、コンパクトさでいえば右に出るものはゴープロくらいのキレンジャーで迫ってみることにした。
そうすれば、サンゴの陰に隠れながら逃げ惑う彼らを撮りやすくなるはず。
すると……
フツーの写真OK!!
もっとも、逃げ惑った末に逃げ場を失ったところを失礼しているので、どう撮ってもオドオドしているような顔しか撮れない。
普段の彼らは、もっと気楽に楽し気に、リーフの上の中層にいたり、岩肌のエサをついばんでいたりする。
パートナーがいれば2匹で一緒にいることも多く、のんびりしている様子が微笑ましい。
でもそれを眺めていられるのは遠目にいるときだけ。
近づこうものならただちにダッシュ、ひとたび逃げるとなると連れのことはとりあえず気にかけず、スタコラサッサと逃げてしまうアザミカワハギである。