全長 30cm(写真は8cmほどの若魚)
暦は秋ながらもまだまだ海中は夏の様相を呈していた今年(2021年)9月末のこと、リーフ際でオタマサが発見した魚は、まさかのアズキハタだった。
図鑑的にはレア扱いではないものの、我々がこれまで水納島で観たことがなかった魚である。
リーフ際の海底に点在するちょっとしたサンゴ群落を根城にしているようで、オタマサの発見から数日後に訪れたところ、同じようにサンゴの枝間からチョロチョロしていた。
枝間をウロチョロしているとはいっても「逃げ隠れ」しているわけではなく、まさに「根城」という雰囲気。
8cmほどだからオトナのアズキハタに観られるような鮮やかな赤色の小豆模様は無く、まだ幼魚といってもいいほどのチビターレだ。
図鑑的には日本にもフツーに分布している扱いになっているし、その昔訪れたモルディブの海では、オトナをわりとフツーに見かけた記憶がある。
モルディブ・バンドス島(1993年)
しかし水納島はおろか沖縄では、これまでまったく目にしたことがない(オタマサは八重山のどこかで目にしたことが一度あるらしい)。
個人的国内初登場である。
しかもこのサイズのチビは、初登場でいきなり人生最小記録を樹立。
それにしても、サイズといい柄といい、サンゴの枝間から出入りするそのたたずまいが何かに似ている。
このように静止画像を見れば紛うかたなきハタのフォルムをしているとはいえ、発見者オタマサも、見つけた瞬間はベラの幼魚かと思ったといっていたほどの枝間チョロチョロ感は、↓この魚にそっくりだったのだ。
カザリキュウセンの若魚〜メス。
サンゴ群落への依存度が際立って高いカザリキュウセンの幼魚〜若魚は、サンゴの枝間で出たり入ったりすることが多い。
アズキハタヤングアダルトの雰囲気は、そのカザリキュウセンの様子にそっくりではないか。
…と思ったら、実はそれこそが、アズキハタヤングアダルトがサンゴの枝間にいる目的であるらしい。
というのも、カザリキュウセンはその小さな口で甲殻類などの小動物をエサにしている魚だから、周辺にいる小魚たちにとってはまったく脅威ではない。
その脅威ではないベラに似た姿でサンゴの枝間に潜りこめば、「フムフム、ベラね…」と安心しきっている小魚の隙をついてパクリ!とできるというわけだ。
自衛のためのカモフラージュではなく、捕食のための隠蔽作戦のことを、「攻撃型擬態」と呼ぶそうな。
なるほどさすがハタ、知恵者だけに獲物ゲットの方法にもいろいろあるらしい。
そういう目で観てみると、なんとなく得意気にも見えてくる。
それにしても、こんな小さなナリで、ホントに小魚などをゲットできるのだろうか?
あ……まったくモンダイ無さそう。
やがてこのチビも、体が小豆模様で彩られるようになる頃には、立派な「ハタ」になっているのだろう。
モルディブ・バンドス島(1993年)
↑これくらいまで育ってくれるかな?
※追記(2022年3月)
その後このアズキハタは、年が変わる前に忽然と姿を消してしまった。
やはりここは彼女が育つにはキビシイ環境なのだろうか。
…と、すっかり亡き者と諦めていた今年(2022年)3月、ほとんど同じ場所で再会することができた。
モルディブで撮った写真の子くらいとはいかないまでも、しっかり小豆模様が出始めるくらいには成長していた。
ひと冬の間に彼女がスクスク育っているってことは、その分周辺のスズメダイやベラなどがパクパク食べられ続けていたってことでもある。
でもたとえ彼女がオトナサイズになるまで成長を続け、その後も生きているかぎり小魚をパクパク食べ続けても、周辺の小魚たちはけっして絶滅したりはしないのだった。