全長 12cm(写真は8cmほどの若い個体)
ベニハナダイは本来、岩場のポイント、それもドロップオフの下層といった深いところにいるハナダイのようで、残念ながら水納島のダイビングスポットでは観られない。
なので美しいオスは、その昔伊江島の北側のドロップオフの深場で目にしたことがあるきりで、その後は一度も観たことがない。
水納島との中間にある中の瀬では、わりと深い崖の下でベニハナダイが複数匹いたことがあるものの、最大のものでさえメスの体色だった。
あと一歩でオスになりそうな雰囲気だったから、期待を胸にその後再訪してみると……
…Gone。
やはり本来の生息環境ではなかったのか。
そんなベニハナダイの幼魚が、水納島の砂地のけっこう深い根にいた。
2010年のことである。
他のハナダイに混じって1匹だけいたその子は、なんだか病弱なケラマハナダイチビといった雰囲気だったからよく観てみると……
なんとベニハナダイのチビではないか。
ヤデウデシヤとばかり、窒素が体に溜まるのも忘れ(忘れてないけど)、パシャパシャ撮っていると、突然ファインダーから姿を消した。
あれ?
あまりに忽然と消えたから不思議に思い、どこに逃げたのだろうとあたりを見回そうとしたところ、すぐそばに口をモゴモゴしているヘラヤガラが。
ひょっとして………食われちゃった??
「勝手にシロクマ」のシロの彼女・モモンガのチョシちゃんが、シロのお母さんに食べられたことを知ったシーン以来の衝撃!!<ご存知??
誤解のないように言っておくけど、けっして撮影のために追い掛け回し、ベニハナダイだけを孤立させてしまったわけではない。
それどころか、周りに群れているハナダイたちよりよほどベニちゃんはワタシに近く、ヘラヤガラがベニちゃんを狙うには、わざわざダイバーに近づくというリスクを冒さなかればならなかったはず。
そこまでしてゲットするなんてどういうわけだ。
あ!!
そういえばその昔、野生の王国でもワクワク動物ランドでも言っていたっけ。弱肉強食の世界には、怪我したものや体が弱ったものが真っ先に狙われるという厳しい掟があるって…。
同じトムソンガゼルの群れでも、ケガをしていたり年老いていたり子供だったりすると、ひと目で猛獣たちに気づかれるのだという。
このベニハナダイちゃんはけっして弱っていたわけではない。
けれど、当初は病弱のケラマハナダイに見えたくらいだから、一緒に潜っていたオタマサでさえ、僕が指差す先を観てすぐさま「珍!」と気づいたほどだから、よっぽど周囲から浮いていたのである。
超馬面マヌケ顔とはいえ、れっきとしたハンターであるヘラヤガラから観れば、それは他に比べて際立って弱っている魚に見えたに違いない…。
稀種というのはえてして個体数が少なく、たまたま偶然そこにいるのはたいてい1、2匹でしかないことが多い。
ワタシはこの日このとき、なぜそれらの稀な魚たちがあくまでも頑なに稀であり続けるのかという理由を、ファインダー越しに瞬時に悟ったのだった。
さて、そんなことがあってから7年経った2017年のシーズン中に、再び砂地の根でベニハナダイの幼魚を発見!
前回よりも遥かに浅い根で、しかも小さめながら同じ場所に3匹もいるではないか。
そのうえここには、この3匹よりも少し大きなお姉さんもいて、都合4匹ものベニハナダイが、水深23mほどの根で暮らしていた。
儚い一期一会で終わってしまった前回のロンリー少女とは違い、多勢になったからなのかたまたまなのか、5月に発見したにもかかわらず、このシーズンが終わる10月まで、ついにずっと居続けてくれたベニハナダイ少女隊(一番上の写真がそのうちの1人)。
7月の初めには、やや大きめだった子が他の子に対してオスのそぶりを見せるようになっていて、オスの特徴である紅色の点をうっすらと出しながら、婚姻色っぽい色まで出していることもあった。
ここまで来たら、完全なオスの体色まであと一歩!!
が、この年10月の段階では、オスの姿を目にすることはなかった。
はたしてベニハナダイ少女隊、この場で小さいながらもハレムを形成するのか、それともこれまで同様、束の間の輝きで終わってしまうのか。
続報を待て。
※追記
残念ながら、翌年にはもういなくなってました…(涙)。