全長 8cm
ニシキオオメワラスボと同じ場所でなら、水納島でもわりとフツーに観られるダイダイオオメワラスボ。
和名が付けられていなかったその昔は、「オレンジラインワームゴビー」と英名で呼ばれていた。
山渓の「日本の海水魚」という97年に刊行されたノットポータブルな分厚く重い図鑑では、ニシキオオメワラスボもダイダイオオメワラスボもともに英名カタカナ表記で掲載されている。
その後2004年に平凡社から出た「日本のハゼ」では、ともに立派な和名で掲載されている。
和名が付けられたのはその間のことらしい。
なので島に越してきた当時(95年)には、両者に和名はなかった。
日本に分布しているにもかかわらず和名がついていないというのは、学術的には分類学的研究の手がそこまで及んでいないということでもある。
そのため我々シロウトからすると、むしろオレンジラインワームゴビー、ネオンワームゴビーという英名しかなかった頃のほうが、両者にある種の「神秘性」があったような気がする。
なので当時はオレンジラインがいただのネオンがいただのと盛り上がっていた覚えがあるのだけれど、やがて和名がついてしまうと、なんだか急に「手垢がついた感」を覚えてしまい、さほど注目しなくなってしまった。
やがてその後長い月日が経つと、いつの間にやら「水納島にはダイダイオオメワラスボはいないよねぇ…」と思い込んでいた。
きっとその間もダイダイオオメワラスボと出会ってはいたのだろうとは思う。
しかしオオメワラスボ類は警戒心がけっこう強く、容易にホイホイと近寄らせてくれない。
なので遠目にオレンジラインがあるオオメワラスボ系を観れば、ニシキオオメワラスボね…で済ませるようになってしまっていたらしい。
ところが久しぶりにニシキオオメワラスボに注目してみると、意外や意外……
…ニシキオオメワラスボとダイダイオオメワラスボがたびたび出会っては、何かを主張しあっているではないか。
おかげで、ニシキオオメワラスボ同様場所限定ながら、ダイダイオオメワラスボもけっこう数多くいることを思い出してしまった。
彼らを観分けるには、尾ビレを観れば一目瞭然。
ニシキオオメワラスボにはある黒斑が、ダイダイオオメワラスボにはまったく無い。
また、ニシキオオメワラスボにはある鰓ブタあたりの黒点もまた、ダイダイオオメワラスボには無い。
黒点や黒斑どうこう以前に、全体的なフォルムはダイダイオオメワラスボのほうが細長く、より華奢に見える。
…気のせいですかね?
フォルムはともかく、長い間ワタシの大脳辺縁系の奥にたたずむ海馬の内奥でずっと眠ったままでいたオレンジラインワームゴビーが、ダイダイオオメワラスボとして今ようやく甦ったのだった。
※追記(2022年9月)
クロエリオオメワラスボの稿でも触れているように、かよわそうに見える細長い体からすると意外なほどに肉食系の口をしているオオメワラスボの仲間たち。
その口でいったい何を食べているのだろうか、ということは長年のナゾだったのだけど、この夏(2022年)ついに彼らの食事シーンに遭遇した(オタマサが)。
そうそう簡単に撮らせてくれないオオメワラスボ系のはずなのに、その日オタマサが出会ったダイダイオオメワラスボは逃げも隠れもせず、その場にいたままだったという。
それはなぜかと尋ねたら(ベンベン)。
ありゃ?
このダイダイオオメワラスボ、なにか咥えてる?
エビを食ってる!
オオメワラスボの仲間たちはたしかに肉食系の口の作りだとは思っていたけれど、まさかこんなものを食べていたとは…。
オタマサによると、エビを咥えている間は逃げも隠れもできなかったのが、ゴクンと飲み込んだあとはピューッとこの場を離れていったそうな。
場所によっては砂底上でたくさんホバリングしているクロエリオオメワラスボたちは、みんなこのように小さな甲殻類を狙っているのだろうか。
砂底の小さな小さなエビたちは、ヒトの目に触れることなくひっそり平和を満喫しているのかと思いきや、捕食者の目には思いっきり触れているようだ。
エビたちも四六時中サバイバーなのだなぁ…。