全長 4cm
ゲストにお魚さんたちを見てもらう際、ほら、そこにいますよ、と指し示してもなかなか認識してもらえない魚はけっこういる。
奇怪な形をしたものが多いため、前もってその存在を知っていなければ、指し示された先にどのような色、形状のものがいるのか見当もつかないから無理はない。
その他、サンゴの枝間などに隠れ潜んでいる魚たちも、ゲストの目にはなかなか触れてくれない。
このダンゴオコゼもまたしかり。
リーフ上にポコポコ観られるヘラジカハナヤサイサンゴの枝間にいることが多いダンゴオコゼは、枝間といっても枝の付け根のほうにいることが多いため、チラッと枝間を覗く程度では、なかなかその姿を確認できない。
枝間の奥だからどこから観ても覗けるわけではなく、ビンゴ!な方向があるため、ガイドが指示棒などで指し示す方向どおりに覗き見れば、灰色の小さな物体がチョロチョロしているのが見えることだろう。
苦労して覗き込んで、なんだこんな地味な魚か…と侮ることなかれ。
英名ではこのダンゴオコゼのことを「ヴェルベットフィッシュ」と呼ぶこともあるらしい。
ヴェルベットとはビロードのことである。
彼らの姿が、フワフワした肌触りのように見えるからのようだ。
実際彼らの体表は……
このような小さな写真でもわかるくらい、まさにビロードの絨毯!!
こうなると全身を観てみたくなるのが人情というモノ。
しかし。
ヘラジカハナヤサイサンゴの枝間が他に比べて広いとはいっても、ダンゴオコゼは全身を余さず見せてくれるほど危険を顧みないわけではないため、顔を拝見するだけでもけっこう根気が必要だったりする。
全身を観られることがあったとしても、たいていの場合……
上からになる。
顔を観られるのを嫌がるダンゴオコゼが反転すると、尾ビレ側から観ることはできるけれど……
…それはそれで可愛くはあるものの、ケツだけ見て楽しいというヒトは少ない。
お団子のような体も可愛いけれど、ダンゴオコゼはやはりその顔があってこそ。
特にサンゴが白化している時だと、淡いピンクになったサンゴの反射光で、ダンゴオコゼはかなりアヤシイ色に染まることもある。
まぁこれは撮り方のモンダイでダンゴオコゼには関係が無いんだけど…。
サンゴに暮らしを依存しているダンゴオコゼにとっては、サンゴの白化はコロナ禍の日本経済と同じくらい大ピンチになる。
特に世界規模でサンゴが白化してしまった98年当時は、彼らダンゴオコゼたちがもっぱら住処にするヘラジカハナヤサイサンゴは健気にもかなり生き残ったものがあったにもかかわらず、住人のダンゴオコゼはまったく見られなくなってしまった。
住処は無事でも、周囲のサンゴが壊滅してしまうと、彼らの食のほうは無事ではなかったということなのだろうか。
それまではフツーに観られたというのに、白化後再びサンゴが復活してくるまで、随分長い間「レア」な魚になっていたダンゴオコゼ。
幸いにも近年(2021年現在)はフツーに観られる魚になってくれているから、ヒトによっては「いるのが当たり前」の魚かもしれない。
でもそれが当たり前ではなかった時代もあったことを知っている我々は、フツーに会えることこそをヨロコビとしなければならない。