全長 50cm(写真は4cmほどの幼魚)
今年(2020年)は、7月が終わるまでただのひとつも台風が襲来しなかったからか、例年に比べて出会う幼魚の種類や数がとても多い。
また、コロナ禍のせいで海水浴場がクローズ中という、 願ってもない 大変残念な 状況でもあったので、例年のような頻繁に行き来するジェットスキーも皆無。
そのおかげで、ゲストが桟橋まで下りてくるまでの時間を利用して、桟橋の付近あたりからうちのボートを停めている付近にかけて、のんびりサーチすることもできていた。
そんなおり、オタマサが怪しいクリーチャーサーチをしていたところ、冒頭の写真の幼魚が海底にチョコンとたたずんでいるのを発見した。
パッと見は枯枝の切れ端にしか見えないこの黒い物体、まぎれもない魚である。
そのサイズはこれくらい。
白い砂底に黒いものがこの1匹だけいるならともかく、周囲には同じような色形をした海草の切れ端や枯枝などが散乱しているなかとなれば、スルーしていてもおかしくはない。
しかしそんな状況下にもかかわらず目ざとく発見するオタマサ、前方視野30度以内の集中力はさすがである。
それも、何かヘンなものがいるに違いない、という目でサーチしていればこそで、ただボーッと水面に浮いているだけではまず見過ごしてしまうだろう。
ちなみに上の写真では、写真右側が頭。
前から観るとこんな感じだ。
一見してコチの仲間であることはわかるけれど、さて、何ゴチだろう?
一時的に「ワニゴチではないか」ということで落ち着きかけたのだけど、ご本人が謙遜していわく、「かつてコチ類に詳しかった」屋我地のS下さんからご教示をいただいた。
いわく、
「ワニゴチは沖縄には分布しておりませんので、顔の長いながい、細い細い特徴から考えても、エンマゴチです。
サンゴ礁域で沖縄に分布が知られているものから考えて、おそらく間違いない。
サンゴの上にちょこんと乗る姿は、よく写真に撮られるけど、これほどのチビは珍しいだろうし、砂地は珍しい気がします。
貴重な写真です。ありがとう 。」
ちなみにエンマゴチは1991年に新和名が提唱された魚で、屋我地のS下氏は、当コーナーでもちょくちょくお名前を登場させていただいているY先生とともに日本初分布記録論文を書いたヒトでもある。
いわばエンマゴチの名付け親だ。
名付け親がその魚であると言ってくれているのだから、この「砂底の珍客」の項で扱っているコチ類のなかで、珍しく自信をもってその名を語ることができるのだった。
ところで、このような珍客は、その日その時かぎりの一期一会で終わることが多いのだけど、このエンマゴチ・チビターレはよほど居場所が気に入っているのか、その後10日近く経ってもずっと同じ場所に居続けていた。
このままシーズン終了までいたりして…
…という期待もむなしく、ついに本格的襲来になりそうな台風後には、すっかり姿を消してしまっていることだろう。
※追記
実際そのとおりになりました…。
※追記(2022年11月)
エンマゴチチビターレとの初遭遇から2年経った今秋(2022年)、再びエンマゴチの幼魚が桟橋脇に現れた。
桟橋脇に停めてあるうちのボートの傍らを泳いでいた方が教えてくださったもので、真夏なら朝早い時間にしか見られないレインボー光線が、お昼過ぎだというのに、地味な魚に彩りを添えてくれていた。
こうして見ると、件の通りすがりの方が「ワニみたいな魚は何ですか?…」とおっしゃったのも無理はない。
2年前に出会ったチビの倍くらいあるとはいえ、エンマゴチのオトナサイズからすれば、まだまだチビターレもチビターレ。
まさか2年でこの程度の成長率ってことはないだろうから、きっと別個体なのだろう。
探せば他にもポツポツいるんだろうか、エンマゴチ…
…と思っていたら、それからひと月も経たぬうちに再び桟橋脇で別個体と遭遇した。
なんで別個体だと断言できるのかといえば、そのサイズが半分以下だから。
写真内の金属光沢は指示棒で、その幅は5mm。計測してみたところ、だいたい3cmほどのチビターレだ。
ちなみにもう一方は対指示棒比でこれくらい。
これに比べれば、遥かに小さいことがおわかりいただけよう。
こんな小さなモノにビビビと反応できるなんて、さすがオレ…と言いたいところながら、実はこのエンマゴチ、体をタテにして棒きれのようにホバリングしていたのだ。
その妙な動きに気がついて目をやると、そこにいたのがこのエンマゴチ、という次第。
流れが淀むようなちょっとした物陰にジッとしている彼のそばには、同じく流れを避けて物陰にいるヨコシマタマガシラのチビターレもいた。
ん?
エンマゴチ、ロックオンしている?
観ていると、絶えずヨコシマタマガシラチビターレが自身の軸線(?)に乗るようにしている…ようにも見える。
ところでこの月の初めにエンマゴチの存在を教えてくださった通りすがりの遊泳者さんが発見した際、エンマゴチは、頭を上下にウンウンさせていたという話だった。
この日はタンクを背負っているのでずっと観ていたところ、おっしゃるとおりエンマゴチはたしかにウンウンしていた。
ひょっとしてこれは、獲物をおびき寄せるための動きなのだろうか?
なおもロックオンし続けるエンマゴチチビターレ。
すると突然…
エンマゴチジャ〜ンプ!
しまった、もっと低い位置から撮っていれば、ジャンプしていることがよりわかりやすかったのに…。
誤解のないようお伝えしておくと、実際にこれで獲物をゲットしたわけではなく、そもそもこれがホントに獲物ゲットのためにジャンプだったのか、はたまた単にホバリングしたかっただけなのかは不明だ。
刹那のことだったので慌てて撮ったわりには、しっかりピントが合っていた。
砂底に鎮座しているときには絶対に見えない、腹ビレや尻ビレ全開ポーズ。
移動したいなら這い進めば良さそうなところ、わざわざジャンプするあたり、やはり獲物ゲットのためだったのだろうか。
というか、このシーンこそ動画で撮っていればなぁ!
※追記(2024年6月)
エンマゴチフィーバーに沸いたこの年(2022年)、秋も深まってすっかり静かになった桟橋脇に潜っていたオタマサは、当時ホットコーナーになっていた防波堤脇のサンゴ群落ゾーンで、その年最大級のエンマゴチと遭遇した。
この年に立て続けに登場してくれたエンマゴチはいずれもマックロクロスケの幼魚たちだったから、マックスサイズでも10cmにも満たなかった。
それがいきなり30cmほどとなれば、顔だけ見ても存在感たっぷり。
全身黒だったチビチビとは違い、フクザツな模様で彩られていることがわかる。
フクザツといえば、その眼も。
複雑に入り組んだヒダヒダ越しに観る世界は、いったいどんな風に見えるのだろう?
チビチビしか知らなかった身には30cmともなると相当大きいのだけど、エンマゴチはオトナになると60cmにもなるというから、30cmほどではまだまだケツの青い若魚ってところなのだろう。
浅いところを好むエンマゴチ、いまだ出会ったことがないオトナは、こういうところに潜んでいるのかなぁ…。