水納島の魚たち

ゴマアイゴ

全長 35cm

 沖縄ではエーグァーという名で親しまれているアイゴは、身離れの良い白身の魚で、マース煮をはじめとする料理でお馴染みだ。

 ただし水産資源的価値としては、街中で暮らすご家庭にはいささか品下がる感がもたれている気配はある。

 とはいえこのゴマアイゴの刺身を一口食べようものなら、アイゴのイメージが劇的に変化すること請け合いだ。

 ゴマアイゴもアイゴの仲間なのに沖縄ではカーエーという固有名詞(?)でエーグァーと呼び分けられているところをみても、その存在感の大きさがうかがえる。

 サイズも他のアイゴ類に比べると特級で、なんとマックス50cm超に達するといわれる。

 さすがにそれほど巨大なモノを水納島で釣り上げたヒトを見たことはないけれど、島の太公望たちもまた、このカーエーを狙って突堤あたりから竿をふるう。

 1匹でも釣り上げようものなら、その夕刻の酒席ではヒーローになること間違いなし、というほどに重宝されるカーエー。

 ありがたいことに、ごく稀に釣果のおすそ分けをいただくことがあって……

 ほんのり血合いがついているほうがカーエーの刺身。

 藻食性の魚は臭みが強いなんてよく言われるけれど、どんな魚であれ釣れたて獲れたてはさほど香らない。

 釣れたて獲れたてのゴマアイゴときたら、臭みが無いどころの騒ぎではなく、知らずに食べればアイゴの仲間の刺身とは思えないほどの、超極上の白身なのだ。

 一般的なダイバーにとってゴマアイゴなんていっても単なるアイゴの一種でしかないだろうけれど、一度でもその味を知ってしまうと、海中における「見る目」は、間違いなくプレデターのそれになってしまうこと確実。

 とはいえ夕刻から夜にかけてはリーフ際の浅いところでペアでたたずんでいる様子を観たことがあるゴマアイゴながら、水納島の日中のボートダイビングで出会う機会はほとんどない。

 ところが海水浴場エリアで潜っていると……

 砂浜の斜面が終わるくらいの、水深2mにも満たない浅いところで、けっこういいサイズのゴマアイゴたちが集団で遊泳していたりする。

 島の太公望たちが「カーエーがなかなか釣れない…」と言っている時でも、このように群れ泳いでいることがある。

 実は20年以上前に、とあるゲストと岩場のポイントで潜っていた時、我々のゆく手を遮るアイゴの仲間の壁のような超絶巨群が眼前を通過していったことがある。

 まさかの光景に呆然となりつつも、体中に点々模様が、そして尾柄部に黄色い模様があることはチェックした……

 ……はず。

 なにしろ四半世紀近く前のことなので、記憶が改竄されている恐れもあるけれど、あの巨群はゴマアイゴだったような気がする。

 その記憶を当時案内していたゲストに後年確認しようとしたところ、彼女はあいにく札付きの酒飲み女王ということもあって、10年経ったか経たないかくらいだったにもかかわらず、巨群を見た記憶さえ10万光年彼方に消し飛んでしまっていたのだった。