水納島の魚たち

ハナゴンベ

全長 10cm

 ハナダイの仲間なのにゴンベと名がつく変な魚。

 そんなあか抜けない名からは想像できないほどに、海中では淡いピンクが上品で美しい。

 他のハナダイ類と違って、中層で群れ泳ぐわけではなく、岩壁すれすれをヒラヒラしながら、危険が迫ると…つまりダイバーが近づくと、岩陰に隠れてしまう。

 岩場のポイントにはけっこう多数のハナゴンベが集まっている場所があり、ご覧になればその多さにびっくりするはず。 

 ただ、水納島では彼らの生息にふさわしい地形が水深30m超とかなり深いところにあるため、おいそれと会いに行くことができないのが玉に瑕。

 そのためゲストにハナゴンベをご案内することは滅多にない。

 …と、これまでは随分縁遠かったハナゴンベなのに、2010年のシーズンには、フツーにいつも通りかかる水深に、ハナゴンベが1匹だけ居着いてくれた。

 水深にして20mそこそこで、それまでの水納島におけるハナゴンベの最浅記録だった。

 残念ながらこの子が居てくれたのはその年のみで(ひょっとすると翌年も居たかも…)、またしばらくハナゴンベとは縁遠い時期が続いた。

 ところが2016年のシーズンも後半に突入した頃のこと、なんとなんと、砂地のポイントのリーフ際、水深にして10mにも満たないオーバーハングの下に、ハナゴンベが1匹だけ居着いているのを発見。

 岩肌をお腹側にする習性があるため、オーバーハングの下のハナゴンベは、このように天地が逆向きになる。

 それはともかくこんな浅いところ、ハナゴンベの生息環境的にはまったく不向きな場所だから、その後長く暮らせるはずはないだろう……

 …と思いきや、翌シーズンも健在。

 結局2017年のシーズンを通して、ずっと居続けてくれた。

 その場で仲間が増えることはないだろうけど、こんなところでハナゴンベに会えるシアワセ……

 ……をご理解いただけるゲストにだけ、そっと案内することにしている。

 はたして2018年も、健在でいてくれるだろうか。

 本来ハナゴンベがフツーにいる場所に行くと、たまに随分若いハナゴンベに出会える。

 もっともっと小さな子を探したいところながら、深いからゲストを案内することはないし、普段カメラを携えて遊びで潜るときは砂地のポイントに行くことが多いから、なかなか出会うチャンスが無い。

 ハナゴンベのチビチビチビターレも、今後の課題に追加しよう。

 追記(2020年4月)

 リーフ際のオーバーハング下にいたハナゴンべは、残念ながら2018年のシーズン中に姿を消してしまった。

 そのかわり、同じ年の5月には、なんと水深20mほどの砂地の根にハナゴンべのチビが!

 このひと月前に発見できていれば、真正チビターレだったろうになぁ……。

 残念ながらというか当然ながらというか、このチビはその年のうちに姿を消してしまった。

 追記(2021年11月)

 2021年シーズン中に、水深20mそこそこでハナゴンべが複数匹観られる場所を発見した。

 そこには↓これくらいのオトナが3匹と…

 それらよりも一回りほど大きめのものが1匹いる。

 ハナゴンべもやはりハレム社会だろうから、おそらくこの大きめの1匹がオスなのだろう。

 それを踏まえてオスをじっくり観てみると、他の子たちよりも尾ビレがかなりでっかいことに気がついた。

 ハナゴンべの雌雄の区別について今まで気にしたことがなかったけれど、どうやらビッグテールが完熟オスの印らしい。

 一方別の場所では、激チビとはいかないまでも、これまで記録に残せている中では人生最小級のチビターレに出会えた。

 完熟オスに比べて圧倒的に可憐かつ華麗なそのたたずまい、知らずに会ったら同じ種類とは思えないかもしれない。

 追記(2023年10月)

 今夏(2023年)、さらに人生最小記録を更新することができた。

 別々の画像で見くらべてもサイズの大小はわかりにくいかもしれないけれど、海中で見た印象は圧倒的に↑こちらのほうがチビターレで、おそらく12mmほどしかない。

 これくらいのチビチビは、例年だったら初夏もしくはその少し前に登場しているようなのだけど、そのタイミングで岩場の深いところに行く機会がこれまでほとんど無かったこともあって、出会えるハナゴンべのチビといえば、これからもう少し成長したサイズのものばかりだったのだ。

 ところが今夏はZターン台風の猛烈な大雨の影響で真夏というのに水温が随分下がり、そこからまた上昇し始めたためか、多くの魚たちに繁殖期のセカンドピークが訪れたらしい。

 ハナゴンべのオトナたちも今夏はもう一度盛り上がったらしく、9月下旬にしてこんなに小さなチビチビに会うことができた。

 あまりにも可愛いので、迷惑を顧みずパシャパシャ撮らせてもらった。

 撮っているうちに、口元のピンク紫のラインがなんだか妙にニッコリ笑っているように見えて、とってもプリティになってきた。

 ゴキゲンそうに見えるでしょ?

 また、漂ってくるエサに注目する際に、寄り目になるのがまた可愛い。

 せっかくの一期一会、もっと撮り方を変えたりなんやかんやと工夫をする余地がいくらでもあったのだろうけど、いかんせん深すぎて頭がそこまで働かなかった…(< 深度のせいだけか?)。