全長 15cm(写真は5cmほどの若魚たち)
ノンダイバーにもわりとその名を知られている魚、ゴンズイ。
磯遊びの際の海の危険生物としても有名だし、外道として釣ってしまったこの魚を針から取り外す際に、気をつけなければいけない魚として釣り人にも知られている。
そう、彼らゴンズイは危険生物なのだ。
とはいっても、釣り上げられてしまうような老成個体ならいざ知らず、ダイビングでフツーに出会うゴンズイといえば、10cmにも満たないドジョウのような魚だ(実際はナマズの親戚)。
それらが集団でヒトに襲い掛かるわけじゃなし、眺めている分にはまったくもって無害な魚である。
ダイバーの間で彼らをさらに有名にしているのが、その群れの形状だ。
俗に「ゴンズイ玉」と呼ばれている。
なかなか正面に回らせてはくれないゴンズイ玉ながら、たまさか彼らの進みたい方向と合致すると、真正面から眺めることもできる。
その際に何枚か写真を撮ると、たいていどれか1枚で誰かがアクビをしている。
のんびり群れていたり、エサを求めている時などはこのようにみんながフツーにナマズひげを広げているけれど、ダッシュで泳いでいるときには、このヒゲはたたまれている。
もっとも、能動的に畳んでいるのか、泳ぐ速さでヒゲが畳まれてしまうのかはわからないけど。
そんなゴンズイ玉を見かけると、
「あ……夏。」
という雰囲気があるくらいだから、水納島では毎年夏の初め頃からゴンズイ玉が観られるようになっているのだろう。
当初群れは1匹1匹が2cm弱の激チビながら、やたらと数多い密集隊形で群れるため、まるでもののけ姫に出てくるタタリ神のように玉を形作る。
ときには、ナマコのフリをすることも。
いや、けっしてナマコのフリではないと思うけど、とにかく彼らは、個々の非力を補い合うために群れ集う。
群れで砂底を移動している際、食事をしながらの場合は、群れ全体が車輪のように回転している。
集団のまま、代わりばんこに採餌しているのだ。
前列下側のものたちが餌を食べ始め、次列がまた餌を食べ始め……やがて最後列になると群れの上側を泳いで最前列に戻る、という具合に前に進みながらエサを漁るため、その動きは回転する車輪のように見えるのだ。
もっと小規模の群れを前から観るとわかりやすい。
動画で観ればさらにわかりやすい。
この一糸乱れぬ群れの調和は、ひとえに彼らの結束の固さによる。
なんとなんと、ひとつのゴンズイ玉の構成員は、すべて血のつながった兄弟なのだそうだ。
2つの群れを無理矢理合体させても、しばらくすると見事にまた2つに分かれてしまう。
逆に1つの群れを分断しても、しばらくするとちゃんと合流して1つになる。
それらはすべて、群れを形成する吸引力になるフェロモンが、群れごとに違うためなのだとか。
ゴンズイ玉は、ゴンズイブラザースでもあったのだ。
となると、こういう兄弟の姿を見ると、何があったの??と訊かずにはいられなくなる。
こんな幼少のみぎりから、たった5匹で世の中を渡っているなんて………。
観る人の涙を誘う、薄幸の兄弟なのだった。
彼ら5人兄弟の将来がどうなったかはわからないけど、基本的にゴンズイ玉は、みんながみんなオトナにまで成長できるわけではなく、個体のサイズが大きくなるにつれ、数は減っていく傾向にある。
昔は観る機会が多かった老成ゴンズイは、「群れ」というほどの数だったことはない。
近年はそういった老成個体を目にする機会が減ったなぁ…と思っていたら、2019年シーズンなどは、若魚たちの群れ、すなわちゴンズイ玉にすら出会う機会が少なかった。
ゴンズイの存在自体が、実は薄幸になっているのかもしれない?