全長 8cm
ダイバーの間では略して「ハダカハ」と呼ばれることも多いハダカハオコゼは、昔からとても人気がある魚だ。
さして珍しいわけではないのに、昔からなぜか必ず現地ガイドが指し示す魚でもあり、ワタシもこれまでにおそらく3万5千回くらいゲストに紹介していると思われる。
8cmほどと小柄でかわいく、横から見るとカエルアンコウにも似たフォルムが、珍しいわけではないのに「珍しいものを観た感」を喚起してくれるからだろうか。
横から見るとカエルアンコウっぽいけれど、正面から見るハダカハオコゼは、その名のとおり葉のように薄っぺらい。
その形状はたしかに珍妙ではある。
でもなぜ「裸」なのかは知らない。
この薄い体を流れやうねりに合わせて能動的にユラユラさせ、枯葉や千切れた海藻のフリをしつつ、エサとなる小魚を待ち伏せするハダカハオコゼ。
でもこんなに細いと、エサといっても大したものを食べられないのでは……
…と思ってしまいそうだけど、その点は心配ご無用。
そこはオコゼだけに、ひとたび本気を出すと…
小魚など軽くヒト呑みできる大きな口!
そんなハダカハオコゼには様々なカラーバリエーションがあって、そのうち最もよく観られるタイプが白〜クリーム色。
といってもけっして単一ではなく、白〜クリーム色のなかだけでもけっこうバリエーションがある。
ほとんど模様が無くこんなに白いものもいるかと思えば…
ほとんど黄色に近いものも。
出会う頻度が最も多いということに鑑みても、この白〜クリーム色がハダカハオコゼのスタンダードカラーと思われる。
ここから多様な色に変化していくらしく、随分昔のことながら、それまで白かったハダカハオコゼが、少しずつピンクに変わっていったことがある。
その後この子はこの場所から姿を消してしまったため、最終的に真ピンクになったのかどうか、残念ながら確認できなかった。
ハダカハオコゼの様々なカラーバリエーションのなかでも、最も人気があるといっていいのがこのピンクバージョンだ。
ピンクなんていったら、海中で目立ってしょうがないだろうに……
…と思われるかもしれないけれど、光学的に赤色からまず吸収されてしまう海中では、この派手な色が意外に目立たない。
そしてこの色が抜群のカモフラージュ効果を発揮するのが、イソバナだ。
ご丁寧にもイソバナのポリプと同じ白色まで体に配してあるから、イソバナに群れ集う小魚たちは、プレデターであるこのハダカハオコゼの存在に気づけないに違いない。
もっとも、同じイソバナに白いタイプも載っていることがある。
そもそもただ波に合わせてひねもすのたりと揺れているだけなので、カモフラージュのことはさほど念頭に無いのかもしれない。
ピンクになる道を選ばなかったものは、黄色に特化するようだ。
このオレンジのハダカハオコゼは、背後の小さなオレンジ色のヤギに合わせているのか、そのシーズン中のかなり長期間に渡って、このヤギのそばで観られた(そばにキンメモドキなどの小魚がたくさん群れていた)。
別のオレンジのヤギには、こういう色合いのものが載っていたことがある。
このままこのヤギにいれば、いずれオレンジ色に変化していくのだろうか。
また、黄色は黄色でも、タイガーストライプになっているものもいる。
この虎模様タイプと出会う機会は、それほど多くはない。
派手さではピンク色に比べて見劣りするとはいえ、レア度はこちらのほうが高い。
これらの色をすべて混ぜ合わせたらこうなってしまいました、的なタイプがこちら。
チョコブラック。
実際のところタイガーストライプよりも出会う頻度は少ないような気がするのだけど、あまりに地味なので、一部のマニアを除き、誰にも喜ばれないタイプでもある。
同じ種類の魚だというのにこれほどのカラーバリエーション、しかも普段ジッとして過ごしている彼らはその表面が苔むすし、おりにふれ脱皮をするので、その藻の生え具合いや脱皮後の経過日数などで色の見え方が変わってくる。
そのため自分が実際に海中で観た色だけで図鑑を調べても、なかなかビンゴにならないかもしれない。
色合いはどうであれ、彼らはプレデターだから、餌となる小魚がたくさんいるところに潜んでいることが多い。
このようにキンメモドキが遠くで群れているときは、関心がないふりを装っている。
しかしそばを通る時には……
たまらず視線がロックオン状態に。
もっとも、実際にハダカハオコゼがキンメモドキなどの小魚をゲットしたところは観たことがない。
そのかわり、口からエビ類と思われる触角が2本出ているのを観たことはある。
魚でもエビでも、食えりゃなんでもいいらしい。
そんなハダカハオコゼではあるけれど。
久しぶりにハダカハオコゼ・ピンキーに出会ったある年の師走のこと。
アクビでもしてくれないかなぁと期待しつつ、しばらく観ていることにした。
すると…
ん?
向こうから何か出てきたぞ。
お、ミヤケテグリ。
ハダカハオコゼの目の前でウロチョロしてたらアブナイぞ!
あ〜、ミヤケテグリピ〜ンチ!!
あれ?
スルー???
おおッ、なんというチャレンジャー!!
エビでも食っちゃうくらいだから、ミヤケテグリなんてほどよいおつまみになるのかと思いきや、ハダカハオコゼピンキーは微動だにせず。
ミヤケテグリはよほどまずいのだろうか???
ひょっとすると、泳いでいる魚だと8パーセント、着底している生き物だと10パーセントの軽減税率の差のために、グッと我慢をしていたのかもしれない………。
そんなプレデター・ハダカハオコゼも、チャーミーグリーンで手を洗った夫婦のごとく、2人で手を繋いでいることもある。
また、冒頭の写真のようにイソバナの上で紅白歌合戦状態になっていることもあれば、砂底の上で紅白が一緒にいることもある。
そうかと思えば、暗がりの中で密かなデートを楽しんでいるペアの姿も。
ホントにペアなのか、それともオス同士の争いなのか、その辺のところはわからないけれど、少なくともチャーミーグリーン状態になっている2匹はペアだろう。
ちなみに、一連のペア写真では、一切ヤラセはしてません。
その場にいたとおりに撮っただけの写真です。
ところが昨今の「カメラ派ダイバー」と称される人々の中には、
イソバナに載っていたほうがきれいだから…
後ろ向きだとちゃんと撮れないから…
ペアになっていたほうが絵になるから…
といった理由で、指示棒などで無理矢理ハダカハオコゼを移動させて撮るヒトが多い。
フィルム写真時代のように、「カメラ派」ダイバーが一部の変態社会でしかなかった頃ならともかく、今や猫も杓子もデジカメの時代、誰も彼もがハダカハオコゼをいじくり倒したらどういうことになるか。
それは、現在の水納島の主要砂地ポイントの各根を見れば一目瞭然。
かつてワタシがゲストにのべ3万5千回も紹介したハダカハオコゼたちは、いったいどこに行ってしまったのだろう……
…というくらい、その数を減らしている。
自らのカモフラージュ効果に相当な自信を持っているであろうハダカハオコゼたち。
いじくり倒すことによってそのプライドをズタズタにしてしまえば、彼らがその場に居たくなくなるのも無理はない。
手の中に入れられても何が起こっているのかわかっていないかもしれないウミウシたちとは、ワケが違うのである(※個人の勝手な感想です)。
おかげで、その昔はどこで潜っても必ずといっていいほど観られたハダカハオコゼは、近年はすっかりレアになってしまった(※あくまでも昔と比べた相対的な「レア」です)。
もっとも、ダイバーがほとんど訪れていないであろう根に行くと、今でも白やピンクやタイガーストライプがチョコンと鎮座してくれている。
自分が撮る写真のことだけしか眼中にない「カメラ派」ダイバーをそんなところに連れて行こうものなら、せっかく居てくれている彼らまで姿を消してしまうことだろう。
ハダカハオコゼは、品行方正な方にのみご案内することにしよう。
※追記(2020年7月)
品行方正な方のみどころかコロナ禍のために誰一人ご案内することがなかった今年(2020年)のゴールデンウィーク中には、誰も来なかったおかげだろうか、こういうシーンに出会えた。
ハダカハトリオ・ロス・パンチョス!
かつてハダカハオコゼがどこでもフツーに観られていた頃でも、3匹がこのような状態でたたずんでいるシーンなんて目にしたことはなかった。
ただしこの3匹はどうやら忍たま乱太郎のような仲良しトリオというわけではなさそうで、この状態でたたずんでいるのは予想どおり束の間のことだった。
白い個体同士でなにやら競い合っているようなのだ。
その構図はどうやら、ハダカハ・ピンキーを巡る2人のキラーズの争いのようだ。
周りで2匹が争っていても、ピンキーは……
我関せず。
ピンキーにしてみれば、「どっちでもいいから早く決めて!!」てなところなんだろうか。
いずれにせよこんなレアケース、いいタイミングで出会えてよかったよかった。