水納島の魚たち

ハマフエフキ

全長 50cm

 沖縄県民にとってはタマンといったほうが通りがいいハマフエフキは、沖縄県内の重要な水産資源のひとつである。

 けっこう値の張る高級魚なんだけど、そのわりにはどこでもフツーに観られる魚でもある。

 ビーチで海水浴をしていて「あのタイのような魚は何?」と思ったら、それはほぼこのタマンだと思って間違いない。

 そんな浅いところにいるかと思えば、わりと深い砂底で群れ成していることもあるし……

 根が長く沖に張り出している岩場のポイントでは、表層から中層で大群を作っていることもある。

 こんな大群を見た日には、末端価格で総額いくらになるだろう…と、思わず即物的俗物思考が頭をよぎる。

 そうかと思えば、砂底やリーフエッジ付近で単独でいることも多いハマフエフキ。

 夜になると航路を通って桟橋脇にやって来る習性があるらしく、ビーチや桟橋にテントを張り、このタマン狙いで夜通し釣りをしている太公望の姿もよく観られる。

 以前学校の先生が夜中に頑張ったところ、60cm級のビッグサイズをゲットされたということもあった。

 そんな大物ではなくとも、釣り客であれ誰であれ、タマンといえば高級魚だから誰もが喜ぶ。

 漁業の町糸満には、この名を冠した「エフエムたまん」というFM放送局もある、という事実を知れば、その存在の大きさをわかってもらえるに違いない。

 これがまた美味いのなんの。

 刺身でも焼いてもなにしても美味しいけれど、機関長シラドスペシャル「タマンの塩釜蒸し焼き」なんて食おうものなら、

 「タマン様がナンバーワンでございます!!」

 と思わず宣言してしまいそうになるくらいだ。

 それほど美味しい魚だから、もっとたくさん海にいればいいのに、と思う気持ちもわからないではない。

 しかしだからといって、食べたい魚だけが増えればいい、という話ではない。

 というのもこのタマン、沖縄県内各地で、こぞって稚魚の放流をイベント的にやっているのだ。

 稚魚の頃こそ他の魚に狙われる危険は高いだろうけれど、オトナになったタマンなんて、このへんの海ではさほどの捕食圧にさらされているとは思えない。

 つまり、増えればほぼ無敵になってしまう魚をドンドコドンドコ放流するということは、タマンの餌になっている生物たちにとっては相当なピンチということなのだ。

 タマンたちがもっぱらの餌としているという底生の小動物や小魚たちのなかには、我々が常々慈しんでいる生物たちも含まれていると見て間違いない。

 以前タマンをさばいていたら、実際にキホシスズメダイが胃袋から出てきたこともある。

 ようするにタマンにしろなんにしろ、稚魚を大量に放流するという行為は、自然環境に人工的な影響を与えていることになるのだ。

 ところがどういうわけか、こういった稚魚の放流事業に対する環境アセスメントの重要性が声高に叫ばれることはない。

 テレビや新聞などのマスコミは、

 「沖縄の豊かな自然を守ることや、観光客や地域の子供たちに自然を身近に感じていただくことを目的としており……」

 などと、むしろ微笑ましいニュースとして報道するのが関の山だ。

 漁業者にとっては水産資源の保護ということになるのかもしれないけれど、補償金と引き換えに埋め立てに同意したり、それを受けて沿岸域に大きなホテルを建てたりしてタマンの稚魚が育つ環境を次々にぶっ潰しておきながら、「豊かな自然を守る」もなにもないと思うんだけどなぁ……。