水納島の魚たち

ハナゴイ

全長 13cm

 本来は、100や200は当たり前、というくらいすごい群れを作る。

 かつては沖縄本島でもここ水納島でも、そのような群れが普通に見られた。

 しかし残念ながら今の水納島では、多くて50匹程度の群れが見られる程度。

 コンデジの標準レンズで撮るくらいがちょうどいい感じだ。

 砂地のポイントでも、細々と10匹前後で群れていることはあるけれど、砂底に点在する根にオトナがいることはまずない。

 ところで、海中でこの魚を観ると、なんとも素敵な青色に見える。

 ただしそれはやはり海中に光が届かないせいで、実際は他のハナダイ類にはない紫色をしているので、そっと近づいてライトを当てると……

 かなりド派手な色だ。

 ちなみにこれはメスで、オスは上唇が極端にいうとバクのようになる(ハナゴイ類の特徴)。

 と、こうして写真で見比べればわかりやすい違いながら、海中で観ているときに口元まで見えない…というクラシカルアイな方も多いことだろう。

 ま、口元など観ずとも、両者が並んでいれば一目瞭然ではある。

 やはりメスからオスへと性転換する魚なので、コドモのオスなどいないから、大きければオスと思って間違いない。

 メスと比べると背ビレの面積が大きいオスは、ゆったりしている時などによく、その背ビレを広げてオス同士で見せつけあい、背ビレ自慢大会をしていることがある。

 それが一番上の写真で、普段は見せないバショウカジキのように大きな背ビレが、実に色鮮やかであることに驚かされる。

 この背ビレの色は個体ごとに随分違いがあって、なかには↓こういう無地(?)のモノもいる。

 そうかと思えば、↓こういうものや…

 ↓こういうものなど…

 それこそ千差万別。

 そんな背ビレ自慢の彼らが互いに見せ合いっこしているのだから、その場にいるとまるでファッションショーを観る思いだ。

 ……男の、だけど。

 そんなハナゴイたちの産卵ショーは、夕刻のこと。

 キンギョハナダイのように日没後ではなく、まだ水中が充分明るい時間帯に、一斉に狂乱状態になって行われたのを一度目にしたことがある。

 初夏以降は幼魚の姿がちょくちょく観られるようになる。

 まだオトナのように中層を群れ泳ぐわけにはいかない彼女たちチビターレは、サンゴやウミシダ、イソバナの周りなどにたどりついたあと、しばらく控えめに暮らしている。

 色味はオトナと同じでも、ケバさは無く、より洗練された美しさがある(※個人の感想です)。 

 本来の生息環境なのであろう岩場のポイントでは、初夏以降になるとサンゴの枝間に幼魚の姿が増えてくる。

 一方砂地のポイントでは、リーフエッジや砂地の根のサンゴの周りで単独でいることが多い。

 ただしハナゴイ・チビターレ自体は単独でも、デバスズメダイやキンギョハナダイなどのチビに混じって一緒に泳いでいることがよくある。

 なんだか「みにくいアヒルの子」状態、1人きりで寂しくないのだろうか…

 …そうでもないらしい。

 追記(2022年11月)

 ハナゴイが好むのは潮通しのいい岩場のポイントのようなところで、そういう場所では毎年サンゴの枝間で幼魚を数多く観ることができる。

 一方砂地のポイントでは、リーフエッジであれ浅めの根であれ、同じところにはせいぜい1〜2匹ほどしかいない。

 だからこそ「みにくいアヒルの子」状態の様子が観られるのだけど、今年(2022年)はどういうわけか、各砂地のポイントの各リーフエッジのサンゴの枝間に、やたらとハナゴイのチビたちの姿が観られた。

 そのため「みにくいアヒルの子」を撮ろうとしても…

 むしろハナゴイのほうが幅を利かせているように見えることすらあった。

 やがて彼女たちが成長して若魚になり、オトナの群れと合わさると…

 前世紀の昔はいざ知らず、近年では考えられないくらいに、砂地のポイントのリーフエッジがハナゴイでにぎやかになるところも出てきた。

 このままリーフエッジがハナゴイの園になっていくのだろうか、それとも単に一時的なことなのだろうか。

 はたして来年は?

 追記(2023年7月)

 年が明けて夏を迎えた2023年も、砂地のポイントのリーフエッジ付近には相変わらずハナゴイが増えた状態のままでいてくれている。

 もともとハナゴイが多かった岩場のポイントでも増加傾向で、以前よりも「群れ」で撮れるようになっている気がする。

 ところで、砂地のポイントのリーフエッジ付近には浅いところでホンソメワケベラがクリーニングクリニックを開院していることが多く、ハナゴイたちが群れているところにもホンソメクリニックがある。

 そのため、これまで岩場のポイントの深めの場所では目にしなかった、まるでグルクンがホンソメクリニックに訪れる際のようなハナゴイの来院ラッシュを観る機会が増えた。

 このクリニックのホンソメ院長は1人で切り盛りしているらしく、猫の手も借りたいほどの大忙しのなか、八面六臂の活躍ぶりだった。

 その様子を動画で。

 でもよく観ると1匹1匹のケアはかなりおざなりで、訪れているクライアントさんとしてもいささか不満がありそうな様子。

 このハナゴイバブルを乗り切るためにも、ホンソメ院長はそろそろ新規雇用を考えているかもしれない。

 追記(2024年5月)

 今年(2024年)になっても引き続き砂地のポイントのリーフ際のハナゴイたちは多いままでいてくれている。

 しかも個体数増に伴いオトナのオスの数が増えてきたこともあって、やる気モードになったオスの活発な動きがいつでも観られるようになってきた。

 そういった様子を観るには岩場のポイントに行かなければならなかったこれまでのことを思えば、画期的な変化といっていい。

 で、そんなハナゴイのオスたちの華麗な「やる気」を観ているうちに、ふと気がついた。

 尾ビレが黄色く色づいているものの割合が多いような…。

 岩場のポイントで群れているハナゴイたちの中にも、力のあるオスを中心にうっすらと尾ビレを黄色くさせているものはいるものの、それに比べると明らかにキレンジャーなものが何匹もいるのだ。

 四六時中クッキリキレンジャーというわけではなく、ここまで黄色が濃くなっているのは、メスに対して激しく求愛行動を繰り返している際にかぎられるようだ。

 不思議なことにこのリーフ際では、増えたとはいえ全体の数はそれほど多くはないのに、尾ビレが黄色くなっているオスの割合は、岩場のポイントでたくさん群れているハナゴイたちに比べてとても多い。

 黄色の入り方は、背ビレの赤色と同じく個体ごとに違っているんだけど、上下端が黄色くなっているものが多い。

 オスたちの様子を見ていると、尾ビレに黄色味がまったく入っていないオスが最も立場が低いようで、いろいろなオスに追い払われていた。

 となると、尾ビレが全面的に黄色い↓このオスは、さしずめこの群れのキングオブキングスといったところか。

 他のオスを追いかけまわして排除する行動も頻繁に観られるところからして、サルの群れでいうならボスザルのポジションにいることは間違いないと思われる。

 傷んでいる背ビレは、歴戦の勇士の証なのだろう。

 ハナゴイ=紫色の魚というイメージを大幅に覆す、オスたちのイエローテール。

 そんなキングオブキングスの求愛泳ぎはこちら。

 メスの前に激しく急降下してくるハナダイたちとは違って、同じ激しさでもメスの周りでOの字を描くように泳ぐのがハナゴイスタイルだ。

 前述のように、この動きをしている時に、尾ビレはいっそう黄色く発色する。

 観ていて目立つし、やっぱ黄色いほうがメスのウケがいいのだろうなぁ。

 面白いことに、同じオスでもメスにアピールしている際には黄色味が強くなっても、オス同士で張り合うときには、黄色味をそれほど発色させない(下の画像の右の子が、上の画像と同じ個体のはず)。

 なんだか野郎だけのときはつまんなそうにしているのに、女性が1人加わるだけでたちまちテンションが上がる、わかりやすいオッサンみたい…。

 それはともかく、ハナゴイのオスたちの黄色の入り方には違いはあれど、黄色が興奮モードの際の重要カラーなのだろう…

 …と、ここ数回だけの観察でさっそく結論を出そうとしていたところ、砂地のポイントのリーフ際でもまったく別の場所で群れているハナゴイたちのなかに、これまで観られなかった色味テールのオスがいた。

 レッドテール!

 背ビレに赤色が入るのはハナゴイのオスではよく観られるけれど、尾ビレがこのように赤くなっているのは初めて見たかも…。

 彼の尾ビレには黄色がまったく入ってはいないけど、オス間でのポジションでいうならイエローキングと同レベルってところだった。

 まさかハナゴイにはレッドキングまでいたとは…。

 昔馴染みではあるけれど、まだまだ奥が深いハナゴイである。