水納島の魚たち

ハシナガベラ

全長 4cm

 さほど珍しくないはずなのに、しっかり観たり撮ったりすることがなかなかできない小さなベラ、ハシナガベラ。

 そういったシークレットな存在感が変態心をくすぐるのか、ネット上にはハシナガベラのフィールド写真が、やたらと出回っている。

 にもかかわらず、おそらく当店ゲストのほとんどの方は、ご覧になったことがないはず。

 それは、ハシナガベラのシャイすぎる性格のせい。

 珍しくないはずなのに、なかなか見られないのはなぜか。

 サンゴ礁を形作っている土台は一見頑強そうに見えるけれど、実際はサンゴを主とする生物の石灰分が岩石化してつながりあっているに過ぎない。

 なので、リーフエッジ付近のオーバーハングしている岩肌などをよく見ると、すぐにも崩れそうなほどに隙間だらけである部分が多い。

 ハシナガベラは、ただでさえ陰になっているオーバーハングの暗がりの、そのまた暗い隙間から出たり入ったり、もっぱら入ったりを繰り返しながら行きつ戻りつしているのだ。

 しかもその大きさは、オトナで4〜5cm、チビターレに至っては1cm前後。

 クラシカルアイでは、明るいところにいてさえ気づけないほどのサイズでしかない。

 その気になって探さないと、おいそれとは出会えるはずもない。

 もっとも、さほど鮮やかな色彩でもない……というか、むしろ地味な色合いで、目立つ動きをするでもない。

 普通にファンダイビングを楽しんでいる方が、わざわざこのベラを探すためにオーバーハングの裏側にへばりつく必要性を100文字以内で述べよ、と言われても、書き出し部分で筆が止まること必至。

 ま、↓この写真を撮ったオタマサのように、岩肌に沿ってウミウシを探しているときに、たまたまヒョコッと目の端を通り過ぎることもあるかもしれない。

 

 ちなみにハシナガベラのチビターレは、体にもっとたくさん横縞が入っていてわりとにぎやかに見える。

 チビターレとの遭遇など、変態社会ではかなりの千載一遇チャンスだから、知っておいて損はないはず。

 珍しくはないけど機会の少なさという意味で、一応……

 「珍」マークは3つが最上級です。