全長 3cm
まだ20世紀だった頃、ある雨降りの午後のこと。
リーフ際の浅いところに戻ってきても相変わらずダークな海中だったので、仕方なくキンチャクガニでもいないかなぁと小石をめくっていた。
キンチャクガニには出会えないまま、何個目かの石をめくった時に現れたのは、小さなヨウジウオっぽい、見たことのない魚だった。
現れたといっても、彼女にとっては青天の霹靂ならぬ雨天の霹靂(そのままじゃん…)だったらしく、すぐさま別の石の下へ潜りこんでしまった。
何度めくってもすぐさま潜りこんでしまう。
このままどこの誰だかわからないまま、一瞬の出会いだけで終わってしまう……
…なんてのは、最も悔いが残るケース。
そこで、彼女にとっては甚だ迷惑だったろうけれど、恥じらいつつ逃げ惑うところを、せめてお名前だけでも、と呼びとめたところ、彼女は静かにポーズをとってくれたのであった。
もっとも、実際にお名前を教えてくれたのは彼女ではなく、瀬能博士であることはいうまでもない。
ポジフィルムをスキャンしてからメールで送って画像を確認してもらい、ハシナガチゴヨウジという種類であることをご教示いただいた次第。
前世紀のことゆえネットで画像検索なんて手段があるはずもなく、こんなマニアックなヨウジウオが載っている図鑑など当時も今もそうザラにはないから、ハシナガチゴヨウジの画像を見る機会なんてほとんど無かった。
ところが今や、ハシナガチゴヨウジを画像検索してみれば、驚くほど多数の写真を見ることができる。
ワタシの場合はまったくの偶然で出会えたけれど、みなさんはどうやって出会っているんだろう?
参考までに、本島東海岸のレッドビーチという変態社会人御用達の海で潜られている方のサイトを見てみると、やはりガレ場で石をめくって探すのだそうで、この魚目当てに変態社会人がサーチしても、1本のダイビング中にめくり続けてようやく1匹に出会えるかどうか、なのだそうな。
キンチャクガニ目当てだったとはいえ、5枚目くらいの石の下で出会えたワタシは、相当ラッキーだったらしい。
というか、3枚目くらいでキンチャクガニが登場していたら、ハシナガチゴヨウジとの出会いはなかった。
キンチャクガニ、居てくれなくてありがとう。