水納島の魚たち

ヒメフエダイ

全長 35cm(写真は5cmほどの幼魚)

 黄色、もしくは赤っぽいものが多いフエダイ類にあって、涼しげな青が際立つヒメフエダイ。

 でもこの色をしているのは幼魚の頃だけで、大きくなると赤っぽいフエダイになる(らしい)。

 モルディブあたりでは、40〜50cmほどもあるオトナが大群を作っている様子が観られるようだけど、少なくとも水納島近辺で彼らが群れているのを観たことはない。

 というか、オトナ自体をこれまで目にしたことが無いかもしれない。

 仮に群れていたとしても、水産資源的に相当な高級魚扱いらしいので、瞬く間にいなくなることだろう(だからこそすでにいないのかも…)。

 冒頭の写真よりももっと小さい頃は尾柄部の黒い模様がほとんど点で、背ビレや尾ビレの黄色がもっと目立っている。

 もっとも、幼魚はこれまた内湾域が大好きで、アマモがびっしり繁茂していて、なおかつ隠れ家になるサンゴが育っているところを好むようだ。

 そのような環境は、本島近辺では次々に破壊されている。

 幼魚の揺り籠が無くなれば、オトナが増えるはずもない。

 水納島では、夏前から秋までのシーズン中に、たまにリーフの外でもチラリホラリと幼魚が観られていたものだけど、年々出会う頻度は少なくなっており、今では年に1匹観られる程度だから随分レアな存在だ。

 それも、小さな岩に寄り添うように、ひっそりと暮らしていることが多い。

 数少ないチビたちが息をひそめて(?)暮らしているくらいだから、ましてやオトナに出会う機会など、今後も望むべくもないといってもいいかもしれない。

 追記(2021年8月)

 この稿をアップしたのは2018年末のことなんだけど、そのオフシーズンの間に普段あまり訪れないポイントに潜ってみたところ、わりと深い海底付近を悠然と泳いでいる3匹のヒメフエダイのほぼほぼオトナの姿を観てしまった。

 なんだ、いるんじゃん、オトナ…。

 ただしヒメフエダイのオトナの警戒心はワタシが知っているフエダイ類中断トツナンバーワンで、たとえ証拠写真程度でさえ撮らせてくれる距離にまったく近寄らせてくれない。

 そのため画像を伴いつつ「オトナにも会うことができる」という報告ができずにいたところ、昨秋(2020年)また別のポイントでほぼほぼオトナのヒメフエダイに会うことができた。

 同じように警戒心は激強ながら、砂地のポイントのリーフ際という浅いところだったので、かなり遠めでも自然光でパシャ。

 MAX50cmになるというから、30cmほどだとまだまだ若いのかもしれないけれど、幼気なチビチビと比べれば風格は十分だ。

 水納島ではせいぜい2〜3匹が一緒になって泳いでいるくらいのヒメフエダイも、八重山あたりに行けば何十匹という群れが、そしてパラオやタヒチ、モルディブといった魚影てんこ盛りの南洋では、何万匹というスーパー巨群を作っているという。

 あいにく水納島では逆立ちしたってそんな巨群には出会えないので、せめて慎ましくも健気なチビターレに出会って幸せを味わうこととしよう。

 追記(2021年12月)

 軽石禍のためにボートが使えず、仕方なくビーチに潜ってみたところ、その「慎ましくも健気なチビターレ」に会うことができた。

 2cmほどの人生最小級だ。

 これまで記録に残したことがあるチビターレは、いずれも背中から尾ビレにかけて黒い模様が繋がっている段階まで成長しているものばかりだったから、尾ビレの模様がまだ黒点状に見えるほどのチビチビは初めてだ(観たことはある)。

 フエダイ類のチビターレはどれも可愛いけれど、ヒメフエダイ・チビのガミラス星人なみのブルーは、異質な存在といえるかもしれない。