水納島の魚たち

ヒメテグリ

全長 3cm

 「ヒメ」とつくだけあって、オトナでもせいぜい3cmほどとかなり小さなヒメテグリ。

 図鑑やネット上で目にする写真は伊豆方面で撮影されたものが多いせいか、体色がかなり濃いのに対し、海底の色が白い水納島では、目立たないようにしているのだろう、ヒメテグリもかなり白っぽい。

 となると目立たないこと甚だしいけれど、リーフ際の死サンゴ礫がたくさん転がっているようなところでジッと海底に佇んでいると、ときどき目の端でヒョコヒョコ動いていることに気づくことがある。

 基本的に他のテグリの仲間同様キーコキーコ動きをするものの、小さいからか動きそのものは素早いので、キーコキーコというよりはシュッ…シュッ…と動く。

 クラシカルアイの場合、せっかく見つけてもシュッ…と動かれた途端に見えなくなってしまうから、ウカツに無遠慮に近づいてはいけない。

 なんとか近づかせてもらってよく観てみれば、ヒメテグリは単に白いだけではなく、体にはちゃんと模様があって、胸ビレの付け根あたりなどところどころに、意外に美しい色合いが入っていたりもする。

 また、メスは↑このように第1背ビレを立ててもせいぜいこのくらいの長さしかないのに対し、オスのそれは随分長い。

 ただ、メスのように気前よくたびたび第1背ビレを立ててくれはせず、普段は↑このように閉じて寝かせた状態にしている(背中に針が乗っかっているように見える部分が第1背ビレ)。

 ところがこれが繁殖期ともなると、メスを相手に猛烈にアピールするオスはこの第1背ビレを惜しげもなく広げ、ポーズをキメまくるという。

 巷にはそのような画像がたくさん溢れているから、ワタシも是非撮ってみたい、それを撮るまではヒメテグリの登場はペンディング…

 …と決めてから、早5年の月日が流れてしまった。

 以前はもっといたような気がするのに、そもそもなかなか会えなくなっているのだ。

 これは個体数が減っちゃったのか、それともクラシカルアイ化のせいか…。

 結局いまだ猛烈アピール中の様子には出会えず、5年前に撮った中途半端に背ビレを立てている様子で妥協。

 第1背ビレが矢印のところまでビヨンと延びている。

 これは4月のことで、近づいてくるカメラを警戒してその場を去って居場所を変えたあと、しばらくの間まるでシグナルを送っているかのようにこの背ビレを上下にピコピコさせていた。

 ただしそれは束の間のことなので、5回くらいピコピコさせると、またヒレを寝かせる。

 観ている者としてはピコピコさせる様子が面白いから、もっと警戒して!とばかりに迫ると、また居場所を変えてピコピコしてくれた。

 でもピコピコだとせいぜいこれくらいしか背ビレを広げてくれず、このあと冒頭の写真くらいまでは広げてくれたものの、デビルウィング化することなく、急速に盛り下がってヒレを閉じてしまうヒメテグリ。

 メスに対して猛烈アピールするにはまだ季節的に早いのだろう。

 彼らの猛烈アピールを観るなら、やはり水温が高くなってからの夏場にかぎる。

 今年こそ、ヒメヒメの猛烈アピールぶりを拝見させてもらおう。