水納島の魚たち

ヒナギンポ

全長 3cm

 リーフ際の浅いところやリーフエッジ付近で安全停止をかねてテキトーにサーチしていると、岩肌に開いた小さな穴からヒョコッと顔を出している豆粒サイズの小さな顔に出会うことがある。

 その名もヒナギンポ。

 オトナでも直径5mmほどの穴から顔を出すほどに小さなカエルウオで、もはやこのサイズの魚となると、クラシカルアイでは目を凝らして観るのがシンドイ。

 たまに全身をさらけ出してくれていることがあるのだけれど…

 …せいぜい3cmほどだから目立たないこと甚だしい。

 おまけにナリが小さいからかヒナギンポは警戒心が強く、↑このように全身を出していていても、気づいた頃にはすぐさま穴に逃げ込んでしまうことの方が多い。

 となると豆粒サイズの顔を拝むしか道はないのだけれど、そういう細かいものをサーチすることを無上のヨロコビにしているオタマサは、そんなヒナギンポの顔をけっこう撮り溜めていた。

 ただ、浅場で見かける豆粒サイズの顔はみなヒナギンポ…と単純に認定していたところ、それらの顔をズラリと並べてみると…

 …顔ごとにけっこう色味のバリエーションがあることをあらためて知った。

 微妙な違いだけなら同じ種類ということがわかるけれど、最初と最後の写真の子が同じギンポだとはとても思えないほど(どちらもヒナギンポですよね?)。

 この豆粒フェイスをサーチするのはクラシカルアイにはかなりの労苦ながら、場所によっては、穴からヒョコッと身を乗り出している様子を、海なり暗い岩なりを背景にして観ることができることもある。

 半身を乗り出してあたりを見渡していたこのギンポはなかなかお利口さんで、カメラを向けていてもときおり外に出て、あたりの藻を食べていた。

 穴に入っている時もサービス精神旺盛で、直径5oサイズとは思えないほどの咆哮を発してくれた(アクビです)。

 ちなみにヒナギンポは、この普段の色味からは想像もつかない婚姻色を発することで知られている。

 その姿を観たい観たいと思い続けて十数年、いまだに望みを果たせていなかった2024年春。

 はたして今季、彼らの鮮やかな装いを観ることができるか?

 …というテーマを掲げてはみたものの、それ以前にクラシカルな目でヒナギンポと出会うことができるのか?

 というわけで、潜るたびに浅場ではヒナギンポサーチを続けていたところ、梅雨入り直前の5月半ばに、ついに…

 …ヒナギンポの婚姻色!

 パーフェクトカラーには程遠いとはいえ、先に紹介した身を乗り出している姿と比べて明らかに異なるその体色は、紛れもない婚姻色。

 ちなみにヒナギンポの婚姻色の最大の特徴は、襟元に出てくる蝶ネクタイ模様。

 やはりメスに求愛する以上、ビシッと決めた装いが必要なのだろう。

 次なる目標は、意中のメスにアピールするため、パーフェクトカラーになって盛り上がりダンスに興じる姿。

 こんなにコンマイ魚をまだ観ることができるうちに、パーフェクトカラーサーチに励もうっと。