全長 5cm
白黒のストライプと、その名のとおりピンと長くのびる背ビレが特徴的なヒレネジことヒレナガネジリンボウ。
砂地の上をホバリングしている様子は愛らしく、それがペアでいようものなら、いつまでもじっと見ていたくなってしまうほどだ。
が、その警戒心は、ヤシャハゼに比べ遥かに強く、ペアでいる姿を見かけても……
ペアのままで居てくれるのは、ストロボ光も届かないこんなに遠く離れた距離まで。
これ以上近づくと…
必ずと言っていいほど、近づく前にオスは巣穴に逃げてしまう。
同じ種類でも、周囲にいる同種の個体数が少なければ警戒心が強くなる傾向にあるから、水納島のように周りを見渡しても1ペアしかいないヒレナガネジリンボウもまた、逃げ足は速くなるのだろう。
個体数が少ないヒレナガネジリンボウとはいえ、たまにはこういうこともある。
ヒレナガネジリンボウの3連星♪
でもやっぱり近寄らせてはくれず、ジワリと寄ると…
2匹になって、さらに近寄ると…
当初一番外側にいたチビターレだけになった。
やはり3番目の地位に甘んじているチビターレは立場が弱いらしく、相当危機になるまで、すなわちワタシがかなり近寄るまで、巣穴に入らせてもらえないようだった。
ヒレナガネジリンボウもヤシャハゼ同様、好んでパートナーに選ぶのはコトブキテッポウエビだ。
ヒレナガネジリンボウと一緒にいると、なんだか冠婚葬祭なんでもござれ的色合いだ。
ただし、一見派手に見えるコトブキテッポウエビの赤い色は、実は海中ではヒレナガネジリンボウの縞同様黒っぽく見え、さほど目立たないようになっている。
ヒレナガネジリンボウの黒い縞には個体差があって、なかにはこういう子もいる。
縞の数も位置も変わらないけど、随分あっさりした感じ。
世に溢れているヒレナガネジリンボウの写真を見るかぎり、海底の砂の色が濃い海では、逆に黒い部分が幅広く、色もクッキリハッキリしているようだ。
ヒレナガネジリンボウに限らず、砂地にいるハゼたちはどうやら、周囲の環境に合わせた色合いになるらしい。
そういえば、水納島の砂底が今よりももっと白く輝いていた昔は、ヒレナガネジリンボウの縞模様ももっと爽やかに淡泊に、まるで水墨画のような趣があった気がする。
当時に比べれば泥成分が多くなり、白は白でもグレーが混じっているような現在の海底では、ヒレナガネジリンボウの縞模様もややクッキリしてきているのかもしれない…。
前述のとおり、水納島のヒレナガネジリンボウは、ヤシャハゼが多く観られる場所を徘徊していれば、100パーセントじゃないにしろ、夏場ならそれなりにポツポツ見ることができる。
稀にスーパーフレンドリーな子もいて、2mくらい手前からカメラを構えて撮影しつつ、ジワリジワリと接近してみると、気がつけば目の前10cmのところまで近寄れたこともあった。
こういう場合、ストロボ光も満足に届かないはるか手前から証拠写真的に撮っていた写真は、限りなく無駄になる。
フィルムで撮っていた頃は、そんな死屍累々たる無駄にまでフィルム代と現像代がかかっていたというのに、デジタルのおかげで経済的な無駄は、いっさい気にする必要がなくなった。
世の中便利になったものだ。
※追記(2020年3月)
オタマサが撮ったコンデジ写真を探っていたところ、こんな写真が出てきた。
ヒレネジ5連星!!
ファイルデータには2010年7月27日の日付があるから10年前のことで、撮影者のオタマサの記憶には微塵も残っていなかった。
写っているのは全員チビターレのようで、時期的に束の間のベビーブームだったのだろう。
写真の質はともかく、こういう得難いシーンを無造作に撮りっぱなしってのも、ある意味スゴイ…。
※追記(2022年11月)
共生ハゼたちは昔から身近なモデルでいてくれたので、今となってはそう毎度毎度カメラを向けることもなく、元気でいる姿を見て満足することの方が多い。
でもいつなんどき人生初遭遇の共生ハゼに出会うかもしれず、そういう場合にすっかり撮り方接近の仕方を忘れていたりしないよう、最低でも年に1度くらいは共生ハゼ、それもヤシャハゼやヒレネジとじっくり向き合うようにしている。
今年(2022年)は秋が深まってからその機会が訪れた。
砂礫底にはヤシャハゼのペアが多く、ヒレネジの姿もオトナからチビまでけっこう見られたその場所では、ペアになっているものたちもいた。
でもヒレネジのこと、遠目には楽しげにしていても、近寄るとすぐさまオスは引っ込んじゃうんだろうなぁ…
…と諦めつつそぉ〜っと近づいてみると、
案の定オス(と思われるほう)はすぐさま引っ込んだ。
だからといって残された(おそらく)メスまで引っ込んでしまうわけではなく、コトブキテッポウエビはフツーにシゴトをしていたから、メスはさほど警戒していないように見えた。
であれば、そのうち(おそらく)オスも再び顔を出すかも…
…と思いきや、5分待ってもいっこうに出てくる気配がない。
カメラが近すぎるのだろうか。
押してダメなら引いてみな。
少し離れてみると、ほぼ「すぐ」といっていいくらいのタイミングで(おそらく)オスが出てきた。
でもここからじゃストロボの光がちゃんと届かない。
かといって近づいたらまた引っ込みそう。
タイムリミットが迫っていたため、今から長期戦は不可能となれば、ここはひとつ排気せずに静かに静かにジワリジワリ進みながら…
うれし恥ずかし、(光がちゃんと届いているという意味で)人生初ヒレネジペア♪
こうして雌雄を見比べてみると、体の黒帯模様に違いがあることがわかる。
これは雌雄の差なんだろうか?それともたまたま個体差?
ともかくせっかくだから、エビちゃんとのスリーショットも。
年に一度の共生ハゼじっくりご対面祭りは、こうして「人生初」の成果を残しつつ、本年も無事終了したのだった。