全長 25cm(写真は3cmほどの幼魚)
枯れ葉、もしくは千切れた海草のフリをしているのだろう、砂底付近でユラリユラリと日がな一日揺れているホシテンスのチビ。
砂底で身を守る術があるため、一望何もない砂底にポツンといることが多い。
たしかに遠目には、千切れた海藻や枯れた海草がユラユラ漂っているようにしか見えないから、肉食系の魚たちに襲われることなど滅多にないのだろう。
背ビレの前端がビヨ〜ンと伸びているフォルムは不思議的だから、生き物に興味のある方がこれが魚だということを初めて知れば、思わず近寄ってじっくり観てみたくなるはず。
でもウカツに近寄ると、↓こういうことになる。
ホシテンスチビターレは、枯れ葉のフリ以外に、砂遁の術というさらなる離れワザを持っているのだ。
これはこれで面白い行動だから、ゲストに見てもらおうと、スレートに
「この魚はピンチになると砂に潜ります」
などと書き、ワザとホシテンスチビターレが砂中に潜り込むよう仕向けてみる。
これで筋書きどおりにホシテンスがヒュッと砂中に引っ込んでくれれば、ゲストもワタシも明るい明日に向かって足取りも軽く歩んでいくことができる。
ところが、場合によっては企図どおりに砂に潜りこんでくれず、そのままヒューッと泳ぎ去ってしまうヤツがいる。
チョー企画倒れ。
そして気まずい空気が流れる……。
ヤラセ失敗はともかく、砂中に潜るという最後の手段があるのなら、なにも苦労して一日中枯れ葉のフリなんてしなくてもいいのに。
そもそも白い砂地では、茶色い体色はかえって目だっているじゃないか。
しかしなかにはその事実に気づく子もいるようで、白っぽくなっているものもいる。
これは2cm弱のチビターレ。
白い砂底でこんな小さな魚にこんな色でいられたら、クラシカルアイには到底発見はおぼつかない。
しかるになにゆえ見つけることができたかといえば、ずっとホシテンスのチビターレを求め、砂底を彷徨い続ける日々を過ごしていたからにほかならない。
2cm弱のホシテンスチビターレはみんなこのように白っぽいのかというとそういうわけではなく、冒頭の写真と同系色をしたものがそのまま小さくなったようなチビターレもいる。
白い子と茶色い子はホントに同種なの?と疑いたくもなるものの、3cmくらいのチビには↓こういう色の子もいる。
こうなるともう、「いろんな色の子がいる」とナットクするしかない。
しかしモンダイは色味だけではなかった。
昔から個人的にナゾのテンスのチビ扱いしていた↓こういうタイプのチビターレ……
…彼もまた「ホシテンスの幼魚」ということでいいのだろうか。
上の写真は2cmほどのチビで、これよりもさらに小さな1cmほどのチビターレもまた……
…短い背ビレ前端のバランスは同じ。
後天的に誰かに齧られて短くなったというわけではなさそうだ。
もし彼らもホシテンスだとするならば、同じサイズなのに背ビレがビヨ〜ンと伸びているものと伸びていないものがいるなんて、いったいどういうことなんだろう?
それはようするに別の種類ということなのでは?
と推測しつつ、その他のいろんなテンス類のチビチビたちの画像も併せ、瀬能博士に尋ねてみたのは前世紀末のこと。
デジカメ時代の今と比べ、ダイバーから寄せられる情報量が遥かに少なかった当時、瀬能博士から頂戴したご返答によると…
難しい問題です。
伸びている方はホシテンスとしてよいと思いますが、 伸びないものを伸びないことを理由にホシテンスではないとは言い切れません。
なぜなら、成長のどの段階で伸びるかについては個体変異があり得るからです。
また、このような特徴は徐々に伸びるのではなく、一気に伸びることもあり得ます。
中間段階や伸びないものにつながる成長段階のものを探すなど、 もっと情報を集める必要があるでしょう。
とのことだった。
当時テンス類の幼魚は、ナゾまたナゾの世界だったのだ。
それから20数年経ち、溢れる情報のもと、このチビターレは誰になったのだろう?
ネット上では他のテンス類に同定しているサイトもけっこうあるようながら、ベラ図鑑の決定版といっていい古今未曾有のベラ図鑑「日本のベラ大図鑑」では、
ホシテンスの幼魚
として掲載されているという。
高級図鑑なのであいにく手元には無いものの、久米島のプレスーパーガイド・アカザキ氏から情報をご提供いただいた。
そうかぁ、ホシテンスだったのかぁ…。
もっとも、この背ビレが短い子とフツーに長い子の中間段階的長さのチビは、いまだ目にしたことがない。
ある日突然長くなるんだろうか?
ちなみにホシテンスの背ビレビヨ〜ンはチビの頃だけの特徴ではなくて、もっと成長しても……
…けっこうビヨ〜ンとしているし、オトナになっても……
…相対的には短くなってはいても、やはりビヨ〜ンとしている(上の写真の子には目印の「星」模様が見当たらないけど、反対側にはちゃんとありました)。
枯葉のフリをして世渡りをしているチビターレとは違い、25cmにもなるオトナは砂底環境で悠然と過ごしている。
砂底の何かが獲物らしく、同じく砂底のエサを漁るヒメジ類(下の写真はリュウキュウヒメジ)にくっついて泳いでいる姿もよく見かける。
ただしオトナはチビターレのように背ビレを常時ビヨ〜ンとさせているわけではなく、フツーに泳いでいるときは後ろ側にピトッ…と畳んでいる。
こうなるともう、ただ白っぽいヌボーッとしたベラ、という存在以外のナニモノでもなくなってしまう。
どんなに美しくとも「ベラはベラ」な方がそのような魚に注目するはずはなく、チビターレとは違い、オトナは見えているのにスルーされるザンネンな魚としてその後の一生を送る。
あの枯葉のようなチビチビが育つとこうなる…と思えば、多少は目に留まるようになるかも??