(あるいはホソウミヤッコ)
全長 7cm
特にこれといってカモフラージュの対象になる何があるわけでもない砂底に、小枝の先っちょの切れ端のような、もしくは紐の切れ端のような、爪楊枝大のものがポツンとたたずんでいることがある。
ストロボを当てた写真を見ると、微妙に茶色っぽく、節々(?)に小さな皮弁がついているのだけど、肉眼で観ているとただ黒く細い紐のようでしかない。
それがヨウジウオの仲間の魚だと知った時は、たいそう驚いたものだった。
そのときからずっと、このヨウジウオの仲間を「ホソウミヤッコ」ということにして生きてきた。
しかし実はホソウミヤッコにそっくりなヒメホソウミヤッコという種類もいて、これがまたシロウトが写真で区別しようだなんて土台無理ってほどの瓜二つぶり。
ちなみに魚類分類学的な両者の違いはというと、
ホソウミヤッコの尾輪数は37〜42なのに対し、ヒメホソウミヤッコのそれは31〜36と少ないことで区別できる。
…って言われても、そんなの数えられない。
そもそも尾輪数ってなに?
耳慣れない言葉なので調べてみたところ、ヨウジウオ科魚類は「体輪」というもので体が覆われているのだそうで、その尾部分の体輪の数のことを尾輪数というらしい。
いずれにせよそれは知の探究のために尊い犠牲となった標本を実体顕微鏡を覗きながら調べるうえでの話であって、ダイビング中に出会った際はもちろんのこと、撮った写真ですら参考にならない(撮り方によっては役に立つかも)。
なんとか観察中もしくは撮った写真で区別がつかないものだろうか。
以下はすべて水納島で撮影したもので、水深2mにも満たない海水浴場内から水深25mくらいの砂底まで、居場所は様々なホソウミヤッコもしくはヒメホソウミヤッコたち。
この中では下から2番目の写真の子が最大で、一番下の写真が最小4cmほどのチビ。
「ヒメ」というからにはヒメホソウミヤッコはホソウミヤッコよりもオトナのサイズが小さいのだろうけれど、ではヒメホソウミヤッコのマックスサイズくらいのホソウミヤッコの若魚となると、サイズで見分けられなくなる。
なのでこのヨウジウオの仲間の項をリニューアルし始めて以降も、手持ちの写真がホソウミヤッコなんだかヒメホソウミヤッコなんだか、どっちかわからないままだったためにずっとペンディングしていたところ、両者を区別する耳よりの情報をようやく得ることができた。
ヒメホソウミヤッコの吻には、その途中に盛り上がったコブ状の部分があるというのだ。
顔のアップもいくつか撮っていたから、さっそくチェックしてみた。
すると……
いずれにもコブ状になっている部分がある。
ただし一番下の子は他の2匹と比べると、吻の長さが若干長いような気も……。
そもそもこの吻のコブだって、ホントに区別するうえでの手掛かりなのかどうかもアヤシイ。
結局両者の区別は、決定打が出ないまま試合は延長戦にもつれこむ……
…かと思われたのだけど。
ホソウミヤッコの分布域について述べられている説明を冷静に見てみると、南から北までいろんなところに分布しているように見えつつ、明確に「琉球列島」と書かれているものが無い。
ひょっとしてホソウミヤッコって、沖縄ではほとんどいないの??
それに対しヒメホソウミヤッコは、そもそも石垣島で採取された標本をもとに93年に新和名が提唱されたくらいだから、どの説明を見てもその分布域には「琉球列島」の文字、もしくは「西部太平洋のサンゴ礁域」と、しっかり沖縄が含まれる記述がある。
ってことはなんですか、水納島で観られるこのテの細いヒモヒモしたヨウジウオって、ヒメホソウミヤッコと思って十中八九間違いないってことですか?
というわけで、延長戦突入かと思われたゲームは、9回裏2死走者なしからの4連続四球で、まさかのサヨナラゲームに。
「ヒメホソウミヤッコ」の勝利により、もう迷う必要は無くなった。
これまでずっとゲストには「ホソウミヤッコ」と紹介してきたけれど、以後はヒメホソウミヤッコにあらためます…。