水納島の魚たち

フタイロカエルウオ

全長 7cm

 メリハリのある藍色と黄色のツートンカラーが鮮やかなフタイロカエルウオ。

 ただ、せっかく鮮やかな黄色い部分は、穴に入っている時はまったく見えない。

 こうなるとただの黒っぽいギンポでしかなくなるところがいささか残念ではある。マツ毛(?)は可愛いけど。

 これが逆の配色だったら、今頃彼はスター街道まっしぐらだったことだろう。

 ただしそれだと目立ちすぎて生き残れないかも?

 あまり日が当たらない場所を好む傾向があるフタイロカエルウオだから、穴から顔を出す際にも、顔が黒っぽいほうがなにかと便利なのだろう。

 ところが、フタイロカエルウオには、名前のとおりのツートンカラーではないタイプもいる。

 水納島では極めてレアながら、バリエーションとして世間では知られているのがこちら。

 婚姻色とか興奮色といった一時的な体色変化ではなく、常時このままでいるタイプである。

 これじゃあ、ミツイロカエルウオだ。

 このように全身を出してくれていれば、「おッ?」とばかりにわかに色めき立ちもするだろうけれど、穴に入っていたらもうお手上げだ。

 もはや年老いたヒトスジギンポにしか見えない…。

 このタイプはまだ1個体しか出会ったことがなく、彼らが幼いころからこの色合いなのかどうかは不明だ。

 フタイロカエルウオのチビたちも、春から初夏にかけてドッと増えてくる。

 オトナに比べ幼魚のほうが明るいところにいる率が高いから、なんだか陽気そうに見えるチビターレ。

 こうして全身を出しているときのほうがカワイイからついつい間近で観たくなるところながら、ウカツに近寄るとあっという間にヒョイッと逃げ去る。

 かと思えば、周りにいる小魚たちのマネをしているのか、一緒になってずっとホバリングを続けているチビもいる。

 チビターレに比べるとオトナはやや神経質なので、全身を拝見させてもらおうとするとすぐに逃げてしまうことが多い。

 ただし恋のシーズンは別だ。

 やる気モードになったオスが、体の模様まで変えて(パーマークのように白い線が少し出てくる)全身を露わにしつつ、興奮気味に盛んにホバリングしている。

 血気盛んなオス同士が出会うと、たちまちバトル開始だ。

 普段の気弱な様子からは想像もつかない激しい争いを繰り広げている間は、そばで観ているダイバーなどそっちのけで、戦いに集中している彼らである。

 10分近く繰り広げられた戦いは、僅差で彼の判定勝ち。

 興奮冷めやらぬまま、勝利のポーズをバシッと決めるフタイロ君であった。

 でもこんなに猛々しいのは恋のシーズンだけで、普段はけっこう引っ込み思案ですからね。

 だからといっていつまでも見つめ続けていると……

 「しつこい!」とお怒りモードにもなるのだった。

 追記(2024年5月)

 気が強くなるのは、オス同士のバトルを繰り広げているときだけではなかった。

 彼らが繁殖期を迎える春、巣穴から顔を出しているフタイロカエルウオの様子が、どうも普段より猛々しい…

 …と感じたオタマサが、巣穴をそっと覗いてみたところ

 卵がビッシリ!

 色味からして産みたてっぽく見えるタマタマを、大切そうに守るフタイロ父ちゃんだったのだ。

 観づらい撮りづらい穴の奥のことなのではっきり見えないながらも、おそらく穴の奥では胸ビレを使って卵に水流を送ったりしつつ、大きな口によるソフトタッチで小まめに卵をケアしているのだろう。

 これまでギンポの仲間の卵は何種類か観たことがあるけれど、フタイロカエルウオは初記録だ。

 なのでワタシも是非観てみたく、後日その場所を訪ねてみたところ…

 5日後だからオタマサが発見した卵と同じ時期のものではなさそうながら、卵にお目目ができていた。

 また、その奥にある卵は…

 すでに眼がキラキラしているものも。

 縄張り内で傘下におさめている複数のメスに卵を産ませているからなのか、同じメスが時間差で何度も産んでいるからなのか、詳しいことはわからないけれど、それぞれ段階が異なる卵群を孵化まで保育するとなると、父ちゃんのイクメン期間は相当長くなりそう。

 実際このあと再びオタマサが観に行った時には、また入り口付近に産みたてホヤホヤカラーの卵が産み付けられていたという。

 春は子育ての季節、卵守で相当お疲れモードになっているだろうに、それでもフタイロ父ちゃんは、基本的にイクメン生活を楽しんでいるように見えるのだった。