全長 3cm
生き物、特に微小なエビカニ系クリーチャーが大好き!という方の変態度が増してくると、そこらに転がる石を引っくり返すようになる。
夜行性のエビやカニたちは日中は暗いところにいることが多く、なかには死サンゴ石のように平たく転がりにくそうな石の下で息をひそめているものもいるので、エビカニ変態社会にお住まいのみなさんには、石の下は魅惑のワンダーランドなのだ。
魅惑のクリーチャーたちとの出会いを求め、エビカニ変態社会人はメクリストとなり、今日も石をめくり続ける。
ただしなんであれ「道」になる日本のこと、石をめくる所作にもちゃんと「めくり道」みたいなものがあり、闇雲に石をめくらず、めくった石はひとつひとつキチンと元に戻すという礼儀作法を遵守しなければ、「メクリスト」の称号は得られない。
心無いダイバーのなかには、自分の興味の対象以外にはまったく配慮しないヒトもいるから、同じように石の下を住処にしている他の生き物が大迷惑を被っている…ということも多々ある。
いくらガレ場とはいえ誰も彼もが石をめくり続ければ、そこは荒れ野になってしまうだろう。
そんな「人災」を避けるためにも、ここはひとつ「メクリスト」も知性と品性が求められる認定制度にし、合格していないヒトは石をめくってはダメ、という厳しいルールを作ってもらわねばなるまい。
ビギナーエビカニ変態社会人のみなさんは、名誉メクリストであるゴッドハンドO野さんを目指さねばならないのだ。
かくいうワタシもエビやカニといった甲殻類はけっしてキライではないのだけれど、なにも石をひっくり返して目を皿のようにせずとも、フツーに泳いでいる魚を見ているだけで楽しいので(石をめくってもそこにいる微小生物がクラシカルアイでは見えなくなったから、ともいう)、近年は普段カメラを携えて潜っているときに石をめくることはほとんどない。
そのため小さなエビやカニと同じように石の下に潜んでいる小さな魚たちに会う機会もなく、そういった環境をこよなく愛するオキナワハゼの仲間などとは無縁に近い。
ところが、ふと気が向いてめくってみた石の下に、オキナワハゼ一族のフタスジハゼがたまたまいた。
めくった石の下にいてくれたとしても、たいていの場合撮る前にサッと逃げてしまうことが多いのに、写真の子はたった1枚だけながら、記録に残す時間を与えてくれた。
冒頭の写真は、個人的に唯一無二のフタスジハゼなのだった。