全長 8cm(写真の個体は4cmほど)
沖縄で幾度か潜っておられる方で、この魚をご覧になったことがない、という人はおそらくいないと思う。
水納島でも、砂底に点在するサンゴに群れ集まっている姿を、ごくフツーに観ることができる(リーフ上にもいます)。
ただ、いつもいつも写真のように白と黒がクッキリハッキリしているわけではない。
せっかくたくさん群れているのに全体的に黒っぽくなってしまい、あまりフォトジェニックじゃないということもある。
老成した個体になると黒さが際立ち、姿形といい、ダイバーに突っかかってくるほどの繁殖期の気の強さといい、もうミツボシクロスズメダイとほとんど変わらなくなる。
もっとも、老成魚はともかく、黒っぽくなったからといって以後一生そのまま黒いわけではなく、どうやら気分によって体色の濃淡が変わるらしい。
そしてその「気分」は群れ全体で統一されているときもあり、白さがクッキリしている状態でサンゴに群れ集う彼らの姿は、とってもトロピカルな雰囲気になる。
同じ仲間で色形も似ているミスジリュウキュウスズメダイは、水深15m以浅の浅いところを好むのに対し、フタスジたちは逆にそれよりも深いところを好むので、上の写真のように両者が同じサンゴに混じっているのはせいぜい水深15mまで。
それより深いところにはフタスジしかいない。
両者に優劣があってのことかどうなのかは知らないけれど、とにかくうまい具合に棲み分けているのだ。
なので水納島の場合、水深20mほどのサンゴでは…
…このようにフタスジリュウキュウスズメダイが随分幅を利かせている。
場所によっては1つのサンゴ群体にものすごくたくさんのフタスジリュウキュウスズメダイたちが集まっていることもあり、色味はモノトーンでも圧倒的な個体数で涼し気な雰囲気を生み出していることもある。
水温が上がり始める梅雨入りの頃くらいになると、フタスジリュウキュウスズメダイたちが群れ集っているサンゴの傍で、ペア産卵をする様子が観られるようになる。
画像で観ると仲睦まじそうながら、実際はけっこう激しく、オスが群れの中のメスを誘って産卵床まで連れてきたあと、メスはセッセと産卵する。
そしてどういうわけか、時間差でオスが放精する、という流れになっているようだ。
メスの一所懸命ぶりに比べるとオスの放精はなんだか投げやり感がなくもないけど、どうやらここに何度も何度もメスを連れて来ては産卵&放精を繰り返しているようで、すでにお疲れモードなのかもしれない。
たくさん群れているわりには周りで産卵行動をしているのはこのオスのみっぽかったところをみると、群れはやはりハレムで、この程度の群れだと繁殖オスは1匹だけってことか。
初夏になるとそんなオトナたちの努力が報われ、彼らのチビチビたちが一気に増加する。
チビターレはやはり可愛い。
チビターレたちが成長し始める初夏以降、砂底に点在するそれぞれのサンゴでは、フタスジリュウキュウスズメダイのチビターレたちがお祭り騒ぎになっている。
そのままの勢いで増え続ければ、フタスジリュウキュウスズメダイたちの住宅事情は、またたくまに悪化の一途をたどることだろう。
しかしそこはそれ、この時期増える彼らを待ち構えているモノたちがいる。
カサゴ類やカエルアンコウたちのように居座り続けるハンターたちのほか、小魚が集まっているところを巡回するプレデターたちも、虎視眈々と彼らを狙っている。
そのため、たとえ爆発的にチビターレが増えようとも、全部が全部オトナになれるわけではない。
そんな自然界の厳しいオキテは、チビターレだけの災厄ではなかった。
持ち前の気の強さで、他の魚を撃退することもあるほどのオトナのフタスジリュウキュウスズメダイだというのに、ときにはその撃退をものともしないハンターに狙われることもあるのだ。
のどかそうな馬面でありながら、実は瞬殺ゲットの早業の持ち主であるヘラヤガラにハントされた、フタスジリュウキュウスズメダイのオトナ。
ことここに至っては、もはや観念するしかなくなっているのか、ヘラヤガラの口内でジッとしている彼の妙に哲学的なマナザシは、諦観の域に到達しているようにすら見える。
このように、いつなんどき襲われるかもしれないという危険と隣り合わせでありながらも、今日もまたサンゴの周りで群れ集うフタスジリュウキュウスズメダイたちなのであった。