全長 10cm
イナズマベラは浅いところが主な生息環境で、リーフが入り組んで転石ゾーンになっているようなところで観られる。
…ということは知っていたのだけれど、どういうわけだかベラベラブダイバーになっていた2020〜2021の冬場には、幼魚から若魚くらいの小さな個体にしか出会えなかった。
はてさて、オトナ、それもオスはどういうところにいるのだろう?
…と思っていたら、水ぬるむ春になって繁殖期を迎えたためか、リーフ際の転石ゾーンでオスにごくごくフツーに出会えるようになった。
彼らイナズマベラが住まう浅い転石ゾーンはいつでも太陽燦燦環境だから、海底に転がる岩にも砂にも海藻や石灰藻がたくさんついている。
そんな海底付近にいるため、一見派手に見えるこの体色が、案外カモフラージュ効果を発揮している。
なので気にしていなければ特に目につくことはないのに、ひとたび注目すると、海底のそこらじゅうにメスや幼魚がいることに気づく。
たくさんいるメスはこんな感じ。
若魚とメスの見た目はほとんど変わらないので、サイズだけではどっちなのだかわからない。
でも繁殖期を迎えていると、メスのお腹は…
ポンポコリン。
こうなっていれば、どんなに小さくともメスであることに疑問の余地はない。
水温が上がってくるGW前くらいになると、浅場の転石ゾーンにはお腹をポンポコリンにしたメスがたくさん観られる。
そしてオスは、縄張り内にいるたくさんのメスを見回りながら、自らの存在をアピールする。
そして満潮から潮が引き始める時間帯になると、オスは俄然やる気モードになって、卵でお腹がポンポコリンになっているメスをその気にさせるようになる。
メスはメスでオスを待っているようで、待っているクセにときおりつれない態度を見せるあたり、メスもなかなかの手練れっぽい。
そんな一筋縄ではいかないメスも含め、縄張り内のすべてのメスと関係を持っているオスは、1匹1匹に対して実に丁寧に産卵へと誘う動きをする。
海底付近にいるメスを伴って静かにゆっくり、少しだけ上昇するオス。
この際のオスの動きはかなりソフトかつデリケートで、そっとそっと……という優し気ないたわり感すらある。
とはいえメスは機械的に産卵するわけではないから、その時気分が乗らないと、再び海底付近に戻ってしまう。
一度フラれたオスは、もう一度そのメスの気分を盛り上げようと頑張る……
…のかと思いきや、「あ、そぅ。」とばかりにすぐさま他のメスのところへ行き、そこで同じように産卵を促すのだった。
メスも手練れなら、オスももちろん百戦錬磨、オスの愛はメス1匹限定ではないのだ。
もっとも、一度はオスをフッたメスではあっても、やがてまた気分が盛り上がってくるらしい。
そのあたりの機微を熟知しているのか、オスはただちに駆けつけ、同じように儀式を開始。
でもこの時は、メスのほうからオスにスリスリしているようなフシもあった。
別のところに去ってしまったオスに「もう……いけずぅ〜」とでも言っているかのような…。
ま、いずれにせよオスもメスも、なんだかとってもうれしそうではある。
このように時間をかけて気分最高潮に達した両者は、少しずつ少しずつ上昇しながら、いよいよ産卵直前態勢に。
さぁ、このあといよいよ産卵だ!
…と待ち構えていたら。
ここまでは白新高校不知火投手の超スローボールなみの緩やかな動きだったというのに、いざ産卵となると、眼にも止まらぬ速さで50cmほど垂直に上昇、そして産卵。
一瞬の閃光にも似たその速さ、まさに稲妻。
あまりの速さのため、残像しか見えなかった…。
やはりカーブは遅ければ遅いほど、ストレートが速く見えるのだなぁ。
このストレート、ワタシには打てない。
※追記(2022年11月)
刹那の閃光を撮れないのなら、動画で撮ればいいんじゃね?
…ということに気がつき、海底付近にいるメスたちのもとを回っては、その気になったメスと一緒にラブラブモードに入るオスの様子を、ポッケのコンデジで至近距離から動画撮影してみた。
…したものの、動画でさえ稲妻級の速さについていけず、肝心の産卵シーンは画面の外になってしまった。
実は、この前に他の魚をマクロモードで撮っていたために、画角が狭すぎたのだ。
それならば…と、画角を広くしてあらためて撮影(同じオスが複数のメスと産卵するので、盛り上がっている間ならチャンスは何度もある))。
ところが…
…これまた肝心のシーンは画面の外(涙)。
ならばさらに画角を広くするため、ワイコンをつければ…
ああしかし。
ワイコンを取り付けたときにはもう、オスはすっかりその気をなくし、岩肌でのエサあさりに高じていたのだった。
盛り上がりタイムはあっという間に終了。
気分急変の速さもまた、稲妻級のイナズマベラなのである。