水納島の魚たち

ハタタテギンポ属の1種

全長 6cm(写真はおそらく3cmほど)

 この春(2020年)、見慣れぬギンポに出会った。

 ガヤが茂っている握り拳2つ分ほどの石が砂地に転がっていて、その石に開いている穴から、控えめに顔を出していたのだ。

 普段あまり訪れないわりと深めの場所だったから、そういう場所にいるとなると、(個人的に)未知のギンポかもしれない。

 撮った写真をもとに後刻調べてみると、記述されている特徴からして、どうやらこれはイヌギンポのようだ。

 イヌギンポという名のギンポの存在は知っていたものの、また意味不明の芸の無い和名だなぁ…とバカにしていた。

 ところがこうして正面から観てみると、なるほどたしかに「犬」のようにも見える。

 目の後ろ側にニョキッと生えている皮弁は、同じ仲間でよく似ているニジギンポにはないため(あってもごくごく小さい)、両者を見分ける目印になる。

 ともかくイヌギンポと初めての出会い。

 なるほど、こういう深いところにいるのだなぁ……

 …と思いきや。

 さらに調べてみると、どうも「イヌギンポ」として紹介されている写真に「ビンゴ!」が無い。

 ひょっとして違う種類なのかも…と考え直し、さらに調べてみたところ。

 このギンポ、どうやらまだ和名が無いハタタテギンポ属の1種ということで知られているものらしい。

 和名がつけられていない魚には学名カタカナ表記が大好きな業界のこと、このギンポも 「ペトロスキルテス・ゼスタス」などと、ドラクエの呪文を組み合わせたかのような名で通っているようだ。

 警戒心が強いため、近づいて撮った写真では穴にほとんど引っ込んだ体の色が地味目になっているのだけれど、遠目に観ている分にはもっと身を乗り出しており、体も白くて黒いラインが見えていた。

 そしてこの皮弁にアゴヒゲ(?)とくれば、おそらくこの Petroscirtes xestus で間違いないと思うんだけどどうだろう?

 もう少し通いつめて警戒心を解いてくれるようになれば、白い体に黒いラインが入った状態でもっと身を乗り出してくれるかもしれない。

 追記(2020年6月)

 その後このギンポが暮らしていた小岩を再訪したところ、早くもGone。

 警戒心を解いてくれるまで付き合いを深めることはできなかった。

 ところがひと月後、その場所から20mくらい離れた、一望砂底に転がる小さな貝殻から、ヒョコッと身を乗り出しているこのギンポを見つけた。

 同じ子なのかどうかは不明ながら、ひと月前に比べると、身の乗り出し方が随分大きくなっている。

 水温が上がってきたからだろうか、それとも慣れてきたからだろうか。

 お言葉(?)に甘えて、正面からも撮らせてもらった。

 わぁ〜お、やっぱりプリティ♪

 朽ちかけた貝殻をうまく利用したこの巣穴、ひょっとして卵でも守っていたか??

 また再訪してお近づきになれればいいなぁ…

 …と思っていたのだけれど。

 こんな小さな朽ち貝殻など、ひとたび海が荒れば、すぐさま埋もれる流れる消えてなくなる。

 今回もまた、儚き一期一会で終わったのだった。

 追記(2020年12月)

 この年(2020年)のシーズン最終盤に、オタマサは普段ちょくちょく訪れるけれどワタシは滅多に行かない砂地の深いところで、チビチビがいた。

 最初はもっと正面を向いていたため、カワハギ系の魂サイズかと見紛うほどのチビチビで、顔の直径は海中で5mmくらいに見えたから、実測はせいぜい3mmくらいの激チビだ。

 こうして着底しているところに近寄ったために、チビターレはフワッと身を宙に置いた。

 これまで出会ったオトナは巣穴からちょっと身を出すだけだったから、いまだ全身を拝んだことがなかったので、初めての全身♪

 1cmくらいだけど。

 おまけにこのチビターレはサービス精神旺盛で、全身を拝ませてくれただけでなく……

 口まで開けてくれた。

 見かけによらず意外にしっかりした頑丈そうなアゴ…。

 追記(2022年3月)

 前月があまりにも多雨だったこともあり、水温が20度くらいで低止まりしていたものが、ようやく1度上がって「生きた心地」がするようになった3月(2022年)半ば、水深25mほどの砂底に転がる人工物っぽいものに、何か小さなものが逃げ込むのが目の端に見えた。

 はて、今のは誰だったのだろう?

 ジッと待っていると、顔を出してくれた。

 オトナサイズのハタタテギンポの1種君のようだ。

 初めて出会った一昨年の春以後、深めの砂底でオタマサもワタシもこのギンポとは何度か遭遇しているのだけど、チビターレを除いてなかなか全身を見せてくれない。

 なので、水温も1度上がったことだし、ここはじっくり全身待ちといこう。

 ところが、ギンポ君としても外に出たいのはヤマヤマながら、ワタシが傍にいるのがどうにも気になるらしい。

 仕方がないので1歩引いてみると…

 出てきた♪

 妙に垂直姿勢なのは、周辺警戒のためなるべく遠くを見渡せるようにしているからだろうか。

 でもせっかく全身を出してくれたのに、横位置の写真でこのポーズじゃ、小さな写真だと魚体がいっそう小さくなってしまう。

 せっかくだから画像の向きを変えて全身を見てみよう。

 ハタタテギンポほどじゃないにしろ、同属だけあってやはり背ビレが広く、なかなかカッコイイ。

 こんな特徴的な魚をいつまでも「ハタタテギンポ属の1種」とか学名で呼ぶのも面倒だから、早く和名がつかないかな…。

 もうついているのだったら、ご存知の方テルミープリーズ。

 追記(2023年10月)

 昨年(2022年)はその後もハタタテギンポ属の1種との遭遇機会が多く、オタマサは水深30mほどの砂底で↓こんな激チビと出会っている。

 砂底に転がる小さな石ころについていたこの激チビターレは、オタマサによるとこのあとプイ〜ン…と漂うようにしてにげていったという。

 てっきり石ころに開いている穴を隠れ家にしていると思いきや、なにげに自由生活者らしい。

 また、深いところを好むギンポなのかと思いきや、なんとリーフ内、それも桟橋脇にすら彼らの姿があった。

 ↑このように貝殻をおうちにしているものがいるかと思えば…

 なんの変哲もないサンゴ礫の隙間を利用している者も。

 その他、しっかりオトナサイズの子も桟橋脇で観られた。

 今年(2023年)はやや深めの砂底で、一風変わったモノを住処にしている子がいた。

 砂底に転がるなんの変哲もない死サンゴ石だと、再訪するにもどの石だかわからなくなって往生するところ、この子は朽ち果てた釣竿に住んでいるものだから、サルでも再訪可能だ。

 とはいえこのギンポは警戒心が強いから、そぉ〜っと近づかないとすぐに引っ込んでしまう…

 …と思えばこそまずは遠くから撮っているというのに、コイツときたらやたらとお利口さんで、かなり近づいてもなお…

 …このように身を乗り出してくる。

 それはそれで可愛くはあるけれど、ワタシとしては、巣穴から顔を覗かせているところを撮りたいわけで、もう少し引っ込んではくれないものか…

 …と思っていると、時々身を引いてくれもした。

 本人としては怒っているのだろうけれど、まるで思いがけないところで愛しのスウィーティに会えた時のような、シアワセ満開の笑顔がステキング。

 そんな朽ちた釣竿に住まうハタタテギンポ属の1種の様子がこちら。

 動画でもわかるように、しきりに胸ビレをヒラヒラ動かしていたのだけど、これは卵守り&ケアをしているからなのだろうか(穴の外縁では卵を確認できなかった)。

 というように、初遭遇以来浅いところでも深いところでもチョコチョコ出会えるようになっているハタタテギンポ属の1種。

 以前からこれくらいの遭遇頻度になるほど個体数がいるのであれば、もっと前から存在に気がついていたはずだから、やはりこれは近年になって増えてきたということなのだろう。

 本来もっと南方系だったものが、温暖化の影響でジワジワと分布域を北上させているってことなのかもしれない。

 となると、そろそろ例の正式名称漢字20文字研究所あたりが、チャチャチャッと和名をつけることになるのかな。

 はたして何ギンポになるでしょう?