全長 3cm(オトナになると20cm超)
イッポンテグリといえば、なんといっても幼魚の可愛さ。
今(2020年)を去ること二十数年前、20世紀の夏のとある午後、ゲストを案内中のことだった。
見慣れぬ魚が砂底をゆっくり這い進んでいた。
ん?
これは!!
2cmにも満たないイッポンテグリチビだ。
白い体にオレンジ色の模様が映えまくりの、幼魚も幼魚のチビターレだ。
人生初の出会い。
が。
例によってガイド中のこととて、カメラなど手にしているはずはなし。
今のように猫も杓子もデジカメという時代ではなかったから、ゲストも当然ノーカメラ。
出会ったはいいけれど、記録に残す手段が無かった。
しかし当時はまだ燃える闘魂アントニオダイビングだったワタシは、そんな逆境(?)をものともせず、ファンダイビングを終えていったんボートを桟橋まで戻してゲストにお戻りいただいた後、直ちにカメラを取りに戻り、すぐさま同じポイントへ!!
当時は水納島の周りでファンダイビングをする業者なんて、当店以外に1、2店くらいで、それも毎日ではなかったから、今とは違って我々は好きな時に好きなところで潜れていたのである。
さて、おっとり刀ならぬおっとりカメラで、再び現場に駆け付けたワタシ。
あんなに小さなチビターレだもの、この短時間でそんなに遠くまで移動できるはずはない。
当然のように再会できるものと思い込み、先刻イッポンテグリチビに出会ったあたりを撮る気満々で隈なく探し回ってみたものの……
…… She's gone.
ああ、一期一会のかくも儚き………。
その後長い間、あとにも先にもイッポンテグリを目にしたのはそのチビターレの一度だけ、という時代が続いた。
ところが。
世紀を超えた2009年から2010年にかけて、ある砂地のポイントで、なぜだか不思議なくらいけっこうな頻度でイッポンテグリに出会うことができた。
ただし…
10cmほどに育った若魚(涙)。
そりゃもちろん、若魚には若魚のシブい魅力はある。幼魚と同じくレアな存在でもある。
でもそれは、「チビターレの写真も撮ったことあるもんね」という余裕があってこそ目に見えてくる魅力。
そこが欠如しているワタシは、ヤングイッポンテグリと出会うたびに、あの日あの時記録にできなかった無念が甦る。
しかしそれにしても、後にも先にもイッポンテグリ若魚ラッシュはその2年間だけで、1度のダイビングで2個体観られたこともあったほど、遭遇頻度は高かった。
別のポイントでは、20cm超のオトナにも出会えた。
いったいあのイッポンテグリ若魚ラッシュはなんだったんだろう?
ともかくもこの頻度で若魚や成魚に出会えるのなら、きっとそのうち可愛い可愛いチビターレとの再会も………。
それから6年経った2016年のこと。
ついにイッポンテグリ・チビターレと再会!!
……オタマサが(涙)。
ワタシはゲストをご案内中で、しかもまったく別ルートで潜っていたため、目にすることすらできなかったチビターレ。
とはいえ、ようやく2度目の出現をしてくれたイッポンテグリチビ、実に18年ぶりの再登場である。
オタマサによると、2cmほどのイッポンテグリ・チビターレは意外に素早く動くため、背ビレを広げるのを待つどころか、証拠写真を撮るのにすらけっこう骨が折れたそうな。
なにはともあれ、記録写真をついに手にすることができた。 となれば、若魚の魅力もさらにたっぷり味わえることだろう。
そしていつの日か訪れるであろう、チビターレとの3度目のチャンスに期待しよう。
…それからまた2年後の夏のこと。
オタマサはゲストの案内で、ワタシはカメラを携えて、それぞれ砂地を気ままに徘徊していたところ、砂底の一点に向かい、オタマサとゲストのお2人が凝視状態で見入っている様子がやや遠目にうかがえた。
これはひょっとして、ひょっとするモノがいるのかもしれない。
するとほどなく、カンカンカンッ!!とオタマサがタンクを鳴らす音が。
カメラを携えているワタシが近くにいないかと見回しながらオタマサがワタシを呼ぶ音である。
それ以前から異変(?)には気づいていたので、ひょっとしたら呼ばれるかも…と思っていたワタシは、最初の「カン!」ですぐさま気づき、ただちに駆けつけた。
その場にいたのは……
おお、イッポンテグリ・チビターレ!!
前回オタマサが出会った真チビターレに比べるとやや成長している段階ではあるものの、それでも3cmほどと小さく、オレンジ色が鮮やかなチビチビだ。
これでこの時フィッシュアイレンズ装備だったりしたら、ワタシの地団駄はマグニチュード8.4くらいの地震を発生させていたことだろう。
マクロレンズ装備だったおかげで地震も津波も発生させずに済み、写真を撮ることができたイッポンテグリ・チビターレ2018は、イッチョマエに背ビレを威勢よくピーンと前に傾けながら、足のように変化しているヒレでジリジリと這い進んでいた。
全体的にオレンジが目立つ模様だけれど、このくらいまで成長した子の尻ビレは、極チビとはいささか趣が異なっている。
激チビターレの白無垢状態とは違い、なにげにセクシャルバイオレット(尾ビレの下側も同じような色になっている)。
ジッとしているときには尻ビレは滅多に広げないようなので、尻ビレのセクシャルバイオレットはシークレット・バイオレットでもあるのだった。
これにて過去25シーズン(2020年1月現在)において、都合3匹のチビターレと出会ったことになる。
かつての若魚のように、チビターレラッシュ!なんて日が来たりしないかなぁ…。
淡い期待を抱きつつ、またの再会を待つとしよう。