全長 100cm(写真は魚体5cmほどの幼魚)
光物系の魚たちは、子供時代を外洋を漂う何かに寄り添いながら過ごすものが多い。
そのため普段のダイビングでは、滅多なことでは出会えない光物系の幼魚たち。
でも風のいたずらで、ふとしたはずみで桟橋周辺にたどりつく幼魚たちもいる。
イトヒキアジの幼魚は、漂う何かに寄り添うというよりも、自らが漂う何か(クラゲのフリ?)になりきることでサバイバル生活をしているようながら、彼らもやはり風のいたずらで桟橋周辺に入り込んでいることがある。
ただし風だってそうしょっちゅういたずらばかりしているわけじゃないから、桟橋周辺でイトヒキアジの姿を見かけたのは、これまでの26シーズン(2020年現在)で数えるほどしかない。
最後に出会ったのはいつのことだったろうか。
おりしもこのお魚コーナーにて光物系の魚たちに注目をしていたこともあって、イトヒキアジの幼魚に久しぶりに会いたいなぁ…と朧げに考えていた2020年の7月のこと。
7月だというのにコロナ禍&連休前でゲストの予約がポッカリ空いていたある日、いつものように朝早めに潜りに行こうと桟橋に来てみると、うちのボートを停めているあたりにイトヒキアジの幼魚の姿が。
このチャンス、逃すまじ。
すぐさまウェットスーツを着て、満潮時を幸いに桟橋からドボンとエントリーして撮影を……
…と思ったら、フィンやマスクをはじめ器材はすべてボート上に置いたままにしてあるのだった。
ボートを桟橋に寄せている間に、イトヒキアジは逃げてしまうかもしれない。
それではあまりにもカナシイから、とりあえず桟橋上から水面越しにコンデジでパシャ。
泳いでいると長く尾を引く特徴的な背ビレと尻ビレが彗星のよう。
魚体自体は5cmに満たないほどながら、ヒレも入れたら相当長い。
前述のとおり過去に何度か同じように桟橋脇で目にしたことはあっても、水面越しであれなんであれ、写真に残せたのはこれが初めてのこと。
とりあえず人生初記録を残すことができたので、ボートを桟橋に寄せることにした。
その後オタマサに桟橋上から位置を確認してもらいつつ、3点を装着してカメラを手にして海に入り、オタマサの指さすほうへ。
イトヒキアジが波打ち際にいれば絵になるかも…と思っていたのだけれど、あいにく大潮の満潮時のこと、波打ち際は攪拌された砂で白く濁っていて何も見えない。
しかしイトヒキアジはワタシのことが見えるらしく、気配を察知するや逃げの態勢に入った。
おかげで白濁ゾーンを脱出。
追いかけるワタシ。
イトヒキアジ、意外に速い。
…というか、ウェットスーツを腰までしか着ていなかったために、やたらと抵抗が大きくてしんどい……。
それでも一定の範囲を動き回るだけだったから、ともかくもこれまた人生初の「海中でイトヒキアジ」。
ヒレを全部写真の中に収めると魚体が小さくなるから、いったいどんな形をしているのか、小さな写真ではわかりづらい。
そこで魚体だけアップ。
特徴的な背ビレ尻ビレの糸引き具合いもさることながら、スタビライザーのような役目をしているのか、左右に長く張り出している腹ビレもカッコイイ。
先刻水面越しに桟橋上から撮った場所あたりにいるところを海中から見ると……
空を行く飛行機みたい。
ちなみにこのたなびく糸状のヒレは、泳いでいるからこそこのようにピンッとまっすぐになっている。
なのでイトヒキアジが停まると……
乱れ髪。
泳いでいれば……
流れ星。
オトナになるとこの長い長い上下のヒレは短くなって、ニコラス・ケイジのような顔つきのアジになるイトヒキアジは、成長すれば1mくらいになるという。
そこまで大きくはないものの、イトヒキアジのオトナらしき面長のガーラにも何度か会っている。
その姿にはもう、かつて流れ星だった面影は微塵も無いのだった。
※追記(2020年10月)
上記にてさんざん「人生初記録」と騒いでいたというのに、ひょんなことから発掘された昔々のコンデジ写真の画像フォルダのなかに、こういう写真もふくまれていた。
桟橋脇の波打ち際にいた、数cm足らずのチビチビイトヒキアジを撮る某有名海洋写真家の図。
これだと思いっきりワタシは撮影の邪魔をしているポジションだけど、これはこういう写真を撮るためにわざとカメラを構えてもらっているところだから誤解なきよう…。
きっと彼の作品の中にこの時の写真が残されているだろう(ただし当時はまだフィルム)。
このころはフィルム用のハウジングがワタシのもオタマサのも使用不能になっており、かといってデジイチ器材を買い揃えるゆとりもなかったから、低性能のコンデジでショボショボと写真を撮っていた。
がんばって撮ってもちゃんと撮れない画像の保存に注ぐ熱意はぬる燗よりも冷酒に近く、それから長い年月を経た現在、「ひょんなこと」がないと発見できない事態に陥っている。
今回の「ひょん」でたまたま発掘した画像ファイルに記録されているデータを見ると、撮影したのは2006年9月のことだったらしい。
こういうネタは間違いなく「最近のログ(当時の当サイト日記コーナーのタイトル)」にて紹介していただろうけれど、その頃はまだサイト上にアップしてもその日かぎりでこの世から消え失せるオンリーワンデー日記だったから、14年も経てば記憶も記録も忘却という名の銀河の彼方に消え失せてしまっていた。
というわけで14年ぶりの帰還を果たしたイトヒキアジチビターレ、おかげで今年の写真が「人生初」ではないことが明らかになってしまったのだった。